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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

WEB本の雑誌

作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?
そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

相場英雄さん:イメージ

第189回:相場英雄さん

その3「キーパンチャーから経済記者へ」(3/7)

ミステリー『震える牛』がベストセラーになり、その後も話題作を発表し続けている相場英雄さん。新作『トップリーグ』も政界の暗部に切り込むリアルなミステリー。エンターテインメントに徹する著者はキーパンチャーから記者になり、さらに漫画原作を手掛けるなどユニークな経歴の持ち主。その人生の道のりで読んできた本、そして小説家になったきっかけとは?

相場:東京に出て新聞配りながら英語の専門学校に行っていたので、ほぼ寝る時間がなくて、本はあんまり読んでなかったですね。その当時はロックしか聞いていませんでした。漠然と将来は自分の親父の工場を継ぐんだなっていう意識はあったんですよ。でも学校出た時に会社がなくなっちゃったんで、帰るところがなくなっちゃったんです。それで東京でフラフラしていた時にたまたま求人広告で時事通信のキーパンチャーの中途採用の仕事を見つけまして。1988年の年末だったかな。面接に行ったらバブル時代だったんで人手不足で、そのまま入っちゃったんですよね。
 キーパンチャーで7年内勤をやって、途中から編集企画みたいなのをやり始めました。というか、勝手に自分で仕事を作っていったんですけれど。

――そういうことができる環境だったんですか。

相場:上司に恵まれていたんでしょうね。すごくやりやすいようにしてくださる上司がいっぱいいました。みなさん今は大学教授になっていますけれど。

――ご自身でも「もっとこういうことやればいいのに」という企画が頭に浮かんできたわけですよね。

相場:そうです。ちょうど過渡期だったんですよ。時事通信って新聞やテレビ向けに情報をわーっと配信する配信事業のほかに、金融機関の株式とか為替とかが出るモニタあるじゃないですか。そこに配信するニュースの編集専門部署があったんです。僕、そこの配属だったんで、この為替の画面の横に為替専門のニュースだけ出すサイトを作ったらいいんじゃないかとか、そういう企画をやっていました。そのへんの働きもたぶん、経済部の人が見ていたんでしょうね。金融危機の直前だった頃に「人手が足りないから、ちょっとあいつ寄越せ」となって、日銀記者クラブというとんでもないところに配属されたんです。

――大抜擢じゃないですか。

相場:はい、大抜擢だと思います。同じような職種から地方の記者になるのは何人かいましたけれど、いきなり経済部の主戦場、日銀記者クラブって。いろんな人たちのジェラシーがすごかったですね。「あいつ、パンチャー上がりだからさ」って。で、仕事してくると「あいつコソコソやってネタ引いてるらしいぜ」って、もう全部聞こえてくるんですよ。

――その頃の読書といいますと。

相場:仕事関係の本は、書泉グランデさんの専門書の棚でデリバティブ原理の本とか、1冊5000円の原書とか買うわけですよ。分からないところを自分なりにメモを作って、当時の日本興業銀行とかのディーラーさんとか経営企画の人に「しつもーん」とか言ってほぼ毎日行きました。「これどういうことですか」って。そうしていると「時事通信に変な記者いるよ」って言われて、あちこちの人を紹介してもらえるようになって。
だからずっと原稿書いたりメモ取ったりで、あとは自由になるのは耳しか残ってないので、ヘッドホンでひたすらロックを聴いていました。あとはもう睡眠時間も限りなく怪しかった。

――どんなロックを聴くんですか。

相場:ストーンズとかザ・フーとか、ブルース・スプリングスティーンですとか。ゴリゴリな王道なロックです。でもプログレッシブロックも聴くし、ブルースも聴きますし、かなりの雑食性です。

――趣味の本を読む時間はないですね。

相場:若手なので「夜回り行け」と言われたら行かなきゃいけないですし。20年前って金融機関が死ぬ時の法律がなかったんですよ。死なないものだと思われていましたから。国が守るという大前提のもと、性善説で行政も民間も回っていたので、銀行の資金繰りがおかしくなるなんてみんな思っていなかった。でもおかしくなるんですよ。で、銀行は社会のインフラだから、きれいに死なせなきゃいけない。でもその法律がなかったんですね。なので、すごいパニックになった。記者クラブではみんながライバルなので、他社のできる社員がふっと2、3日いなくなると、無茶苦茶怖いんですよ。「げ、なんかスクープ出すんじゃねえ」って。ということで、無茶苦茶すり減りました。

――ちょうど激動の時代を見てきたってことですよね。

しんがり 山一證券最後の12人 (講談社+α文庫)
『しんがり 山一證券最後の12人 (講談社+α文庫)』
清武 英利
講談社
972円(税込)
石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの
『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』
清武 英利
講談社
1,944円(税込)

相場:そうですね。まさしく渦の真ん中にいました。元讀賣新聞の清武英利さんのノンフィクション『しんがり 山一證券最後の12人』とか、『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』みたいな感じで書くならネタになりそうなエピソードがいっぱいあったと思います。金融機関の生命維持装置のボタンを握っている人物が通う居酒屋で、姿が見えないようカウンターでちびちびビール飲んで待って、そろそろ相手がトイレ行きそうだなという時を見計らって先にトイレの個室に入っておいて、相手が来たら出ていって「あ、偶然ですね」っていってつかまえる(笑)。そういう泥臭いことやってました。

――ちなみに相場さんが内向的でなくなったのはいつくらいなんですか。記者になってからですか?

相場:いや、高校の時に話し相手がすごくできたんですね。一応田舎の進学校で、ロック好きな奴もいるし、映画好きな奴もいるし。やっと共通言語で話せる友達が周りにできて安心しました。というのを今思いだしました(笑)。

――あ、人心掌握術を身に着けたのは記者時代の前なんですか。

相場:ああ、それは新聞配達の時ですかね。高校で、朝毎讀、産経さんの奨学生担当の人が営業に来て、すごくいい人だったんで配達を始めたんです。で、部数の多い新聞なら1丁目だけで500部配れるけれど、少ないと500部配るのに1丁目から8丁目から行かなきゃいけない。そこでいかに狭いエリアで部数をあげるかを考えるわけです。集金とかに行く時に、商店街のおばちゃんに「あの子はいい子だから、もうちょっと取ってあげよう。スポニチでいい?」とか言ってもらえるように。じゃないと回り切れないので。
 会社も過酷なところに入ってしまったので、やっぱり知恵を使わないといけませんでした。日銀の主要な課長さん、局長さんをカバーしろと言われて、1日2回挨拶しに行ったり、世間話をしに行ったりするんですよ。その時に見ていると、他の記者で偉そうな奴って結構いるんですよ。秘書さんに怒鳴ったりする奴。そこで考えたのが、ウエスト作戦ですよ。

――はてウエストとは。

相場:ウエストっていう洋菓子屋さんがあるじゃないですか。あそこのでっかいシュークリームを3つくらい買って、こそっと秘書さんのカウンターの下で渡すんですよ。「止めてください」と言われても「生モノだから持って帰れないんで」って。そこからコネクションを作っていきました。親分、つまり上司が出張でいない時にランチに誘って、まったく業界に関係ない、週刊誌の記者とか連れていって雑談するんです。そうやって仲良くなっていくと、次第に秘書さんも局長の奥さんの悪口とか言い出すんですよ(笑)。それがすっごく面白かったですね。そのへんからですね、日本一座持ちのいい作家の礎ができたのは。

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