図書カードNEXT トップ > 図書カード使い放題?! > バックナンバー > 第66回:原田ひ香さん

第66回:原田ひ香さん

大河と冨樫を一気買い!
<プロフィール> 原田ひ香(はらだ・ひか)
1970年、神奈川県生れ。2006年、NHK 創作ラジオドラマ脚本懸賞公募にて最優秀作受賞。2007年、「はじまらないティータイム」ですばる文学賞を受賞してデビュー。著書に『財布は踊る』『古本食堂』『そのマンション、終の住処でいいですか?』『三人屋』『一橋桐子(76)の犯罪日記』『三千円の使いかた』『ランチ酒』『事故物件、いかがですか? 東京ロンダリング』『人生オークション』『母親ウエスタン』『彼女の家計簿』『ミチルさん、今日も上機嫌』『ラジオ・ガガガ』などがある。

購入書籍No.   1234567

【1】『マンガ日本の古典 吾妻鏡』上中下(中公文庫)
【2】『増補 吾妻鏡の方法 事実と神話にみる中世』(吉川弘文館)
【3】『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』(新潮社)
【4】『日本中世史最大の謎!鎌倉13人衆の真実』(宝島社)

『マンガ日本の古典 吾妻鏡』上中下『増補 吾妻鏡の方法 事実と神話にみる中世』『室町は今日もハードボイルド 日本中世のアナーキーな世界』『日本中世史最大の謎!鎌倉13人衆の真実』『香君』

「まず、『吾妻鏡』を読んでみたいです」 先ほどの2人に、角川春樹事務所のHさんを加えた、総勢3名を前に私は宣言した。「あと、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』についての参考図書もあれば......」
 今、私は『鎌倉殿の13人』にはまっている。そして、その原作とも言われている『吾妻鏡』をぜひ読みたいと思っていた。
 ね、ミーハーでしょ。
 ただ、言い訳するわけではないが、『吾妻鏡』を読みたい理由はそれだけではなかった。
 ドラマの前半、物語の大きな鍵を握っている後白河上皇は、父、鳥羽上皇に若年期「即位の器量ではない」とそしられて、それがその後の彼の人生や治政に大きく影響したらしい。
 鳥羽上皇は幼少期の様子が『讃岐典侍日記』に出てくる。まだ5歳の鳥羽天皇が堀河天皇の死を悲しむ讃岐典侍に「『ほ』の字と『り』の字のことを思い出しているんでしょう?」と尋ねるシーンは印象的で、この人が幼少期から賢くて思慮深い性格だったことがうかがい知れる。その目から見たら、日々、今様に狂っている息子は歯がゆかったに違いない。ちなみに、『讃岐典侍日記』には幼き鳥羽帝が「ふれふれ、粉雪」と歌っている様も描かれているが、これは日本で子供が歌う情景が描かれた最初だとも言われ、200年後、『徒然草』の中にも出てくるほどである。
『讃岐典侍日記』については拙作『古本食堂』にも書いていて、大河のおもしろさはもちろんのこと、どこか自分の作品にもつながる『吾妻鏡』をぜひ、読んでみたいと思っていたのだ。
「......『吾妻鏡』の漫画版が中公文庫から出ていると聞いているのですが」
 私もそのくらいの下調べはしてきていた。原書をいきなり読む自信はまったくないし、まずはそちらでだいたいのことはつかみたかった。
 Oさんが案内してくださって、中公文庫の『日本の歴史』や『日本の古典』がまとめて置いてあるコーナーに連れて行っていただいた。『吾妻鏡』上中下、3冊を無事ゲット。さらに、大河ドラマや鎌倉時代についてのコーナーに移り、中世についての本やムック本を何冊か買った。

ページトップへ

【5】『香君』上下(文藝春秋)

『香君』上下

 それからやはり、小説家だから、これも必要かな、と思い文芸のコーナーにも移った。
 小説のコーナーというのはちょっと落ち着かない場所だ。自分の本がまるでないのもつらいし、山と積まれているのも、嬉しいけれど「ぜんぜん売れてないのかな......?」と心配になる。それに自分の本を書店で見るのは、昔の恋人と突然出くわすようなもので、目を合わすのが恥ずかしいような、こそばゆい気持ちになる。と言うわけで、前から気になっていた『香君』を買ってそこを離れた。

