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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

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作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

澤田瞳子:イメージ第262回: 澤田瞳子さん2010年に奈良時代が舞台の『孤鷹(こよう)の天』で小説家デビュー、以来さまざまな時代、さまざまな切り口の時代・歴史小説を発表、明治から大正を舞台にした『星落ちて、なお』で2021年に直木賞を受賞した澤田瞳子さん。実は幼い頃から大変な読書家で、授業中にも本を読んで叱られていたのだとか。膨大な読書遍歴の一部と、歴史ものに興味を持ったきっかけや、プロデビューの経緯などおうかがいしました。

その3「最初に書いた作品は」 (3/8)

姑獲鳥の夏(1)【電子百鬼夜行】 (講談社文庫)
『姑獲鳥の夏(1)【電子百鬼夜行】 (講談社文庫)』
京極夏彦
講談社
建築探偵桜井京介の事件簿 未明の家 (講談社文庫)
『建築探偵桜井京介の事件簿 未明の家 (講談社文庫)』
篠田真由美
講談社
ふしぎ遊戯(1) (フラワーコミックス)
『ふしぎ遊戯(1) (フラワーコミックス)』
渡瀬悠宇
小学館
闇のパープル・アイ〔小学館文庫〕 (1) (小学館文庫 しA 1)
『闇のパープル・アイ〔小学館文庫〕 (1) (小学館文庫 しA 1)』
篠原 千絵
小学館
618円(税込)
北斗の拳 1巻
『北斗の拳 1巻』
武論尊,原哲夫
コアミックス
SLAM DUNK 新装再編版 1 (愛蔵版コミックス)
『SLAM DUNK 新装再編版 1 (愛蔵版コミックス)』
井上 雄彦
集英社
660円(税込)
クォ・ヴァディス1(復刻版)
『クォ・ヴァディス1(復刻版)』
藍 真理人,シェンキェヴィチ
女子パウロ会
660円(税込)

――部活はなにかされていましたか。

澤田:文芸部で、ただ本の貸し借りをするという部活でした。創作も少しはやりましたが、ガチでプロを目指すみたいな雰囲気ではなかったです。先ほどわたしが読書感想文を代筆した友人は童話コンクールで賞を獲ったりしていたので、じゃあなんでわたしが代筆したのか......。

――澤田さんが創作したのは、現代ものですか。

澤田:現代ものです。わたし、大人になってからはじめて創作してボツになったのも、実は現代ミステリーなんです。やってみて分かったんですけれど、現代もの、特にミステリーを書くにはすごく緻密な頭が要るのに、わたしは思考が短期的なんだと思います。これは向いていないなと思いました。なので現代ものは読むことに特化しています。

――あ、ミステリーを書かれたんですか。

澤田:そうですね、読んでいるものを真似るというか。わたしが10代の頃は新本格がすごく流行っていたいたんですよね。その後どんどん細分化されてついていけなくなったんですけれど、高2の時に京極夏彦さんが『姑獲鳥の夏』でデビューなさって、同じ月に篠田真由美さんの建築探偵桜井京介の事件簿シリーズの『未明の家』が刊行されたんです。どちらも「これは絶対に面白いはず」と嗅覚が働いて、すぐに書店で手に取りました。二冊ともすごく面白かった。それと小野不由美さんが好きだったこともあって、綾辻行人さんのお作も自然と手にとるようになりました。他に、社会派ミステリーも、自分が知らないお仕事が出てきたりするし、こういう人間っているんだなと発見があるのが好きでした。昔から、知らないことを知りたい、というところがありました。
わたしが中高生の頃って、バブルははじけたけれど出版界はまだ景気がよくて、日本ファンタジーノベル大賞のほかに新潮ミステリー倶楽部賞が始まって、それらを全部四六で買うってことを自分に課していた時期があったんです。途中で破産しそうになってやめたんですけれど。あの頃にいろんな作品に出合えたのはめちゃくちゃ幸せでしたし、もともとわたしは読み手としてはミステリーや現代ものが好きなので、多感な時期にそれらの作品を読めたのは今でも財産になっています。
それと、高校の時はもうひとつ、「プラちゃんスタッフ」という、プラネタリウムの運営スタッフをやっていました。学校の中にあるプラネタリウム室を使って、生徒が作った独自プログラムを文化祭の時などに放映するという有志団体なんです。そこでわたしは脚本を書いていたんですよ。もしかしたら最初に人前に出た文章はそれかもしれないです。

