もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。
第70回:小川哲さん
- ブロッコリー作戦の行方
- <プロフィール>
小川哲(おがわ・さとし)
1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。『ゲームの王国』(2017年)が第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。『地図と拳』(2022年)で第13回山田風太郎賞、第168回直木賞を受賞。
今月の図書カード3万円お買い物は小川哲氏が登場! 日頃よく行く紀伊國屋書店新宿本店で、おすすめ内部数値をチェックしたり大森望帯を鑑定したりしつつ買った本はこれだ!
(2023年5月22日 於紀伊國屋書店新宿本店)
小説家になると、ごく稀に「こんなことでお金を貰ってバチが当たらないかな」という仕事をすることができる。今回の図書カード企画はそのうちの一つだ。他人の図書カードで好きな本を買い、さらには原稿料までもらえるなんて、こんなこと許されるんですか──みたいな冒頭文を書いたのは僕だけじゃないんだろうな。でも本当に、こんなに美味しい仕事は珍しいんです。
とはいえ、やはりお金を稼ぐためにはそれ相応の対価がある。この企画の対価とはつまり、僕がどんな本を買っているのか丸裸になってしまうことだ。たとえるならば、スーパーの買い物カゴの中身を見られる恥ずかしさに近い。あまり同意されたことがないのだけれど、僕は買い物カゴから自分の思考を読み取られることを恥ずかしいと思っている。たとえば豚肉、玉ねぎ、にんじん、カレー粉なんかをカゴに入れてレジへ向かう。並んでいるうちに、「このままだとレジ係に『こいつ、今からカレーを作るつもりだ』と思われてしまう」と怖くなり、カゴにクリームシチューのルウやブロッコリーを加えて迷彩を施す。これでカレーかシチューかわからないだろう、と。ちなみにこのブロッコリーのことを僕は個人的に「フェイクブロッコリー」と呼んでいる。
この企画もそうだ。普通に欲しい本を買っていけば、僕がどういう本を好んでいるのか丸わかりになってしまう。だからどこかに──たとえば「法医学大全」や「アルベルトゥス・マグヌス全書」みたいな、そんな本があるか知らんけど──「フェイクブロッコリー」を混ぜこんでいきたい。そうすれば僕のプライバシーも保たれるはず。
というのをメインの戦略にしつつ、やってきたのは紀伊國屋書店新宿本店。日本のすべての編集者がパブラインを通じて売上に注目することでも有名な大型書店だ。かくいう僕も、頻繁に利用させてもらっている。いつもありがとうございます。
リニューアル後の紀伊國屋書店新宿本店の回り方はいつも決まっている。まず1階をチェック。1階には雑誌の他に、よく売れている本が置かれている。自分の本があるかも確認するけれど、それ以外の本もぼんやり見る。ふむふむ、今はこんな本が売れているのか。
小川哲さんが図書カードNEXTで購入した本
著書 | 著者/出版社 | 価格(税込) |
---|---|---|
『フィールダー』 | 古谷田奈月/集英社 | ¥2,090 |
『俺が公園でペリカンにした話』 | 平山夢明/光文社 | ¥2,640 |
『記憶に残っていること』 | 堀江敏幸編/新潮社 | ¥2,090 |
『アウグストゥス』 | ジョン・ウィリアムズ、布施由紀子訳/作品社 | ¥2,860 |
『話の終わり』 | リディア・デイヴィス、岸本佐知子訳/白水uブックス | ¥1,980 |
『ガルシア=マルケス中短篇傑作選』 | ガブリエル・ガルシア=マルケス、野谷文昭編訳/河出文庫 | ¥1,320 |
『優等生は探偵に向かない』 | ホリー・ジャクソン、服部京子訳/創元推理文庫 | ¥1,430 |
『NOVA〈2023年夏号〉』 | 大森望責任編集/河出文庫 | ¥1,320 |
『2016年の週刊文春』 | 柳澤健/光文社未来ライブラリー | ¥1,540 |
『時間は存在しない』 | カルロ・ロヴェッリ、冨永星訳/NHK出版 | ¥2,200 |
『Newton別冊 最新宇宙大事典250』 | ニュートンプレス | ¥1,980 |
『ワンルームから宇宙をのぞく』 | 久保勇貴/太田出版 | ¥1,980 |
『もっとホワット・イフ? 地球の1日が1秒になったらどうなるか』 | ランドール・マンロー、吉田三知世訳/早川書房 | ¥1,980 |
『Remember 記憶の科学 しっかり覚えて上手に忘れるための18章』 | リサ・ジェノヴァ、小浜杳訳/白揚社 | ¥2,970 |
『時間の終わりまで 物質、生命、心と進化する宇宙』 | ブライアン・グリーン、青木薫訳/講談社ブルーバックス | ¥1,980 |
合計 15冊 ¥29,975 |
それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。