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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第24回:窪美澄さん

食うか食われるかの真剣勝負!
<プロフィール> 窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年、東京都稲城市生まれ。カリタス女子中学高等学校卒業。短大を中退後、アルバイトを経て広告制作会社に勤務。その後フリーの編集ライターを経て、2009年「ミクマリ」で第8回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞、デビュー。受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で2011年山本周五郎賞を受賞。また同書は本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位に選ばれた。2012年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞を受賞。その他の著書に『アニバーサリー』『雨のなまえ』『よるのふくらみ』などがある。

 生まれた家は代々酒屋でした(父がおもいきり、つぶしてしまいましたが)。
 商売人の血、というのはどうにもこうにも私のなかに濃く流れているようで、小説を書くようになってからも、自分の本を「どうか買ってください!」と言うことに抵抗がないし、宣伝してたくさん売れるのなら宣伝しようよ! という気持ちが常々あります。
 だから、デビュー作の『ふがいない僕は空を見た』を書店員さんが本屋大賞の候補作に選んでくださったときは、ほんとうにうれしかったのです。お店屋さんの賞なので。
 物を売ってるお店ならなんでも好きですが、やはり、小さい頃から、本屋さんは好きでした。けれど、近所には小さな本屋さんしかなく(しかし、私しか買わないようなビックリハウスや宝島を毎月入れてくれるいい本屋さんだった)、高校生のときに、はじめて新宿の紀伊國屋書店に行ったときは腰が抜けました。
 その頃はお金もないので、もっぱら立ち読みするしかなかったのですが、こんなにたくさん本が売っているのに、私には買える本が1冊もないんだなーと思うと、ひどく悲しい気持ちになりました。そのあとだって、単行本を買うことはめったになく、基本は図書館、文庫本しか買えませんでした。値段を気にせず、本を買えるようになったのは、ほんのここ、2、3年のことです。それが小説家になって、いちばんうれしいことかもしれません。
 本屋さんで本を選ぶとき、狩りをしているような気持ちになることがあります。いくら話題になっている本でも、本屋さんで、実際に手にとり、表紙を開いて、数行読んでみて、ぴん、とこないことは確かにあります。そして、また、その逆もあり。この本に出会うために今日はこの本屋さんにきたんだね! ということもしばしば。
 体調が悪いときは、そんな機会も逃してしまうかもしれません。本屋さんで本を選ぶという行為は、私と本の、食うか、食われるかの闘いなのです。私も目的によってはネットの書店も利用するのですが、そればかりになると、いい本を見つける目がものすごく濁るような気がして(ネットで煽られて買うと、この本買わなくてもよかったかな......ということも多いような)、なるべく本屋さんに通うようにしています。
 以前から注目していたこの企画。いつやらせていただけるのだろう、私にそんな機会は訪れるのだろうか......と声をかけていただけることをずっとずっと願っていました。3万円の図書カード使い放題?! ゼリーでできたプールやお菓子だけでできた家に匹敵するようなそんな夢のような企画があるでしょうか。「やらせていただきます!」と、即答したあとも、作戦を練りました。
 広すぎる本屋さんではいけない。手頃な広さで、すべてのジャンルを満遍なく網羅したあそこ! 吉祥寺の書店は、用途に合わせて、使い分けていますが、この企画を実行させていただくならあそこで! というわけで、前のめりに、お店も指定させていただきました(パルコブックセンター吉祥寺店)。しかも、前日には下見を行い、いかに3万円以内に欲しい本をつめこむか、という、私の意地汚さを再度、確認することになりました。このロケハンがきいて、当日は30分で終了......。
 この書店、地下2階のエスカレーターを降りると、画集や写真集のコーナーがまずあるわけですが、ここでエンジンを温める、という感じでいいのです。単行本に比べて、画集や写真集は高いし、買いにくいのですが、「あたし、3万円の図書カードもってるもん!」と気持ちが大きくなり、今回、小説などの本よりも、たくさん買ってしまいました。
 しかし、これにはわけがあって、小説を読んでいるときに、自分も小説を書きたい! と思うこともあるのですが(しかし、そのような気持ちにさせてくれる本はとても少ない)、一枚の絵やイラストや写真を見たときに、この空気感を書きたい! と思うことが多いからです。この写真のこの雰囲気を文章にしたい! と思いながら、作品のコピーを目の前に貼って原稿を書くこともあります。
 映画や映画監督のこと、俳優さんの半生を描いた本も好きです。今回はブニュエルの本を選びましたが、なぜ、この人はあれを書いた(撮った)のか? という問いを探る文章はとても興味深いです。
 今回は、本の雑誌編集部のMさんとともに、「おもしろそうだから、ご一緒していいですか?」と書店員のKさんがおつきあいしてくださいました。私が本を手にとるたびに、「あ!その本は買いですね」「私もそれは読みたいと思ってました」と絶妙な合いの手が出る出る。ブティックの店員さんですか! と言うくらいのおすすめ上手。当たり前のことなのかもしれませんが、お店で売っている本のことはなんでもよくご存じです。当たり前のことなのだけれど、書店員さんは本が好きです。多分、私よりもずっと。そして、この方たちが私の本をお客さんに手渡してくださっているのかと思うと、いつも胸がぐっ、となります(胸の病気ではありません)。商売人の娘である私は、商いの厳しさを知っているからです。

窪美澄さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『だからもう はい、すきですという』 服部みれい/ナナロク社 ¥1,365
『君想ふ百夜の幸福』 池永康晟/芸術新聞社 ¥2,940
『かないくん』 谷川俊太郎作、松本大洋絵/東京糸井重里事務所 ¥1,680
『Advanced Style』 アリ・セス・コーエン著、岡野ひろか訳/大和書房 ¥2,625
『intimacy』 森 栄喜 /ナナロク社 ¥3,990
『コドモノクニ名作選 Vol.3 夏』 ハースト婦人画報社 ¥4,725
『ルイス・ブニュエル』 四方田犬彦/作品社 ¥5,040
『セラピスト』 最相葉月/新潮社 ¥1,890
『ひとりの体で』上下 ジョン・アーヴィング著、小竹由美子訳/新潮社 ¥4,200
『写字室の旅』 ポール・オースター、柴田元幸訳/新潮社 ¥1,890
『素湯のような話』 岩本素白、早川茉莉編/ちくま文庫 ¥945
『みちこさん英語をやりなおす』 益田ミリ /ミシマ社 ¥1,575
合計 13冊  購入総額 ¥32,865

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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