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第67回:青柳碧人さん

バイキングマスターには程遠い
<プロフィール> 青柳碧人(あおやぎ・あいと)
1980年千葉県生まれ。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー。19年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は多くの年間ミステリーランキングに入り、本屋大賞にノミネートされた。著書に「猫河原家の人びと」シリーズ、『スカイツリーの花嫁花婿』『ナゾトキ・ジパング』『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』など多数。

購入書籍No.   12345678910111213141516171819

【1】『数学の世界』(中公文庫)
【2】『日本人の真価』(文春新書)

『数学の世界』『日本人の真価』

 というわけで会場に選ばれた丸善丸の内本店を下見すべく、僕は1階から歩きはじめた......のだが、すぐに【注目の新刊】の棚の前で足が止まってしまった。展開されていたのは、『数学の世界』(森毅・竹内啓/ 中公文庫)と、『日本人の真価』(藤原正彦/文春新書)。自身のデビュー作『浜村渚の計算ノート』が数学を扱った小説ということもあり、数学の本はぜひ欲しいと思っていた。特に藤原正彦さんは『天才の栄光と挫折』に心酔した時期があるほどの著者。下見を始めて1分も経たないうちに目立つ新刊本を2冊もカゴに入れてしまうなんて、後先考えずにエビフライと串カツを取ってしまうほどの愚行。だが「まあ初めだから大丈夫だろう」「どうせ一周してもこの2冊は買うに違いない」と甘く見て2冊購入してしまう。

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【3】『日本の偉人100人+50人』(致知出版社)
【4】『1日1話、つい読みたくなる世界のミステリーと怪異366』(徳間書店)

『日本の偉人100人+50人』『1日1話、つい読みたくなる世界のミステリーと怪異366』

 1階には他に気を引くジャンルが見当たらず、2階へ。次に足が止まったのは【怪異・怪談・妖怪】の棚。こう見えて僕は、ほぼ毎日何かしら実話怪談の配信番組を見ているほどの怪談好きである。5分ほど物色したが「これは下見なんだ」と思い出し、とりあえず足を進めていく。するとすぐに、これまた興味のある【歴史】の棚へやってきた。たまらずカゴに入れてしまったのは『日本の偉人100人+50人』(寺子屋モデル編著/致知出版社)。大学時代にクイズ研究会に所属していたこともあって、とにかく「有名人列伝モノ」には目がない。今でも読んでいてメモがてらクイズ問題を作ってしまうほどだ。この流れでさらに『1日1話、つい読みたくなる世界のミステリーと怪異366』(朝里樹監修/徳間書店)。情報の多い「1日1●モノ」にも弱いのであった。

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【5】『日本100名城と続日本100名城に行こう』(ワン・パブリッシング)
【6】『東京ベストカフェ』(昭文社)
【7】『新宿センチメンタル・ジャーニー 私の新宿物語』(図書新聞)

『日本100名城と続日本100名城に行こう』『東京ベストカフェ』『新宿センチメンタル・ジャーニー 私の新宿物語』

【明治の文豪】棚はなんとか通り過ぎたものの、続く【旅行】の魔力には勝てなかった。とりあえず『日本100名城と続日本100名城に行こう』(日本城郭協会/ワン・パブリッシング)は購入決定。デビュー前に学習塾の講師をしていたころからの百名城ファンで、暇を見つけては全国の城をめぐっていたこともある。「百名城」を回りきる前から「続百名城」が指定されてしまい、ぜひこちらのガイドブックも買わねばと、前々から思っていたのだった。さらに、カフェで小説を書くことも多いため『東京ベストカフェ』(昭文社)も購入。そろそろ離れなきゃ......と、目に飛び込んできたのは、『新宿センチメンタル・ジャーニー 私の新宿物語』(堀江朋子/図書新聞)。実は最近、大正時代の新宿中村屋の小説を書いた僕、ちょっと立ち読みのつもりでページを繰り始めたらもう駄目である。新宿界隈のちょっと昔の歴史の風が全身を包み、買わないわけにはいかない。

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【8】『すし図鑑』(マイナビ出版)

『すし図鑑』

 とんだ下見になってしまった......頭を振り振り、【料理】の棚へ。ここはさすがに欲しいものはないだろうと思っていたら、『すし図鑑』(藤原昌高/マイナビ出版)が目に留まる。日本人より日本に詳しいアメリカ人留学生が活躍する自著『ナゾトキ・ジパング』続編の資料はどのみち買おうと思っていたので購入。魚の写真つき解説が詳細で創作意欲が掻き立てられる。

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 ようやくここで2階終了。もうだいぶ下見らしさはなくなってきているが気を取り直し、エスカレーターに乗る。ここで僕を待ち受けていたのは──【理系】の棚!

