もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。
第57回:松井今朝子さん
- コロナ禍のお買い物
- <プロフィール>
松井今朝子(まつい・けさこ)
1953年京都市生まれ。早稲田大学大学院文学研究科演劇学修士課程修了。松竹を経て故・武智鉄二氏に師事、歌舞伎の脚色、演出、評論などを手がける。1997年、『東洲しゃらくさし』で小説家デビュー。同年に『仲蔵狂乱』で第8回時代小説大賞、2007年『吉原手引草』で第137回直木賞、2019年『芙蓉の干城』で第4回渡辺淳一文学賞受賞。その他の著書に『円朝の女』『師父の遺言』『料理通異聞』『縁は異なもの』『江戸の夢びらき』などがある。
今月の図書カード3万円お買い物コーナーは松井今朝子さんが挑戦!能面の写真集からメルケルの著作まで、思い出の書店で買った18冊はこれだ!
(2020年8月11日 於銀座教文館)
3万円分の本が買い放題!ああ、今じゃなきゃ即決だけど、一応わたしは高齢者だしなあ......と迷いに迷ったくらい、東京のコロナ禍が深刻に報じられた時期に降って湧いたお仕事である。読まれる頃には笑い話になっていてほしい。
それでも銀座のど真ん中にある教文館での買い物を選択したのは、ここが東京で初めて入った本屋さんだったからだ。
京都の祇園町に住む少女が生まれて初めて独りで入った本屋さんは、四条河原町の交差点に近い、今はなき海南堂だ。教文館と同じく繁華街らしいコンパクトな佇まいの書店だったので、わたしはそこに並んだ本をいつか全部読んでやろうとマジで思っていた。読書好きの少女はそんな妄想が抱けるほどに、何もかもがツーマッチではなかった時代のお話である。
当時のわたしにこの仕事が降って来たら、それこそ狂喜乱舞したに違いないが、今や3万円分の本を読むのに、さて、何日かかるだろうか......。ベッドで横になるとたちまち睡気を催す年齢が恨めしいばかりだ。
教文館とのご縁が始まったのは半世紀以上前の中学生の頃で、京都から東京に来て歌舞伎座の帰りに立ち寄ったのが最初である。
小6で歌舞伎のある女形のファンになり、東京や名古屋にまで追っかけをしていたおかしな少女にとって、ここの一角に古典芸能関係の書籍がずらっと並んでいたのはとても魅力的だった。当時は1階の入ったすぐのところにそのコーナーがあったように思うが、何しろ半世紀以上も昔の記憶だから自信はない。
そもそも当時からそんなコーナーがあったのかどうかも怪しい気がするくらいだけれど、わたしの中ではやはり歌舞伎座と教文館が分かちがたく結びついている。歌舞伎座を出るといつもまっすぐ銀座四丁目の交差点まで歩き、教文館の前からタクシーで東京駅を目指したのは確かだ。
それ故この仕事も最初はコロナ禍を押して再開場した歌舞伎座の八月公演を観た帰りに立ち寄るつもりだったのに、報道の情報にびびって結局は現在住む埼玉の大宮から新幹線に乗り、東京駅と銀座四丁目をタクシーで速攻往復するはめになった。恐ろしいほどガラガラの銀座通りを横目で見ながら。
事ほど左様に、コロナ禍で舞台芸能は大打撃を被っているはずだし、出版界はともかく本屋さんの痛手も大きかろうと案じられるのは、わたし自身この仕事で久々にリアル書店を訪れたからでもあった。
松井今朝子さんが図書カードNEXTで購入した本
著書 | 著者/出版社 | 価格(税込) |
---|---|---|
『能面花鏡』 | 大月光勲/求龍堂 | ¥5,500 |
『文楽の研究』 | 三宅周太郎/岩波文庫 | ¥836 |
『続・文楽の研究』 | 三宅周太郎/岩波文庫 | ¥836 |
『能・文楽・歌舞伎』 | ドナルド・キーン、吉田健一、松宮史朗訳/講談社学術文庫 | ¥1,375 |
『現代語訳 歌舞伎名作集』 | 小笠原恭子訳/河出文庫 | ¥1,320 |
『男の絆の比較文化史 桜と少年』 | 佐伯順子/岩波現代全書 | ¥2,750 |
『新東京文学散歩 漱石・一葉・荷風など』 | 野田宇太郎/講談社文芸文庫 | ¥1,650 |
『新東京文学散歩 上野から麻布まで』 | 野田宇太郎/講談社文芸文庫 | ¥1,650 |
『大東京繁昌記 下町篇』 | 講談社文芸文庫編/講談社文芸文庫 | ¥1,870 |
『大東京繁昌記 山手篇』 | 講談社文芸文庫編/講談社文芸文庫 | ¥1,870 |
『東京の昔』 | 吉田健一/ちくま学芸文庫 | ¥1,045 |
『完訳フロイス日本史』〈3〉~〈7〉 | ルイス・フロイス、松田毅一、川崎桃太訳/中公文庫 | ¥6,075 |
『回勅ラウダート・シ ともに暮らす家を大切に』 | 教皇フランシスコ、瀬本正之、吉川まみ訳/カトリック中央協議会 | ¥1,540 |
『わたしの信仰 キリスト者として行動する』 | アンゲラ・メルケル、フォルカー・レージング編、松永美穂訳/新教出版社 | ¥2,530 |
合計 18冊 ¥30,850 |
それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。