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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第56回:村田沙耶香さん

桃色の箱の誘惑
<プロフィール> 村田沙耶香(むらた・さやか)
 1979年千葉県生まれ。2003年「授乳」で群像新人文学賞優秀作、09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年『コンビニ人間』で芥川賞を受賞。他の小説に『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』『生命式』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』など、またエッセイに『きれいなシワの作り方 淑女の思春期病』『私が食べた本』などがある。

 今月の図書カード3万円お買い物コーナーは村田沙耶香さんが挑戦!洋書に英訳漫画に英英大辞典、心理学の本からとどめの限定箱入り源氏物語まで、どーんと購入した8冊はこれだ!
(2020年6月8日 於丸善丸の内本店)

 久しぶりの、外での仕事だった。
 3万円分の本を買う。最初にそう依頼が来たときは、少しびっくりした。そして、怖気づいた。
「本屋さん」は私にとって、心の中の秘密の世界が外部に接続する瞬間を与えてくれる、とてもプライベートな場所だ。どこのフロアに行くか、どの言葉に惹かれるか、本屋に入るまで気が付かなかった自分の深層心理と向き合うようで、本を物色しているだけでも、自分という人間の「今」が炙り出される気持ちになる。
 なので、私は本を買うときに誰かと本屋へ行くということはない。そんな私が、お仕事とはいえ素直に買い物ができるか、最初はちょっと自信がなかった。
「たっぷり時間はあるんで、一日いてもいいですよ」
『本の雑誌』の松村さんが優しく言ってくれたが、さすがに一日付き合わせては申し訳ない気がして、ノープランで来てしまった私は焦った。
「洋書コーナーへ行ってもいいですか?」
 おそるおそる聞いた。何か一冊、洋書を買いたい、と漠然と思っていた。私は、英語をほとんど喋ることができない。2年近くレッスンを受けているが、ぎりぎり挨拶ができるかできないか、というくらい酷い。海外で作家さんに会い、もっと深い話がしたいと思っても、天気の話くらいしかできずに終わることが多い。
 英語で一冊、本を読めたらいいなあというのは、昔からの憧れだ。英会話のレッスンでは最初、カミュの『異邦人』の英語版を読もうということになったが、私にはレベルが高すぎて、ママンのお葬式の場面から永遠に抜け出すことができなくなり、気が狂いそうになった。先生が「もっと簡単なテキストにしよう」と、簡単な英語で書かれた勉強用の本を何冊か買ってきてくださって、今はそれで勉強している。けれど、いつかは大人用の洋書を、とあこがれ続けているのだった。
 丸善丸の内店の洋書コーナーは想像よりずっと広くてびっくりした。仕事で外国へいくと、私は必ず本屋さんへ行く。洋書コーナーの棚を眺めていると、そのときのことを思い出す。あいうえお順で作家を探すのに慣れているので、あ、あの作家の本はどこだろう、と思っても、すぐに探すことができない。

村田沙耶香さんが図書カードNEXTで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『Alice's Adventures in Wonderland / Through the Looking-Glass』 Lewis Carroll/Penguin Classics ¥2,860
『The First Bad Man』 Miranda July/Canongate Books ¥2,277
『Ayako』 Tezuka Osamu、 Morimoto Mari訳/Vertical ¥4,389
『コリンズ英英大辞典 (改訂第13版)』 桐原書店編集部/桐原書店 ¥7,480
『わかりやすいパーソナリティ心理学』 榎本博明/サイエンス社 ¥2,530
『源氏物語』限定箱入り(全三巻セット) 角田光代訳/河出書房新社 ¥11,550
合計 8冊 ¥31,086

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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