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第65回:早見和真さん

カッコいい本を求めて
<プロフィール> 早見和真 (はやみ・かずまさ)
1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、『ザ・ロイヤルファミリー』で2019年度JRA賞馬事文化賞と第33回山本周五郎賞を受賞。『店長がバカすぎて』で2020年本屋大賞9位。『あの夏の正解』で「2021年Yahoo!ニュース│本屋大賞ノンフィクション本大賞」ノミネート。他の著書に『スリーピング・ブッダ』『95(キュウゴー)』『ぼくたちの家族』『笑うマトリョーシカ』『かなしきデブ猫ちゃん』(かのうかりんとの共著)『八月の母』など。

購入書籍No.   1234567891011121314

【1】『うつりゆく吉祥寺 鈴木育男写真集』(ぶんしん出版)
【2】『古いぬいぐるみのはなし』(産業編集センター)

『うつりゆく吉祥寺 鈴木育男写真集』『古いぬいぐるみのはなし』

 入り口に足を踏み入れると、文芸やノンフィクションの棚には目もくれず、それぞれのコーナーを見て回った。そして、その一角で一番カッコいいと思う本を選んでいった。地元本のコーナーでは『うつりゆく吉祥寺 鈴木育男写真集』を、キルティングのコーナーでは『古いぬいぐるみのはなし』(田村ふみ湖・著)をといった具合である。
 中身はパラパラとめくる程度しか確認しなかった。それでもワクワクする本が多かった。「さすがルーエ。欲しい本ばっかりあるよね」と、同行してくれた担当編集者に何度言ったかわからない。

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カゴは瞬く間に埋まっていった。今日のテーマは出会いとひらめきだと、基本的には迷いなくカゴにぶち込んでいったが、頭をひねらせたコーナーが2箇所あった。
 1つは、レシピ本の一角。和食、洋食、中華、フレンチの、いったいどのジャンルがオシャレなのかという感覚がそもそも僕にはない。好きなのは和食であるけれど、そういうことではないだろう。おいしそうなお寿司が表紙の料理本に、粋は感じても、スタイリッシュさは抱けない。いや、たとえばこの本がニューヨークの古いアパートメントの一室に気負いなく置かれていたりしたら、とんでもなくオシャレに見えたりするのだろうか? いやいや、俺の家はニューヨークの古いアパートメントではないわけで......。

【3】『daily PASTA book 鎌倉オステリアコマチーナのパスタとつまみ81皿』(KADOKAWA)

『daily PASTA book 鎌倉オステリアコマチーナのパスタとつまみ81皿』

 そんなことを延々と考えた末に、最終的にカゴに詰めたのは『daily PASTA book 鎌倉オステリアコマチーナのパスタとつまみ81皿』(亀井良真・著)という本だった。クリーム系のパスタにそっとレモンが添えられた写真の表紙。なんのかんのとこの本を選んだ理屈をこねたのを覚えているが、単純にこのとき一番食べたかったものを選んだのではないかという気がする。この一角にいるだけでお腹が減った。

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【4】『魔術の書』(グラフィック社)

『魔術の書』

 頭を悩ませたもう1つは、魔法の類いのコーナーだ。普段はいっさい足を運ぶ場所ではなく、いよいよ何がイケているのか見当もつかなかったが、胸の弾む本が多かった。
 表紙に雰囲気を感じさせる何冊かをパラパラとめくり、最終的に選んだのは『魔術の書』(池上俊一・監修)というシンプルなタイトルの、4千円を超える1冊だ。いつもの自分なら絶対に入手することのない、今回の企画の象徴的な本と言えるだろう。いつか自分が『ハリー・ポッター』的な幻想的な物語を書く日が来るとしたら、きっかけはおそらくこの本であるはずだ。

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【5】『麻雀技術 守備の教科書 振り込まない打ち方』(池田書店)

『麻雀技術 守備の教科書 振り込まない打ち方』

 大満足の買い物を終えても、まだ少しだけお金の余裕があるという。ならば......と足を運んだのは、当初の企画からは激しくブレるが、麻雀と筋トレのコーナーだった。
 どちらも理由は明確だ。麻雀の方は、派手に攻めて派手に振り込むという自らの弱点を顧みて、『麻雀技術 守備の教科書 振り込まない打ち方』(井出洋介、小林剛・著)を手に取った。

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【6】『見るだけ筋トレ』(青春出版社)

『見るだけ筋トレ』

 筋トレの方にも出会いがあった。元来が出不精で、ジムに通う気力はなく、でも引っ越しをしたこのタイミングで身体を鍛えたいと思いながら、なんらやる気が湧いてこない。
 そんな僕にうってつけの1冊と巡り合うことができたのである。
『見るだけ筋トレ』(和田拓巳・著)
 ああ、すごい。さすが令和だ。時代はここまで来ているのだ。この本を眺めているだけで、上腕二頭筋が、大胸筋が、腹直筋が、内転筋がみるみると盛り上がる─。そんな自分の姿がハッキリとイメージできた。

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【7】『東京の喫茶店』(ぴあ)
【8】『観葉植物図鑑』(日本文芸社)
【9】『ものがたりの家 吉田誠治美術設定集』(パイ インターナショナル)
【10】『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々』(イースト・プレス)
【11】『日本の路地』(パイ インターナショナル)
【12】『日本の小さな本屋さん』(エクスナレッジ)
【13】『美術手帖』(美術出版社)
【14】『旅する小舟』(求龍堂)

『東京の喫茶店』『観葉植物図鑑』『ものがたりの家 吉田誠治美術設定集』『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々』『日本の路地』『日本の小さな本屋さん』『美術手帖』『旅する小舟』

 家に戻ると、早速(最後の2冊は棚にしまって)12冊を面陳した。部屋の色が一気に変わった。ようやくリビングが息吹いた気がした。
 いますぐ読まなくていい本を買いそろえたはずだったが、結局は僕自身が興味を抱いて買い求めたものばかりだ。買い物企画からわずか2週間ほどの間に、結局あらかたの本を読んでしまった。具体的には重厚感がハンパじゃない『魔術の書』以外は一通り目を通してしまった。
 それでも、ワクワクは治まらない。いまは家中のイケている本をあちこちから引っ張り出してきては、面陳する本をとっかえひっかえしている。こんなふうな本とのつき合いは久しぶりだ。そう言えば僕にとって本は、おもしろく、タメになり、そしてカッコいいものでもあった。
 ちなみに『見るだけ筋トレ』は、もちろん見ているだけで筋肉が盛り上がってくるというものではなく、筋トレの最中に鍛えている部分を見て、意識せよという内容でした。
 初心者向けで、わかりやすく、とてもいい本です。
 ひとまずこの出会いを信じてみようと心に決めて、僕は2キロのダンベルを買ってきました。

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