もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか？
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開！
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

　今月の図書カード3万円お買い物は真梨幸子氏が登場！　"断捨離"と"終活"でモノと煩悩から解き放たれたはずなのに、"あの現象"に襲われてガツンと買った図鑑3冊はこれだ！
（2023年10月2日　於ジュンク堂書店池袋本店）

　池袋という土地には昔から縁があります。
　学校を卒業して最初に入社した会社は池袋にありました。その後、池袋駅を起点にする私鉄沿線の街に長く暮らしました。なので、買い物といえば、イケセイ（池袋西武百貨店）だったし、本といえば、ジュンク堂書店池袋本店。特にジュンク堂には仕事帰りに毎日のように通ったものです。
　そのジュンク堂に、久しぶりに足を踏み入れました。「図書カード3万円使い放題！」にチャレンジをするためです。
　お声をかけていただいたとき、もちろん嬉しかったのですが、本音をいえば、少しばかり戸惑いもありました。
　小説家でありながら、ここ最近、書店から足が遠のいているのです。電子書籍で済ませてしまうことが多くなりましたので。
　さらに、還暦を目前にした今、"終活"と"断捨離"がマイブーム。せっせと身の回りの整理に勤しんでいます。書籍もずいぶんと処分しました（大半は近所の図書館に寄贈）。ついでに遺言書も書き、それを履行してくれる弁護士さんとも契約しました。いつ死んでもいいように、今から準備を進めているのです。おかげで、以前はゴミ屋敷と化していた汚部屋も、驚くほどすっきりしました。我ながら、うっとりしてしまうほどに。こうなると、これ以上モノを増やしたくなくなるのです。不思議なもので、モノで溢れかえってこれ以上は無理だというときほど躊躇なくモノを買ってしまうのですが、断捨離したとたん、モノを買う（増やす）のが怖くなりました。
　そういうわけで、「3万円分の本を買えるだろうか？」という不安が真っ先によぎったのです。
　快諾はしたものの、不安で不安で1週間はくよくよしてしまいました。史上初のチャレンジ失敗女になりはしないかしら。
　というのも、本当に物欲というものがなくなっているのです。所有するのが面倒になったというか。まさにサブスク時代を体現している格好です。
　池袋にもあまり近付かなくなりました。以前より、近所に住んでいるというのに。イケセイに行っても、なにも買わずに帰ってくることも多い。なんでだろうな。あの頃よりお金ならある。たぶん、欲しいと思ったモノは、大概は買える。でも、欲しいモノがない。
　ああ。私もいよいよ、煩悩から解き放たれたのだな。悟りの境地に至ったに違いない。
　そんな私が、3万円分の本なんて買えるのかしら？
　ところがです。ジュンク堂に足を踏み入れたとたん、不安は見事に吹っ飛びました。
「青木まりこ現象」が起きたのです。
「青木まりこ現象」というのは、書店に行くとお腹が痛くなる例のあの現象のことをいいます。なぜそんな名前がついたのかはここでは割愛しますが、興味がある人はぜひ、ググってみてください。
　そう、以前は、書店に行くたびにお腹を痛くしていました。私の場合、その理由は明らかで、"興奮"から来る腸の蠕動運動です。興奮、すなわち煩悩。アレを見たい、コレを知りたい......という、めくるめく煩悩が、腸を刺激していたのです。
　そんな現象が、久しぶりに起きました。
　興奮が止まりません。
　右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、ぎっしりと本が詰め込まれている。アレを見たい、コレを知りたい......そんな興奮が、私の腸を直撃します。
　私は、たちまちのうちに、煩悩まみれの若い頃に戻りました。アレを見たい、コレを知りたい......のに、それを叶える財力がない。手を伸ばせば届くのに、自分のものにできない切なさにさらにお腹を痛くしていたあの頃。
　でも、今は、3万円分の図書カードがある。
　私の興奮は絶頂に達しました。
　蠕動運動を繰り返すお腹をさすりながら、鼻息も荒く、
「よし、買うぞ！」

真梨幸子さんが図書カードNEXTで購入した本

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

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