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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第26回:伊東潤さん

思い出の書店で
<プロフィール> 伊東潤(いとう・じゅん)
1960年、神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学卒業。『国を蹴った男』(講談社)で第34回吉川英治文学新人賞、『黒南風の海――加藤清正 「文禄・慶弔の役」異聞』(PHP研究所)で第1回本屋が選ぶ時代小説大賞、『義烈千秋 天狗党西へ』(新潮社)で第2回歴史時代作家クラブ 賞(作品賞)、『巨鯨の海』(光文社)で第4回山田風太郎賞と第一回高校生直木賞を受賞。最新刊に『天地雷動』(KADOKAWA)

「こんな夢のような仕事があるのか」と思っていた仕事が回ってくることほど、うれしいことはない。
 正直、新聞や雑誌に何がしかのことを書けば、さほど苦労せずとも3万円くらいはもらえるのだが、現物支給というのは、口座に振り込まれる現金よりも、なぜかありがたさを倍増させる。
 今回、ご訪問した有隣堂伊勢佐木町本店様は、私が物心ついた頃から通い詰めた書店さんである。
 母によると、私は3歳の頃、「何か一つ買ってあげる」と言われると、向かいにあった野澤屋や松屋といったデパートのおもちゃ売り場を回った末、必ずと言っていいほど、「ゴン」と言って絵本を買ってもらう子供だったという。
 中学時代、友人と遊ぶ予定も部活もない日曜は、必ず有隣堂に行った。本を買ってから、近くにあった名画座のニューテアトルや横浜日劇で映画を観るのが楽しみだった。
 生まれて初めてのデートは高1の時(中高一貫の男子校だったので遅いのです)。関内の東宝会館で封切り洋画を見た後(ジェームス・コバーンの『スカイ・ライダーズ』)、有隣堂の地下にあった喫茶室に行った。当時、町中に腐るほどあった純喫茶は、総じて照明が暗く、少年には、たいへん敷居が高かったからである。
 彼女と向き合い、震える手でコーヒーカップを持ちつつ、偉そうに映画について語ろうとしたわけだが、語るべきものがないトホホな映画で、いたく閉口したことを覚えている。その時、格好をつけて初めて飲んだブラックコーヒーの味は苦かった。
 結局、このデートの後、簡単に振られたわけだが、今でも選んだ映画のせいだと思っている。それ以来、ジェームス・コバーンは嫌いである。
 今、その思い出の喫茶室は辞書売り場となっている。
 長じて後も、なぜか有隣堂の前に立つとわくわくする。それだけ子供の頃から通っていた書店さんには、多くの本から得た喜びが詰まっているからだろう。

 人は読書を通じて作家の世界観を知り、自分の世界観を形成させていく。それは若い時だけでなく、いくつになっても同じはずだし、そうでなければならない。
 何物にも影響を受けない堅牢な世界観を持つ人は、一見、素晴らしいと思われるかもしれないが、見方を変えれば、頑迷固陋な「くそじじい」にすぎない。
 それゆえ私は、自分より若い人の作品からも影響を受けて世界観を変えていく。「こんな考え方もあるのだな」というのを見つけるのも読書の喜びである。
 だから今回も、あえて様々なジャンルから様々な形態の本を選んだ。

伊東潤さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『笑う警官』 シューヴァル&ヴァールー、柳沢由実子訳/角川文庫 ¥884
『皆殺し映画通信』 柳下毅一郎/カンゼン ¥1,814
『レンズが撮らえた幕末日本の城』 小沢健志、三浦正幸監修、來本雅之編著/山川出版社 ¥1,944
『横浜ノスタルジア 昭和30年頃の街角』 横浜開港資料館編/河出書房新社 ¥2,592
『カメラが撮らえた神奈川県の昭和』 新人物往来社編/新人物往来社 ¥1,944
『フェルメールへの招待』 朝日新聞出版編/朝日新聞出版 ¥1,296
『マカロニ・ウェスタンBEST SELECTION 50』 民岡順朗編著/近代映画社 ¥2,376
『図説満鉄「満洲」の巨人』 西沢泰彦/河出書房新社 ¥1,944
『図説写真で見る満州全史』 太平洋戦争研究会編、平塚柾緒/河出書房新社 ¥1,944
『カメラが撮らえた勤王派と佐幕派幕末の志士』 『歴史読本』編集部編/ビジュアル選書 ¥1,728
『ドキュメント太平洋戦争全史』 上下 亀井宏/講談社文庫 ¥1,511
『冷血』 T・カポーティ、佐々田雅子訳/新潮文庫 ¥1,015
『牢人たちの戦国時代』 渡邊大門/平凡社新書 ¥864
『呆韓論』 室谷克実/産経セレクト ¥950
『鯨人』 石川梵/集英社新書ノンフィクション ¥842
『東郷平八郎 読みなおす日本史』 田中宏巳/吉川弘文館 ¥2,592
『消えた横浜娼婦たち 港のマリーの時代を巡って』 檀原照和/データハウス ¥1,836
『アグルーカの行方』 角幡唯介/集英社 ¥1,944
『幕末維新と佐賀藩 日本西洋化の原点』 毛利敏彦/中公新書 ¥820
合計 20冊  購入総額 ¥30,840

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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