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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

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作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

澤田瞳子:イメージ第262回: 澤田瞳子さん2010年に奈良時代が舞台の『孤鷹(こよう)の天』で小説家デビュー、以来さまざまな時代、さまざまな切り口の時代・歴史小説を発表、明治から大正を舞台にした『星落ちて、なお』で2021年に直木賞を受賞した澤田瞳子さん。実は幼い頃から大変な読書家で、授業中にも本を読んで叱られていたのだとか。膨大な読書遍歴の一部と、歴史ものに興味を持ったきっかけや、プロデビューの経緯などおうかがいしました。

その6「デビュー後の読書生活」 (6/8)

なれのはて
『なれのはて』
加藤 シゲアキ
講談社
2,145円(税込)
山ぎは少し明かりて
『山ぎは少し明かりて』
辻堂 ゆめ
小学館
1,870円(税込)
創竜伝1超能力四兄弟
『創竜伝1超能力四兄弟』
田中芳樹
らいとすたっふ
銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)
『銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)』
田中 芳樹,星野 之宣
東京創元社
880円(税込)
火定(かじょう) (PHP文芸文庫)
『火定(かじょう) (PHP文芸文庫)』
澤田 瞳子
PHP研究所
968円(税込)

――デビュー後の読書生活に変化はありますか。

澤田:やっぱり読める時間が減ったのは残念ですね。わたしはまだ書き手であるより読み手でいたい気分がどこかにあるんです。読む量が落ちたのはちょっと悔しい。

――とはいえ相当読まれていますよね。新刊もチェックされているそうですし。

澤田:出版社さんがいろんな新刊を送ってくださるので、嬉しくなって次々読みますね。先日も東京創元社さんからミステリーをいただいて、嬉しくて仕事そっちのけで読んでしまいました。あと時々、「どうしてこの本をくださるんだろう?」と思う書籍が届くこともあるんですが、そういう本は自分じゃ絶対に手に取らないので、ありがたく拝読します。ただ今年の3月いっぱいまで、朝日新聞の書評委員をやらせていただいているので、なかなか「この本面白かったよ!」とSNSなどではご紹介がしづらくて。4月以降は読んだ本のことをもっとあちらこちらに書こうと思っています。
わたし、書評委員にしていただいた時に、夢が叶っちゃったと思ったんです。というのは、小さい頃から本だけを読んで暮らしていきたかったんですよ。書評委員になって、本を読んでお金がいただけるという意味で夢が叶って、それはすごく嬉しかったです。

――東京創元社から送られてくるのは、海外ミステリーですか?

澤田:いえ、日本のミステリーでした。歴史ミステリーも最近はいろいろありますよね。伊吹亜門さんのお作とか、平家ものを書いていらしゃる羽生飛鳥さんとか。
このところミステリーに限らず、近現代の歴史的事象を扱う小説が増えた印象があります。この先、歴史小説の一部はゆるやかにそちらと溶け合っていくのかもなと考えています。加藤シゲアキさんの『なれのはて』もそうだし、朝日新聞の書評にも書いた辻堂ゆめさんの『山ぎは少し明かりて』は令和を生きる女子大学生と、そのお母さんとおばあちゃんの話で、おばあちゃんのパートは戦前くらいから平成くらいまでの通史でもあるんですよ。女三代記であると同時に、歴史ものだなと思いました。歴史を歴史として切り取るというより、個人史として切り取るような作品は今後増えていくと思います。

――東京創元社で思ったんですけれど、SFって読みますか。

澤田:新井素子さんや星新一さんはよく読んでいましたが、どこかで線を引いているようです。わたし、菅浩江さんのSFは読むんですけれど、メカものとかはあまり読まないですね。田中芳樹さんも『創竜伝』は読んだけれど『銀河英雄伝説』は読めていない。名作だと言われるので、いつか読もうと思って、とってあります。

