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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

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作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?
そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

門井慶喜さん:イメージ

第192回:門井慶喜さん

その5「作家になる前・なった後」(5/5)

今年1月、『銀河鉄道の父』で第158回直木賞を受賞した門井慶喜さん。受賞作は宮沢賢治の父親にスポットを当てた物語。他にも、美術や建築などを含め歴史が絡む作品を多く発表している門井さん。その礎を築いたのはどんな読書体験だったのだろう。

我らが隣人の犯罪 (文春文庫)
『我らが隣人の犯罪 (文春文庫)』
宮部 みゆき
文藝春秋
529円(税込)
銀河鉄道の父
『銀河鉄道の父』
門井 慶喜
講談社
1,728円(税込)

――卒業後は実家に戻られて。

門井:はい。実家から近いところに就職しました。ただ、その頃はもう作家になろうと決めていました。気づいたら「作家になろう」と思っていたので、特にきっかけはないんですね。すぐに書き始めたわけではなく、それは卒業してから3年くらい経ってからじゃないかなと思います。

――その間、何か準備されていたとか?

門井:いいえ。学生時代から作家になるつもりでいて、原稿を1枚も書いていないくせに、ならないほうをイレギュラーに感じていたんですね(笑)。ようやく卒業する時に「これはひょっとしたら原稿を書かないと作家になれないのではないかな」と思い始め、それでも2、3年は書かなかったわけです。まあ、意識してたくさん読んではいたんですけれど。新人賞に応募したらすぐ最終候補には残ったので、2、3年ではなくもっと後かもしれません。

――応募するにあたって、現代作家の作品を読んだりはしなかったのですか。

門井:その賞の受賞作なんかは読みました。オール讀物推理小説新人賞に応募した時には、その賞の先輩作家に宮部みゆきさんがいらして、当時選考委員でもあったので、宮部さんのデビュー作はもう何度も読み返して研究しました。『われらが隣人の犯罪』ですね。

――研究して、どんなことが分かりましたか。

門井:当たり前ですけれど、伏線ですね。今作った言葉でいうと、「大伏線」と「中伏線」と「小伏線」の使い方とか。「大伏線」というのは、最後にどんでん返しでストーリーそのものが変わっちゃうための準備。「小伏線」というのは、たとえばヒーローとヒロインが「さよなら」って別れる時に、その前のシーンに「こんにちは」っていうシーンを置いておいて、「さよなら」の味わいをより深めるというような、シーンの印象を深めるようなもの。まあ、今急に考えたのであまりいい喩えじゃないですけれど。そういう伏線の使い方はすごく分かりました。

――小説を書き始めた時、最初からミステリを書いていたのですか。

門井:いいえ、新人賞に合わせて書いていました。「オール讀物」に出す時は推理小説、日本ファンタジーノベル大賞に応募する時はファンタジー、というふうに。ファンタジーの主人公はシェイクスピアでしたけれど。

――ミステリを書くために現代のミステリ作品を読んだりはしませんでしたか。

門井:ミステリは綾辻行人さんの「館シリーズ」にものすごく影響を受けました。でも、あれと同じものはどう考えても書けないので、僕が書く時にはもうちょっと古典的な、コナン・ドイルや赤川次郎系のものにしようと思いました。赤川さんが古典的というのは、トリックの点でいわゆる新本格ではない、という意味です。
結果としては「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞して、それが僕にとって一番最初に雑誌に掲載された作品になりますが、その時につけてくださった挿絵が峰岸達さんの絵でした。まさに僕が赤川次郎作品でよく見ていた方だったので、あれはとても嬉しかったですね。

――デビューしてからの生活に変化はありましたか。

門井:短篇デビューなので、その日で劇的に変わるということはありませんでした。一篇一篇書いて編集部に出すという点はまったく同じでした。それが僕の場合はよかったと思います。

――著作を拝読していると、相当数の資料本にあたっているんだろうなと思います。直木賞受賞作の『銀河鉄道の父』も、決して資料がたくさん残されていたわけではない宮沢賢治の父親をクローズアップした作品ですし。最近の読書は資料中心なのでないかな、と。

門井:そうなんです、今は残念なことに資料を読むことに追われることが多いですね。でも資料ですので、1冊の本を最初から最後まで読むということがあまりないんですね。ほしい情報は決まっていますから。その代わり、1冊じゃなくて沢山の本に当たって裏を取ることをしなければならない。1冊の本よりたくさんの本で、クロスチェックするという作業なので、果たしてそれを読書と言っていいのか、僕自身も疑問なんですが。読書というよりリサーチかもしれない。

――1日のサイクルは決まっていますか。

門井:ほぼ決まっていますね。朝4時に起きて4時半に仕事部屋に行きます。自宅があって、道を挟んで反対側に仕事部屋を借りているんです。7時に1回仕事を終わらせて家に戻り、子どもたちと朝ごはんを食べ、彼らを送り出してから、7時50分くらいから昼寝をします。ちょっと寝てから起きて、後はずっと仕事部屋です。少しずつ休みを取りながらですけれども、夕方6時までは基本、そこにいます。散歩に出たりはしますけれど、だいたいパソコンに向かっているか、資料を読んでいるかですね。

――ちなみに作家デビューしてから読んだ本で面白かったものはなんでしょう。

門井:人名事典です。

――え?

門井:とにかく読んで止められなくなるのが『講談社 日本人名大事典』と『朝日 日本歴史人物事典』。人名事典はいろいろ使いましたが、最終的に使うのは講談社と朝日のもので、戦後のものでは最高です。1人あたり5、6行で簡潔に略歴が書いてあるだけなんですけれど。人によっては写真や参考文献もあります。これは「あ」行から読んでも面白いですよ(笑)。略歴を見た時に「この人何した人だろう」と思うんですよね。戦前は海軍のいいところまで昇進した人が、戦後にホテルの支配人になっていたりする。何があったのか、すごく想像力が鍛えられますよね。これなら僕、「通読しろ」と言われたらできます(笑)。それはたぶん、ある程度自分が大人になって世の中が分かってきて、肩書や職業面からいろいろ想像できるようになったからだと思います。

――最後に、今後の執筆については。今、直木賞受賞後でなかなか執筆時間を取る暇もないと思いますが...。

門井:最近、ふたつ連載を始めました。ひとつは「別冊文藝春秋」で「空を拓く」というタイトルで、建築家の辰野金吾の話を連載しています。現在の東京駅などを設計した人物ですね。もうひとつは「yom yom」の「地中の星」という連載。これは地下鉄銀座線を開通させた、早川徳次とそのプロジェクトに関わった人たちの話になります。
直木賞受賞後は確かに執筆以外で忙しくしていますが、楽しいですよ。それに、そういう経験をしておくと、やっぱり自分は小説を書きたい人間なんだと改めて分かりました。変な言い方ですけれど、それはちょっと、安心しました(笑)。

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