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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第65回:早見和真さん

カッコいい本を求めて
<プロフィール> 早見和真 (はやみ・かずまさ)
1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、『ザ・ロイヤルファミリー』で2019年度JRA賞馬事文化賞と第33回山本周五郎賞を受賞。『店長がバカすぎて』で2020年本屋大賞9位。『あの夏の正解』で「2021年Yahoo!ニュース│本屋大賞ノンフィクション本大賞」ノミネート。他の著書に『スリーピング・ブッダ』『95(キュウゴー)』『ぼくたちの家族』『笑うマトリョーシカ』『かなしきデブ猫ちゃん』(かのうかりんとの共著)『八月の母』など。

 今月は早見和真さんが図書カード3万円お買い物に挑戦!吉祥寺写真集から古いぬいぐるみの本、魔術の書に筋トレ指南書まで、出会いとひらめきをテーマに買った14冊を見よ!
(2022年5月23日 於ブックス ルーエ)

 大学生の頃、「忙しい」ことを理由に本を読まなくなった大人が嫌いだった。
 本に限らず、音楽も、映画も、美術も、舞台も、旅なんかも一緒だ。若い頃に触れたカルチャーについては嬉々として語るのに、実際にいま何を読み、観て、聴いて、どこを旅しているのかといった話になると、彼らは途端に「もうそんな時間はないからさ」と、やりづらそうな笑みを浮かべていた。
 絶対にそんな大人にはなるまいと、下北沢で、高円寺で、三軒茶屋で誓い合った友人たちは、みんな立派に大人になった。家庭を持ち、仕事に追われ、山手線の内側であの頃より少しだけいいお酒をのみながら、照れくさそうに日々の忙しさについて口にする。そして、あの頃に浴びるように触れた文化の話で盛り上がる。
 もちろん自分もその輪に加わりながら、心のどこかがモヤモヤしている。彼らに対して言いたいことがあるわけじゃない。それどころか本を読めないほど毎日をめまぐるしく生きているなんて、あの頃の自分たちを振り返れば感動的なことでさえある。モヤモヤはすべて自分に対するものである。
 おそらく友人たちよりも本には多く触れている。デスクには常に10冊以上の本が積まれていて、3、4冊を並行して読んでいる。しかし、それは仕事のために読まなければならない、あるいは読んでおいた方がいいと思うものばかりであって、友人たちが資料に目を通したり、会議に参加したりするのとそう違いはない。
 書店とのつき合い方もすっかり変わった。いまは目当ての本を求めて行くか、売れ線の並ぶ平台を眺めるのがせいぜいだ。一日中店をうろつくなんてなくなったし、だから思わぬ出会いを果たすこともほとんどない。あの頃なら出会えたのに、いまの自分には探し出すことのできない本がごまんとあるのだろう。そう理解していても僕は「忙しい」ことを理由にして、結局読まなければいけない本を優先している。
 そんなモヤモヤを感じていた矢先、本の雑誌社から依頼があった。図書カード3万円使い放題企画。むろん、一も二もなく飛びついた。どんな本を購入すべきか、自分に課したのは2つだけだ。1つは、べつにいますぐ読まなくてもいい本であること。もう1つは、持っているだけでワクワクするようなカッコいい本であること。
 不埒な理由であると承知はしているが、隠さずに言うなら、学生の頃の自分はそういう本の選び方もしていた。そこにあるだけで友人たちから感心されるような、あるいは女の子にモテてしまうようなオシャレな本を、さりげなく、かつこれみよがしに棚の最前列に並べていた。そして意外にもそういった本こそが、いまの自分の血肉になっていたりもする。パスカル・キニャールしかり、ウィリアム・クラインしかり、ねこぢるしかり......。誰もかれもいまの自分には見つけ出すこともできないだろう。
 幸いにもこの春に引っ越しをしたばかりであり、本棚がまだぴたりと定まっていない時期だった。とくにリビングには面陳できるスペースが12箇所もあり、そこに並べる本を買おうと心に決めた。
 当時の自分が足繁く通った店の中から、吉祥寺のサンロード商店街にある〈ブックス ルーエ〉を選んだ。決して広くない店舗でありながら、土地柄もあってか選書のセンスが良く、オシャレなお客さんも多い気がする。つけ加えるなら、『店長がバカすぎて』を書くことを決めたときにひっそり取材した店でもある。

早見和真さんが図書カードNEXTで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『うつりゆく吉祥寺 鈴木育男写真集』 鈴木育男/ぶんしん出版 ¥2,750
『古いぬいぐるみのはなし』 田村ふみ湖/産業編集センター ¥2,200
『daily PASTA book 鎌倉オステリアコマチーナのパスタとつまみ81皿』 亀井良真/KADOKAWA ¥2,090
『魔術の書』 DK社編、池上俊一監修、和田侑子、小林豊子、涌井希美訳/グラフィック社 ¥4,180
『麻雀技術 守備の教科書 振り込まない打ち方』 井出洋介、小林剛/池田書店 ¥1,320
『見るだけ筋トレ』 和田拓巳/青春出版社 ¥1,452
『東京の喫茶店』 ぴあ ¥1,080
『観葉植物図鑑』 渡辺均監修/日本文芸社 ¥2,090
『ものがたりの家 吉田誠治美術設定集』 吉田誠治/パイ インターナショナル ¥2,420
『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々』 グレッグ・ジラード、イアン・ランボット、尾原美保訳、吉田一郎監修/イースト・プレス ¥3,850
『日本の路地』 パイ インターナショナル編著/パイ インターナショナル ¥2,035
『日本の小さな本屋さん』 和氣正幸/エクスナレッジ ¥1,980
『美術手帖』2022年4月号 美術出版社 ¥1,760
『旅する小舟』 ペーター・ヴァン・デン・エンデ/求龍堂 ¥3,080
合計 14冊 ¥32,287

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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