ページトップへ


「さあ、次はどうしましょうか」とMさんに促された。
 このあたりで、まだ図書カードは2万円近く余っていたと思う。
「えー、実は」
 私は自分でもわかるくらい、もじもじした。
「ちょっと、あれなんですが」
 3人の視線が自分に集まるのを感じる。
「......ちょっとミーハーで恥ずかしいのですが」
 いや、すでに、大人気大河ドラマに関する本を買い込んだ時点で、ミーハーだということはわかられていたと思うのだが、それでも、まだ躊躇する。

【6】『HUNTER×HUNTER』1〜36巻(集英社)

『HUNTER×HUNTER』1〜36巻

「『HUNTER×HUNTER』というものを読んでみたいのです......」
 ちょっと小声になってしまった。
 この少し前、『HUNTER×HUNTER』の作者、冨樫義博さんがツイッターを始めたと、ネット上は大盛り上がりになっていた。実は私、漫画を読み始めたのは四十を過ぎてからで、特に少年漫画はほとんどなじみがない。『鬼滅の刃』をやっと読破した程度である。書店で漫画を買うということだけでもかなりハードルが高い。初心者には、漫画コーナーの山のような本の中から、目当ての1冊を探すことはなかなかむずかしいことなのだ。
「いいですね!」
 恐る恐る告白した私に、Oさんの声が飛び込んできた。
「私、漫画大好きなんですよ! 前は漫画の担当もしていまして......」
「ええ!」
 文芸担当のお堅い方と思っていたら、なんと、漫画にも詳しい方だったのだ!
 もう、本当にほっとしました。
「しかし、『HUNTER×HUNTER』が全部そろっているかちょっと心配です......」
「あるだけ全部いただきます!」
 全員で地下に移って探すことになった。その間も、私とOさんは漫画のことを話し続けた。
「私、深夜ラジオも好きなんですが『HUNTER×HUNTER』の連載が始まると、芸人さんたちが大騒ぎになるんですよ。だから、ずっと読みたいと思ってたんです。有吉さんとかいつも話していて」
「わかります! 私もラジオ好きで。『HUNTER×HUNTER』についてはマヂカルラブリーさんもラジオでも話されていましたよ」
「え! 探してみます」
 かなり、同好の士であった。
 ありがたいことに、『HUNTER×HUNTER』は既刊36巻すべてがそろっていました。
「こっからここまで、全部ちょうだい!」
 一生に一度はやりたかった、大人買いのまねっこもしました。棚がごっそり抜けて、空になったのは壮観でした。

ページトップへ


 実はここまで、『HUNTER×HUNTER』を全巻買ったらいくらになるかわからん、というのが気になって、少し買い控えていた。でも、こう言ってはなんですが、漫画本て、小説なんかに比べると安いですね。440円だから、全巻買ってもまだあまりが......。
「それでは、鎌倉殿と同じように中世を舞台にした漫画はどうですか」
「そんなのあるんですか!」

【7】『逃げ上手の若君』1〜5巻(集英社)

『逃げ上手の若君』1〜5巻

 これまた、Oさんに『逃げ上手の若君』を勧められた。
「これは南北朝をテーマにしているんです」
「買います!」
 だって、南北朝ってむずかしくないですか。歴史の授業でもちょこっとしかやらないし、なんかごちゃごちゃしてたな、というくらいしかわからない。これを機に勉強しよう。

ページトップへ


 3万円を使い切った時はめちゃくちゃ爽快感があった。サウナでデトックスしたのと同程度かそれ以上に。本は全部で大きな段ボール箱2つ。物価高のきょうび、なかなかこれだけの買い物はできない。今後も人生に行き詰まったら、書店で3万を使おう。それくらいすっきりしました。
 あまりに楽しかったからでしょうか。家に帰って本を読み出した時、私は重大なことに気が付いたのです。『吾妻鏡』を読みたいと思って、漫画版は買ったのですが、『吾妻鏡』そのもの、『吾妻鏡』の本文に触れたものは1冊もないことに。
 というわけで、『吾妻鏡』(角川ソフィア文庫)を後に買い足し、私のお買い物は終わりました(笑)。

図書カード使い放題?! トップ
ページトップへ