――歴史・時代小説家でとりわけお好きな方はいますか。あらゆる方の作品を読んでいらっしゃいそうなので難しい質問な気がしますが。

澤田:そうですね、杉本苑子さん、吉村昭さん......。滝口康彦さんも好きだったんですが、お亡くなりになったので当然新作が供給されないし......。池波正太郎さんもテレビで「鬼平犯科帳」が始まった時に原作があると聞いて、他のお作も含めて全部読みましたし......。この分野の主だった作品は、ほとんど読んでいるとは思います。

――資料としてノンフィクションは読まれますか。

澤田:仕事においてはオリジナルにあたりたいので研究書は読みますけれど、ノンフィクションとかレポ的なものはそんなに読まないです。ただ、ありがたいことに書評委員のお仕事で自然発生的にノンフィクションも手に取るようになり、このジャンルも面白いなと思っているところです。

――いろんな時代のいろんな人物をいろんな切り口で書かれていますが、毎回どのように着想を得ているのですか。

澤田:「これはなんでそうなったのだろう」という疑問ですかね。たとえば、昨日も編集者さんたちと話していたんですけれど、鎌倉時代から室町時代にかけて古墳の盗掘がすごく増えるんですね。藤原定家も随筆にそのことを書いている。でもなんの技術もない時代にどうやって盗んでいたんだろうって思うんです。どういう人たちが盗んだのかすごく興味があって、これって小説にならないかなと思っています。自分が知りたいから書くところがあります。

――趣味の読書も仕事の研究書も含めて、蔵書が大変なことになっているのではないかと。

澤田:そうなんですよね。でも大学にまだ所属しているので、大学図書館を使わせていただいてもいるんです。それはとても助かっています。

――澤田さんが今でも大学で働き続けているのは、図書館が利用できたり教授に質問できるということもあると思いますが、以前、小説家として甘やかされて、そこに溺れて他のことが見えなくなるのが怖い、ともおっしゃていましたよね。

澤田:はい。出版社さんと仕事していると、小説家って大事にされるじゃないですか。それはよくないと思うんですよ。

――ここまでご活躍されていて、そう思い続けておられるとは。

澤田:だから作家の自覚が乏しいんですよね、まだ。結局そこに帰結しますね。

――プロになってから、同じように歴史について書かれている作家さんと交流も増えたのではないですか。

澤田:そうですね。中山義秀文学賞をいただくと、前の年の受賞者が授賞式にプレゼンターで来てくださるんですよ。それで前回受賞者の上田秀人さんとお近づきになり、わたしの次年にご受賞の西條奈加さんと親しくなりました。その3年後に義秀賞20回の集いがあった時、西條さんの次にご受賞の天野純希さんとも仲良くなり、西條さんと天野さんの3人でよく遊んでいます。それと、亡くなられた葉室麟さんが京都にお仕事場をお持ちだったので仲良くさせていただきました。そのご縁で朝井まかてさんと東山彰良さんとも親しくさせていただいています。
でも、会っても自分たちの小説の話なんてしないですよ。西條さんと天野さんと集まった時は、天野さんイチオシのZ級映画の話をしたりしています。面白かった映画や小説や旅行の話で盛り上がったり。

――旅行もよく行かれるのですか。

澤田:はい。半分仕事で飛び回っているところがありますが、遠くに行くのは好きです。なので講演会に呼ばれたら、前泊後泊して、その近辺をうろうろしています。

――講演会のテーマって、やはり歴史関連が多いわけですか。

澤田:先さまの要望に応じて、いろいろです。感染症研究所のシンポジウムや関東大震災を書くというテーマの座談会にも登壇しますし......。

――ああ、感染症に関しては、澤田さんは『火定』で天平の世のパンデミックを書かれていますよね。謎の疫病、実は天然痘が流行って、その治療に当たる医師たちがいて、混乱に乗じて悪だくみする人たちがいて......という。地震というか災害については光文社の「小説宝石」で富士山噴火の話、『赫夜』を連載されている。

澤田:そうです、そういう繫がりですね。『赫夜』は夏に刊行する予定です。

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