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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

WEB本の雑誌

作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?
そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

葉真中顕さん:イメージ

第208回:葉真中顕さん日本ミステリー大賞を受賞したデビュー作『ロスト・ケア』でいきなり注目を浴び、今年は『凍てつく太陽』で大藪春彦賞と日本推理作家協会賞を受賞した葉真中顕さん。社会派と呼ばれる作品を中心に幅広く執筆、読書遍歴を聞けば、その作風がどのように形成されてきたかがよく分かります。デビュー前のブログ執筆や児童文学を発表した経緯のお話も。必読です。

その6「ロスジェネの自覚」(6/8)

反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)
『反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (岩波新書)』
湯浅 誠
岩波書店
842円(税込)
累犯障害者 (新潮文庫)
『累犯障害者 (新潮文庫)』
山本 譲司
新潮社
594円(税込)
決壊(上) (新潮文庫)
『決壊(上) (新潮文庫)』
平野 啓一郎
新潮社
767円(税込)
八月の路上に捨てる (文春文庫)
『八月の路上に捨てる (文春文庫)』
伊藤 たかみ
文藝春秋
ポトスライムの舟 (講談社文庫)
『ポトスライムの舟 (講談社文庫)』
津村 記久子
講談社
486円(税込)
後期近代の眩暈―排除から過剰包摂へ
『後期近代の眩暈―排除から過剰包摂へ』
ジョック・ヤング
青土社
3,024円(税込)
リキッド・モダニティ―液状化する社会
『リキッド・モダニティ―液状化する社会』
ジークムント バウマン
大月書店
4,104円(税込)

――制作会社での仕事はADとか?

葉真中:ドキュメンタリーの制作会社だったんですけれど、ADから始めて、でもすぐ予備取材をやるようになりました。リサーチャーですね。それは後々役に立ったというか。大した話ではないんですけれど、ものの調べ方はそこで覚えました。大宅壮一文庫とか国会図書館の使い方とか。たとえば節約番組で節約している人を探すために主婦雑誌のバックナンバーを延々と読み続けるとか。ドキュメンタリーも脚本が存在するのですが、会社が小さいので僕も脚本家に渡す前の予備脚本を書くようになり、そういうこと自体はすごく勉強になりました。でも仕事としてはハードだし、普通にハラスメントも地獄というか。ああいう業界は下請けにいけばいくほどきつくなるので本当にハードで、ちょっと身体がついていかなくて2年ちょっとで、ちょうど番組が終わったところで辞めることになるんですけれど。この時期に、大学生の時に抱いていた万能感は、完全にへこまされます。体育会系の体力のお化けみたいな人と仕事をする中で、「自分なんか大したことない」っていう感情を抱いたんですよね。それに結局、芽が出ていない。小説も書いていませんでした。書かないでいると多少すがれるものがあるんですよね。書いて結果がでると自分の才能と向き合わなきゃいけない。でも、書かないでいると「もしかしたら俺、天才かもしれない」ってすがれる状態のまま、「いつかか書くぞ」と思っていられる。

――制作会社を辞めてどうされたのですか。

葉真中:しばらくフリーターって形になるんですね。パソコン販売の仕事を始め、ここでもアルバイトからすぐ契約社員みたいな形になるんだけれど、その前のフリーター時代に経済が悪くなっているのを実感して。僕はまさにロスジェネ世代と言われている世代で、就職に困っている同級生はかなりいました。学校の先生になった奴が多いんだけれど、職場が大変で過労で職を変えようと思ったけれども、替えの職が見つからない、とか。まだ僕らが学生だった90年代って若干バブルの余韻があって、フリーターでもなんとかなる感じがあったんですけれど、もうそんなことないぞ、という空気が流れ始めていました。僕も一応契約社員になりましたが、今思えば結構なブラック企業だったかなって。週休2日なかったし、月の残業100時間超えてたんじゃないかな。それでも番組制作会社に比べると本当に楽だったんですが、長く勤めるうちにだんだん辛くなっていって。フリーター時代に親元を離れて一人暮らして結婚もするんですけれど、結局、実家に戻りました。その頃「ちょっと書かないか」という話があって、販売の仕事をしながらライター業も始めたんです。漫画のシナリオや、デアゴスティーニのような分冊雑誌の記事を書いたりとか。ライター業で収入のめどが立ちそうになったタイミングがあったんで、やっぱり書く仕事をやりたいなって、販売店を辞めちゃったんですけれど、これはちょっと判断ミスだった可能性が高い。しばらく食えなかったんです。実家にいて、妻の実家も近くてみんな働いていたから、家族に支えられながらしばらく生活していました。

