図書カードNEXT トップ > 図書カード使い放題?! > バックナンバー > 第20回:井上荒野さん

図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第20回:井上荒野さん

リアル書店をふわふわ歩く
<プロフィール> 1961(昭和36)年東京生れ。成蹊大学文学部卒。1989(平成元)年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞を受賞。創作のかたわら、児童書の翻訳家としても活躍する。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』で直木賞、2011年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞をそれぞれ受賞する。著書に『結婚』『夜をぶっとばせ』『さようなら、猫』『それを愛とまちがえるから』『あなたにだけわかること』などがある。

 私は町の書店で本を買わない。というのは、私は町を歩くことがほとんどないからだ。都内だが、陸の孤島のような場所に住んでいるうえ、車の運転が好きで酒を飲まない夫を持っているので、たいていの場所へはドアツードアで、夫の車の助手席か、夫が留守だったり都合が悪かったりするときはタクシーを呼んで乗っていく。私は友人たちから、一日50歩くらいしか歩いていないのではないかと思われている。
 用事があって出かけて、前後の空き時間にふらりと寄る。かつての私にとって書店とはそういう場所だったので、今のような生活になると、なかなか行く機会がない。そのうえ私の夫は古本屋である。面白い本に関する情報は、ふんだんに入ってくる環境にいるので、本はネットで購入するほか、夫が月に一回古書市場から持ち帰ってくる山の中を漁るだけで事足りていた。それがよくないとはあまり思っていなかった。忙しすぎたのかもしれないし、何かを忘れていたのかもしれない。
 そんな私に、今回の依頼である。依頼のメールを読んだとたんに、よくなかった、と反省しはじめた。リアルな書店。行くべきなのだ、自分の足で。そして目当てのものばかりではなく、買うつもりもなかったようなものを買うのだ。それが自分の足でリアルな書店へ行く意味だ。だめな私にそのことを思い出さそうとして、神様(「本の雑誌」様)が、3万円を与えてくださるのだ。
 というわけで、迷うことなく依頼を受けたが、本当にもう何年も書店へ行っていないので、「お気に入りの書店」というものがない。情けなく、どこに行ったらいいでしょうかと聞いたら、幾つか候補を上げていただき、その中から選んだのが吉祥寺のジュンク堂である。決め手は、自宅からいちばん近いから(仕事のみで出かけるので夫に車を出してもらえない)。この期におよんで、なるべく歩かなくてもいい方向を選んでしまった。
 吉祥寺は、私が卒業した大学がある町。しかしこの数年は、バウスシアターか夜の飲食店に直行するのみで、ジュンク堂があることすら知らなかった。ジュンク堂は広くて、明るくて、つやつやしていた。わあ、これ全部、本!さわれる本!......というのが、店に第一歩を踏み入れたときの私の感嘆だった。

井上荒野さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『書評 時評 本の話』 中沢けい/河出書房新社 ¥7,980
『堕落部屋』 川本史織/グラフィック社 ¥1,995
『いつか見た風景』 北井一夫 /冬青社 ¥2,730
『軍艦島全景』 オープロジェクト/三才ブックス ¥2,415
『ペドロ・アルモドバル』 F・ストロース編、石原陽一郎訳/フィルムアート社 ¥2,730
『ナチュラルな庭づくり』 ポール・スミザー/主婦の友社 ¥1,450
『負債と報い』 マーガレット・アトウッド、佐藤アヤ子訳/岩波書店 ¥2,940
『マーガレット・アトウッド』 伊藤節編著/彩流社 ¥3,150
『火葬人』 ラジスラフ・フクス、阿部賢一訳/松籟社 ¥1,785
『妖精王』1~3 山岸凉子/潮出版社 ¥3,780
合計 12冊  購入総額 ¥30,955

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

ページトップへ

ページトップへ