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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第51回:小野寺史宜さん

八重洲ワンダーランド
<プロフィール> 小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞。2008年『ROCKER』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し、単行本デビュー。他の著書に『ひりつく夜の音』『リカバリー』『ひと』『それ自体が奇跡』『本日も教官なり』『太郎とさくら』『夜の側に立つ』『ライフ』「みつばの郵便屋さん」シリーズなど多数の著作がある。

 今月の図書カード3万円お買い物コーナーは小野寺史宜氏が登場!買いたいものリストを手に、八重洲ブックセンターを地下一階から8階まで上って下りて選んだ"この先何度も読み返せる本"26冊は何だ!?
(2019年5月10日 於八重洲ブックセンター本店)

 ヤバい、と思った。カッコをつけなければならん、と。
 3万円分の図書カードで好きな本を買っていいという。何を選んでもいいという。
 うれしいが、結構な難題だ。本の雑誌といえば、まさに本の雑誌。読者は心から読書を愛しておられるかたばかりだろう。初めて会った相手に、好きな映画は何ですか? と訊かれているようなもの。ヘタな答は出せない。ここはカッコをつけ、名も知らぬ出版社から出ているフィンランドあたりの作家の翻訳小説を買ったりしなければならない。
 訪ねる書店さんはどこでもいいとのこと。それはすぐに決まった。自動的にポンと出た。八重洲ブックセンターさん(以下敬称略)だ。
 子どものころ、本屋はどんなに大きくてもワンフロアに収まるはず、と思っていた。それが。東京駅の前に、ドーン!八重洲ブックセンターはデカかった。センターを名乗るだけのことはあった。感心した。地下1階から地上数階まで全部本て、何だよ。夢じゃねえかよ。ワンダーランドじゃねえかよ。
 初めて行ったのは小学生のとき。本本本本本本本本。圧倒された。中学生で再訪したときもまだ圧倒された。そこで買うだけで本に価値が出るような気がした。高校生のときは、受験用の問題集をわざわざ買いに行った。そして近所の書店でも買えたはずの薄っぺらいそれを買って帰ってきた。往復の電車代が問題集代を超えていた。
 大学生のときは、頻繁に行った。用がなくても行った。申し訳ないが、ただトイレを借りたりもした。1階からエスカレーターで上り、最後に階段で文庫階へ。それが散策ゴールデンコースとなった。
 これまで僕は、二つの小説に八重洲ブックセンターを実名で登場させている。一つでは、まさに受験生が問題集を買いに行く。もう一つでは、何と、店内で、男が友人の妻を尾行する。
 そこまでなじみがある書店さんなのだから、そりゃ、名前がポンと出てしまう。そこで本を買いたくなる。
 やはり子どものころ、森永小枝チョコレートは僕にとって最上級のお菓子だった。初めて食べたときは、こんなにうまいものがあるのか、と感動し、大人になったら死ぬほど食ってやる、と誓った。でも人生はうまくいかない。いざ大人になってみると、小枝を買う程度のお金は稼げたものの、チョコレート自体がそんなに好きでもなくなっていた。
 ただ、本は別。今も好き。大人になったら死ぬほど買ってやる。その誓いを、本の雑誌さんの力を借りて実行できることになった。
 さあ、どうするか。と、ここで最初のあれがきた。ヤバい。カッコをつけなければならん。
 困った。フィンランドの作家は、トーベ・ヤンソンさんぐらいしか知らない。
 でも。ムーミンシリーズの大人買いは悪くないかもしれない。ムーミン谷は好きだし、確か全集も出てたはず。
 大人買いというその言葉だけが残った。大人買い。何とも魅力的な言葉だ。
 八重洲ブックセンターは広い。ダラダラ見ていたら、本を選ぶのにどれだけ時間がかかるかわからない。付き添ってくださる本の雑誌社のかたに、はい、アウト、打ち切りです、と言われるかもしれない。
 そこでプランを立てた。
 事前に買いたいもののリストをつくる→地下1階から始め、順に上へ行く→各階で、リストに挙げたものの在庫があるかをチェックする→8階に到達したところで最終決定→本を買物カゴに入れつつ、下りてくる。
 リストは簡単に仕上がった。
 恥ずかしながら言ってしまうと。僕の部屋には本がない。本当に、自分の小説の見本ぐらいしかない。物を持ちたくないのだ。だからリストの基準は、この先何度も読み返せる本、にした。結果、ほとんどが一度は読んだことがあるものになった。
 で、当日の午後2時。八重洲ブックセンターにて、本選びスタート。
 まずは地下1階。地図のコーナーとスポーツのコーナーを見る。江戸と東京の重ね地図にいきなり魅せられる。ハマりそうなので、それはまたの機会にと流す。サッカーの本とボクシングの本もざっくり視察。
 4階。地理のコーナーで、好きな銀座関連のものを探す。
 5階。おそらくはここがメイン。単行本や文庫本の在庫をチェック。
 8階。ユトリロの画集でもあればと美術のコーナーを掠め、コミックのコーナーにあった『マカロニほうれん荘』全9巻に大いに惹かれつつ、音楽のコーナーへ。狙っていたセロニアス・モンクの本を見つけ、安堵。
 一時間半強で、任務は完了した。

小野寺史宜さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『セロニアス・モンク 独創のジャズ物語』 ロビン・ケリー、小田中裕次訳/シンコーミュージック・エンタテイメント ¥3,996
『ハックルベリー・フィンの冒けん』 マーク・トウェイン、柴田元幸訳/研究社 ¥2,700
『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』 リング・ラードナー、加島祥造訳/新潮文庫 ¥766
『コルタサル短篇集 悪魔の涎・追い求める男 他8篇』 コルタサル、木村榮一訳/岩波文庫 ¥842
『城』 フランツ・カフカ、池内紀訳/白水uブックス ¥1,620
『ダブリナーズ』 ジェイムズ・ジョイス、柳瀬尚紀訳/新潮文庫 ¥680
『ワインズバーグ、オハイオ』 シャーウッド・アンダーソン、上岡伸雄訳/新潮文庫 ¥637
『雪沼とその周辺』 堀江敏幸/新潮文庫 ¥464
〈新訳シャーロック・ホームズ全集〉全9巻 アーサー・コナン・ドイル、日暮雅通訳/光文社文庫 ¥6,817
〈フロストシリーズ〉全9巻 R・D・ウィングフィールド、芹澤恵訳/創元推理文庫 ¥11,923
合計 26冊 ¥30,455

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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