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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

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作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

澤田瞳子:イメージ第262回: 澤田瞳子さん2010年に奈良時代が舞台の『孤鷹(こよう)の天』で小説家デビュー、以来さまざまな時代、さまざまな切り口の時代・歴史小説を発表、明治から大正を舞台にした『星落ちて、なお』で2021年に直木賞を受賞した澤田瞳子さん。実は幼い頃から大変な読書家で、授業中にも本を読んで叱られていたのだとか。膨大な読書遍歴の一部と、歴史ものに興味を持ったきっかけや、プロデビューの経緯などおうかがいしました。

その4「昼食代を節約して本を買う」 (4/8)

胸に棲む鬼 (講談社文庫)
『胸に棲む鬼 (講談社文庫)』
杉本苑子
講談社

――大学の学部や専攻はどのように選ばれたのですか。

澤田:学んだのは、文学部文化史学専攻です。ただ本当は神学部に行きたかったんですよ。自分の知らないことを知りたかったので。ところが就職の口がないということと、学年からこの学部には何人という推薦枠が決まっていて、神学部の枠が少なかったんです。自分より成績がいい人が何人か希望すると落ちてしまう。わたしはあまり勝負に出るタイプではないですし、文化史は幅広く文化全般が学べると聞いたので、そこに行きました。
地学もいいなと思っていたんです。プラネタリウムの脚本を書くために中国の星座を調べたりしていたこともあって、地学の成績はよかったんです。でもうちの大学は地学系の学部がなくて。努力するのがあまり好きではないので、外部の大学をわざわざ受けようという考えもなかったです。

――そういえば前にインタビューした時に、長野まゆみさんもお好きだとおうかがいしましたよね。

澤田:はい。天体好きなので。天体や地学の興味とそこが結びつくんです。長野さんはずっと四六で買っているので、デビューされてすぐの頃から読んでいます。

――文化史学は面白かったですか。

澤田:そうですね。知らないことを知るというところで知識欲は満たせました。ゼミは古代が中心でした。たまたま親しくなった院生の人に古代は資料が少ないから調べものが楽だよって勧誘されたんですよね。後からそれは嘘だったなと思いましたけれど。
卒論は仏教制度の役所の話をやりました。仏教そのものじゃなくて、仏教を取り巻く仕組みのほうに興味がありました。
大学に入ってから、小説は以前ほどは読めなくなってしまいましたね。本の話をする友達が減ってしまったのは残念でした。「DO BOOK」がなくなってしまったのも痛かった。そこから一人で本を探すようになります。インターネットにいろんな書誌情報が出るようになるまで少し時間が空くので、こまめに本屋さんに行って棚を見ていました。それは今でも続いています。

――この人の新刊は必ず買う、という作家は。

澤田:昔も今も、数え切れません。

――アルバイト代も本につぎ込む感じだったのでしょうか。

澤田:他にお金をかけていませんでしたから、本しか買っていませんね。わたし、いまだにノーメイクなんです。化粧品って高いじゃないですか。口紅1本で文庫が3冊買えるぞ、って思っちゃうと、メイクが後回しになる。大学では、生協の書籍部で一割引きで本が買えるのは嬉しかったですね。お昼ご飯代もケチって本を買っていました。今でも憶えているのは100円のベーグルです。栄養バランスもなにもあったものじゃないですけれど、お腹は膨れたので、残ったランチ代で文庫を買いました。
わたし、本は繰り返し読むので手元に置いておきたいんですよ。なので図書館がうまく利用できないんです。図書館で借りて読んでいいなと思ったら買う、という方も多いですけれど、わたしにとって図書館の代わりが古本屋さんでした。

――大学では能楽のサークルに入られたそうですね。それも知らないことを知りたかったからですか。

澤田:そうなんです。高校の時に観に行く機会があったんですけれど、全然面白くなくて。でも芸能としてずっと続いているってことは、何か面白いことがあるんじゃないか、やってみたら面白いんじゃないかと考えて入部しました。確かに自分がやってみたら面白かったんですが、どう面白いのか人に説明するのはなかなか難しいですね。

――能に関する本を読んだりしましたか。

澤田:それでいうと、これも中学生の頃でしょうか。杉本苑子さんの『胸に棲む鬼』という短篇集を読んで、杉本さんのお作にはまったんですよね。それまで日本の歴史をテーマにした歴史小説って、あまり面白くないと思っていたんです。しかし杉本さんは視点が登場人物に大変近いので、こんな書き方あるのかと関心を持ちました。その中で杉本さんが宝生流のお能をお稽古なさっていたと知って、へえ、お能って習うことができるんだと感じました。能楽部に入るきっかけの一つは、多分、そこにもあります。
それとわたしは皆川博子さんが大好きなんですけれど、皆川さんの『変相能楽集』という、お能をテーマにした幻想短篇集があるんです。これも自分でお能を稽古し始めると、最初に読んだときとは違う印象を持つようになり、面白かったです。

――ああ、皆川博子さんがお好きなんですね。

澤田:大好きです。皆川さんのお作だと『朱鱗の家』という、皆川さんが文章を書いて、岡田嘉夫さんがイラストを描いた本があるんです。今は文庫も出ているようですが、わたしはそれをきらびやかな装幀の四六で読みました。見開きにイラストがあって、間にちょっとずつ文章があるんです。もう本を抱きしめちゃうぐらい好きでしたね。いや、今でも大好きです。皆川さんはたしかミステリー作品から読み始めて、幻想系を手に取り、近代の物語を手に取り。今は大先輩としても、心から尊敬申し上げています。

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