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作家の読書道 WEB本の雑誌 Presents

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作家自身は、どんな「本屋のお客」なんだろう?そしてどんな「本の読者」なんだろう?そんな疑問を、作家の方々に直撃インタビューです。

砂村かいりさん:イメージ作家の読書道 第291回:砂村かいりさん小説投稿サイト「カクヨム」の第5回カクヨムコンの恋愛部門で、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』が特別賞をダブル受賞。二作とも書籍化されてデビューをはたした砂村かいりさん。恋愛小説に限らず、現代社会を生きる人々の葛藤や再生を丁寧に描く著者は、どんな本を読み、影響を受けてきたのか。愛読書について、たくさんの書名を挙げてくださいました。ご堪能あれ。

その2「津原やすみ作品のすごさ」 (2/9)

星からきたボーイフレンド あたしのエイリアン
『星からきたボーイフレンド あたしのエイリアン』
津原やすみ
ボイジャー・プレス
地球に落ちてきたイトコ あたしのエイリアン
『地球に落ちてきたイトコ あたしのエイリアン』
津原やすみ
ボイジャー・プレス
ボクの理科室へおいで あたしのエイリアン
『ボクの理科室へおいで あたしのエイリアン』
津原やすみ
ボイジャー・プレス
飛距離の長い青春
『飛距離の長い青春』
砂村かいり
幻冬舎
アパートたまゆら (創元文芸文庫)
『アパートたまゆら (創元文芸文庫)』
砂村かいり
東京創元社
クロニクル・アラウンド・ザ・クロック
『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』
津原泰水
河出書房新社

――津原泰水さんが、津原やすみ名義で少女小説を書かれていた頃ですね。

砂村:ひらがな表記だったお名前を漢字表記にして男性であると明かし、一般文芸を書き始める前ですね。この時代は少女小説を書かれていて、代表作として「あたしのエイリアン」シリーズがあります。ご本人は最初シリーズにする気がなかったらしいのですが、あまりに人気になって、5作目くらいの時点からシリーズ名がついたという。
第1作目が『星からきたボーイフレンド』なんですけれど、もうこれ以上のSF恋愛小説みたいなものには出会えないです、というくらい、本当に本当にすごかったんです。小学生でも読めるけれど、もう大人の世界なんですよ。
設定が本当に細やかでリアリティーに裏打ちされていて、知性があふれているんです。主人公は千晶という女子高生で、ある夜、宇宙人の男の子が落ちていたのを拾って帰るところから始まります。千晶は男の子にとりあえず「ホシオ」と名付けるんですが、ホシオの祖国の言語は固有名詞が長いという設定があって。もといた星の名前は「シジジシジシシュ」で、ホシオの本当の名前は「デュディディデデデデュデュディデダ」っていうんですね。で、ホシオの恋人の名前が「リュリリルリリュライア」っていう。

――今、すらすらとおっしゃいましたね。

砂村:そういう名前をなんなく憶えさせてしまうくらい魅力的な世界なんです。逆に普通名詞は短くて、「恋人」は「テ」と一文字なんですね。その設定が異常にリアルで。後からやってきた同星人と会話する時に、ホシオが千晶のことを「テ」なのかと訊かれ、「テ?」「いや、テ」みたいな会話があって。微妙に発音やアクセントに違いがあるという。子どもながらに、これはめちゃめちゃ高度に知的なことをやっているなと思いました。
とにかく「あたしのエイリアン」は、著者の知性や言語感覚に頭をぶん殴られるようなシリーズでした。『星から来たボーイフレンド』『地球に落ちてきたイトコ』『ボクの理科教室へおいで』といったタイトルも、それぞれ何かのオマージュだったりして。
少女小説というと「はいはい、恋愛ね、好きだの嫌いだのばっかりの小説ね」みたいな反応をする人もいると思いますが、そうじゃないんです。「あたしのエイリアン」シリーズは、ファンタジックにして異常なまでにリアルな設定やら、物語のスペクタクルやらが凄まじくて、それでいて普遍的な人の思いや言動を丁寧に鮮やかに描ききっていて、得られる滋養がただごとではなく、本当に撃ち抜かれました。
シリーズが進んでいくと、千晶は大学に落ちて浪人するんですよね。わたしは今年『飛距離の長い青春』という浪人生たちを描いた作品を上梓しましたが、思えばここで初めて浪人というものを知りました。ホシオのほうが先に大学に受かるんですよ、宇宙人なのに。学習能力や順応力が高くて、あっという間に地球人の言葉や習性に馴染み、勉強も千晶よりもできるようになって、という。
それと、わたしはその頃田舎に住んでいましたから、東京の高校生の生活というのが新鮮でした。喫茶店でお茶をする文化があるんだとか、ブティックで洋服を買うんだとか。今でも一字一句憶えているのが「でもコーヒー一杯五百円は高いと思うわ」というモノローグ。そんなふうに、一般的なものの相場を教えてくれる作品でもありました(笑)。
 それと、彼らが住んでいるのは東京の23区ではなくて、黄色い電車の走る私鉄沿線という設定だったんです。わたし、18歳の時に東京に出てきて住んだのが西武池袋線沿いの清瀬という町で、デビュー作の『アパートたまゆら』の舞台にもしているんです。住み始めた頃にふと、「あれ? ここって23区ではなくて、黄色い電車しか停まらない私鉄沿線じゃないか!」と気づいて。親近感をおぼえてテンションが上がりました(笑)。
「あたしのエイリアン」の話が本当に長くなってしまうのでこのあたりにしないといけませんが、もう少し。一浪した千晶が大学に受かったところで「あたしのエイリアンEX」という新しいシリーズが始まり、世界線はつながっているものの主人公が変わるんです。千晶やホシオが出てこないまま、シリーズは完結してしまいました。ですがそこから何年も経って、津原やすみから津原泰水名義になって出された『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』という青春犯罪小説に、この「あたしのエイリアン」シリーズのある登場人物がちらっと出てくるんです。千晶やホシオの名前も一瞬出てきます。もう、ティーンズハートから追ってきた世代の読者を泣かせるんですよ。知らない人は別に知らなくても読めるんですけれども。
このシリーズは本当に本当に本当にすごいので、機会があればぜひ。

――めちゃくちゃ読みたくなります。

砂村:長くてすみません、もうひとつだけ。千晶の浪人時代の始まりを描く『悲しみがいっぱい』という作品で、千晶が浪人生だからあまりおしゃれはしない、というくだりがあって。わたし、その中にあった「質実剛健スタイルだ」という言葉を『飛距離の長い青春』の中でそのまま使いました。そうした四文字熟語をはじめとする語彙も、なんなら「語彙」という語彙さえも、津原やすみ作品から得てきました。

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