【9】『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』(日経サイエンス社)
【10】『量子論のすべて 常識をくつがえすミクロの世界の物理学』(ニュートンプレス)
【11】『花火の事典』(東京堂出版)

『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』『量子論のすべて 常識をくつがえすミクロの世界の物理学』『花火の事典』

 結果から言うと、ここで30分の足止めを食らうことになってしまった。大好物の数学パズルの本。買い始めたら全部欲しくなるので「1冊だけにしよう」と思って呻吟に呻吟を重ね、『パズルの国のアリス 美しくも難解な数学パズルの物語』(坂井公/日経サイエンス社)に決定。さらに僕を誘惑するのは、見かけたら必ず立ち読みをしてしまうNewtonムックの数々。これも1冊だけと決めて『量子論のすべて 常識をくつがえすミクロの世界の物理学 Newton別冊』(ニュートンプレス)。そしてまた『ナゾトキ・ジパング』の役に立ちそうな『花火の事典』(新井充監修/東京堂出版)を購入して理系棚を離れる。

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 気づけばカゴの中には大量の本。これ下見なんだよな......と、やってきたのは【文庫】コーナー。つらつらと背表紙を見ていてふと気づいた。
 今日、ミステリ1冊も買ってないじゃん!

【12】『魔術師を探せ!』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
【13】『西浦和也選集 迎賓館』(竹書房怪談文庫)
【14】『恐怖実話 怪の遺恨』(竹書房怪談文庫)
【15】『第七脳釘怪談』(竹書房怪談文庫)

『魔術師を探せ!』『西浦和也選集 迎賓館』『恐怖実話 怪の遺恨』『第七脳釘怪談』

 そもそも僕はミステリを読んできたタイプの人間ではない。それなのに何の因果か、今やミステリを中心に仕事をもらい、本格ミステリ作家クラブ執行役員の末席にも座らせていただいている。本企画でミステリを1冊も買わないのはいけないだろうと焦りはじめる。しかしそう思いながら背表紙を見ていくと、けっこう既読の本が多い。そんな中、目についたのが『魔術師を探せ!(新訳版)』(ランドル・ギャレット/ハヤカワ・ミステリ文庫)である。2020年の自著『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、童話と魔法の世界で巻き起こる殺人事件を赤ずきんが解決していくという話。「魔法×本格ミステリ」の元祖とも言える作品ということで、噂をきいて気になっていた本である。棚から抜き出してみれば、オビに「阿津川辰海おすすめ」の文字。これは間違いないと、購入を決定。
 その裏の棚に進んでいって、「あっ」と思わず声が出る。【文庫/怪異】。正直なところ、ここは今回のメイン──バイキングでたとえれば、目の前で焼いてくれるステーキである。思い切って『西浦和也選集 迎賓館』(西浦和也/竹書房怪談文庫)、『恐怖実話 怪の遺恨』(吉田悠軌/竹書房怪談文庫)、『第七脳釘怪談』(朱雀門出/竹書房怪談文庫)の3冊を購入。お三方とも、お気に入りの怪談を5話ずつ上げられるほどよく聞いている怪談師さんたち。ホクホクした気持ちで先を急ぐ。

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【16】『名画で読み解く ブルボン王朝12の物語』(光文社新書)

『名画で読み解く ブルボン王朝12の物語』

 続いて【新書】のコーナー。あらゆるジャンルの第一人者が書いた、あらゆるジャンルの本たち。全部吟味していては到底精神がもたない。ここはスルーかと立ち去ろうとしたところで、1冊の本が目についた。『名画で読み解く ブルボン王朝12の物語』(中野京子/光文社新書)。かぶれているというほどじゃないが、絵画も割と好きな僕。中野京子さんのこのシリーズ、ハプスブルク家とロマノフ家は所有済みだ。「あらそういえばブルボンはまだでしたわね」とセレブな気持ちでカゴに入れ、3階終了。

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【17】『怪談まみれ』(二見書房)
【18】『文豪の素顔』(エクスナレッジ)
【19】『此の世の果ての殺人』(講談社)

『怪談まみれ』『文豪の素顔』『此の世の果ての殺人』

 4階は洋書。バイキングでも食指が動かないコーナーは切り捨てることがあるので、ここはスルーし、ついに「下見」が終了した。予算も精神も余裕はわずか。ということで、気になったコーナーに戻って「本番」で買ったのは次の3冊。
『怪談まみれ』(深津さくら/二見書房)、『文豪の素顔』(高橋敏夫・田村景子監修/エクスナレッジ)、『此の世の果ての殺人』(荒木あかね/講談社)。特筆しておきたいのは『怪談まみれ』。著書の深津さくらさんは、僕の今イチオシの女性怪談師さんである。上品な口調で繰り広げられる忌まわしい話がたまらない彼女の、第2冊。怖い話が得意ではない人にもぜひお勧めしたい。

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 さて、振り返ってみればなんと行き当たりばったりな買い物になったことだろう。「下見が重要」とわかっていたのについつい次から次へと取ってしまい、一つの皿の上にラザニアと刺身とパンナコッタと小籠包がひしめき合っているような、とても欲張りなバイキングになってしまった。でもまあ、もともと興味の方向があちこちに向いているタイプの人間なのでしょうがないかなあ、と自分自身を見つめなおした。こうしていろいろ散らかった情報の中からひょこひょこ断片を拾っては、これからも小説を書いていくのである。
 ちなみに、今回のお買い物の総額は29,865円。お釣りはなんと135円! この企画始まって以来のニアピン賞でしょー! と、レジの前で自画自賛していた。
 もちろんわかっている。こんなことをどんなに騒いでも、博多華丸氏は褒めてはくれないだろう。

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