――プラネタリウムの脚本ですか。

澤田:はい、今でもプラネタリウムに行くと、「秋の星座の物語」とか「夏の大三角を見てみよう」とか放映されるでしょう? ああいうのを真似て自分たちで書くんです。わたしが書いた中でも印象深いのは、2000年前の中国の空を見てみましょうという結構マニアックな内容でした。夏休みに宿題を放り出し、様々な星座の本を借りてきて調べていましたね。当時学校で流行っていたコミックの一つに、渡瀬悠宇さんの『ふしぎ遊戯』というお作がありまして。古代中国の星座がモチーフになっていたんです。そこから着想を得たプログラムですね。ありがたいことに、なかなか好評でした。

――漫画だと、他にどんな作品を読んでいたのですか。

澤田:中2の時だったでしょうか、篠原千絵さんの『闇のパープル・アイ』が爆発的に流行りました。1セットの漫画が、クラス中で飛び回っていましたね。
ただ女子校だったせいか、少女漫画の知識はすごくあるのに少年漫画の知識はがばっと抜けています。大人になって同世代の作家と話した時、「人生で大事なことは全部『北斗の拳』で学んだ」って言われたんですが、わたし、まったく分からなくて。小6くらいの時からアニメがものすごくヒットしていたのに、私立の女子校に入ってしまったので知らないままだったんです。『SLAM DUNK』もすごい名作と噂だけ聞きながら読んでいなくて、コロナ禍の最中にやっと読みました。

――ところで、京都で生活していると歴史的なことにも触れる機会が多かったのでしょうか。よく地元に住んでいる人間ほど地元の名所には行かないとも言いますが。

澤田:名所には行かなかったですね。学生の頃は歴史的なものにはあまり関心はなかったかもしれません。

――では小さい頃から歴史好き、ということはなく?

澤田:あんまりないですね。でも知らないことを知りたいので、歴史の授業には強かったです。それに私立だったせいか、歴史の授業がすごくマニアックだったんですよ。特に中学2年生の時の世界史の授業は、1学期が古代エジプトで2学期が古代ギリシャ、3学期は古代ローマで、ゲルマン人の大移動で1年が終わるというものでした。でも、それがすごく面白かったですね。あの頃はイタリア半島にちゃんと都市が書き込めましたもん。高校でも世界史の授業でフランス革命を1日刻みでやる先生がいたりして。
後に分かったことなんですが、わたしが習った世界史の先生たちは古代ローマ史がご専門でした。古代ローマを舞台にした映画や小説も教わって、それでヘンリク・シェンキェヴィチというポーランドの作家が書いた『クォ・ヴァディス』という小説があると知ったんです。映画化もされていて、昔の天然色パノラマでエキストラ何万人、という感じの作品です。小説の方の副題に「ネロの時代の物語」とある通り、ネロの親衛隊のローマ人の青年とキリスト教徒の女性の恋愛を軸に、背景にネロの治世下で起きたキリスト教迫害やローマの大火災が配されています。歴史的背景に基づくメロドラマと言ってもいいかもしれません。それを授業で教わり、映画を先に観て小説も読んで、すごく遠い時代の話もこんなに面白くなるんだ、ということに関心を持ったのを憶えています。今でもお薦めの本を訊かれると『クォ・ヴァディス』を挙げています。

――海外小説が苦手といっても、読まれていますね。

澤田:あれ、確かにそうかも。興味さえ持てれば何でも読めるもので。海外のものも、創元推理文庫などはかなり読みました。ヒッチコックの映画を観て原作があるというのでデュ・モーリアの「鳥」(『鳥 デュ・モーリア傑作集』所収)を読んだり、幻想文学の流れで吸血鬼の本を読みはじめたりという。

――歴史・時代小説で、他に好きだったものはありますか。

澤田:あの分野に関心を持つきっかけになった作家さんとして、森雅裕さんとおっしゃる、東野圭吾さんと江戸川乱歩賞を同時受賞された方がいるんです。中学生の時だと思います。その方の『ベートーヴェンな憂鬱症』という、音楽家のベートヴェンの一人称のミステリーを読み、衝撃を受けました。デビュー作の『モーツァルトは子守歌を歌わない』というモーツァルトの死の謎をベートヴェンが解き明かす物語とともに、森さんのお作は歴史背景がしっかりしたミステリーで、歴史をこんなに面白い物語にできるのかと衝撃を受けましたね。シリーズの表紙が摩夜峰央さんのイラストで、今でも大好きな作品です。

  • 鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M テ 6-1)

    『鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M テ 6-1)』
    ダフネ デュ・モーリア, Daphne du Maurier, 務台 夏子
    東京創元社
    1,100円(税込)

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