――小説は読んでいなかったのですか。

葉真中:自由業になった時点で時間が多少できたので、大学生の時ほど気楽ではないんですけれど、またちょっと読める本を読もうかなという時期になりました。
この頃、2000年代頭くらいの時期なんですけれど、国産ミステリーがすごく盛り上がっている印象があって、まさに「このミステリーがすごい!」を片手に、1位から順番に読んでいくことをやりました。仕事が忙しいから作家読みはなかなかできないけれど、面白いものを読みたいという気持ちがあるので読んで、「ああ、小説いいなあ」とまた思うようになり。そうそう、中学時代に『指輪物語』の1回目の挫折があり、高校時代、『カラマーゾフの兄弟』を読んでいた時期に2回目の挫折をし、大学生の時にさすがにもう読めるだろうと思って3回目の挫折をしているんですけれど、ここにきてピーター・ジャクソン大先生が「ロード・オブ・ザ・リング」を作ってくれて、長年の僕の中の『指輪物語』問題が解決しました(笑)。それで解決しているのかってツッコミはあると思いますが。

――小説の執筆に関しては。

葉真中:「いつか書くぞ」「いつか書くぞ」と思いながら「もうそろそろ30歳か」というところまで来ていたんですね。で、経済状況はどんどん悪くなっていて、朝日新聞が「ロストジェネレーション」という連載を始めて、後に本になって。僕らの世代は「ロスジェネ」って呼ばれるようになる。最初はね、すごく反発がある訳です。まず雑だし。「だいたい世代論なんておかしい」みたいな気持ちがあるわけです。だって、どの世代だってみんな大変なんだから。だけど、確かに子供の頃にテレビの中だけでバブルを見せられてたのに、どんどん経済が縮小していって、社会に出た瞬間、そんなもんなくなってて就職氷河期に直面したってことに対しては「話が違う!」って感覚があった。赤木智弘さんが「論座」に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」って論文を書いた。あの号を買って読んで、湯浅誠さんの『反貧困』を読んで。雨宮処凛さんなんかも出てきて、ロスジェネ論壇というものが生まれていて、僕もなんとなくの興味からそういう本を読むようになりました。
ロスジェネとは違うんだけれど、山本譲司さんという議員秘書だった方が逮捕された後に書いた『累犯障害者』っていう本とかも読んで。この時期に社会の不平等というか、口幅ったいんですけれど、格差みたいなものがどんどん大きくなっていることに対する憤りプラス、罪悪感をおぼえるようになっちゃうんですよ。結構これは、この後の自分が作家になって書くものに直結してくる話になるんですけれど。

――罪悪感というのは。

葉真中:自分が割と恵まれていたことに対する罪悪感ですね。僕は食えないライターなんですよ。だけど家族仲がすごく良くて、両親健在で、実家があってみんな働いていて、そしてこれが最大の理由なんですけれど、妻と僕の親が僕より仲がいい感じで、僕一人が穀潰しというか、一応収入があったからパーフェクトな穀潰しではないんですけれど、でもちゃんと稼げてなくても生活が成立しているという。世間には自分がやりたいことなんてとてもできない人もいるし、食うや食わずみたいな生活の同世代が本当に出現してきている状況だったので、すごく罪悪感があった。だけど反面、こんなことで罪悪感持たなきゃいけないのかなって思いもあって、その中で、小説でいうと、平野啓一郎さんの『決壊』を読んだんですよ。何かの書評で読んで、「あ、これは読まなきゃいけないな」って思って読んだら、本当に社会の底が抜けていく様っていうのが描かれた小説で。それと、この頃の芥川賞って、伊藤たかみさんの『八月の路上に捨てる』とか、津村記久子さんの『ポトスライムの舟』とか、いわゆるフリーター文学とかロスジェネ文学と言われるものが受賞していたんです。僕は純文学は当時ほとんど読まなかったんですけれど、読まなきゃいけないと思って読んで、この時に、純文学作家の時代感覚ってすごいなって思ったりもして。と同時に、僕が学生時代にサブカル趣味の延長で現代思想がどうのとか話していたのは、すごく気楽なものだったんだなっていうか、そういう形而上のふわふわした話ができたのは特権だったんだなって思うようになりました。経済や社会についてもうちょっと考えよう、「作家になりたい」って気持ちもあるけれど、ライターとしての質を上げたいと思い、勉強し直すことにしたんです。
それで、1日1時間、時間を作って、仕事と関係ない、趣味でもない、勉強のための本をノートを取りながら読むってことを始めました。印象深かったものを挙げると、ジョック・ヤングの『後期近代の眩暈』とか、ジークムント・バウマン『リキッド・モダニティ』、レヴィットとダブナーの『ヤバい経済学』、のちにベストセラーになるジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』とか。他にもいっぱいあるんですが、社会や経済に関する人文系の本が多かったかな。ダイジェスト版や入門書とか解説書ではなくて、学者やその道の専門家が書いた本を読むというルールを作りました。当時は新書ブームもあったので、それも気になるものをなるべく読むようにして。多くの本が機知に富んだ、これまで考えなかったような視点を与えてくれました。今思えば、その後の創作に活かされています。

  • ヤバい経済学 [増補改訂版]

    『ヤバい経済学 [増補改訂版]』
    スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー
    東洋経済新報社
    2,160円(税込)

  • 文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)

    『文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)』
    ジャレド・ダイアモンド
    草思社
    972円(税込)

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