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第62回:佐藤究さん

書物のテーマパークで遊ぶ
<プロフィール> 佐藤 究(さとうきわむ)
1977年福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義の『サージウスの死神』で第47回群像新人文学賞優秀作となり、同作でデビュー。16年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。18年、『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞を受賞。21年、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、第165回直木賞を受賞。

購入書籍No.   1234567891011

【1】『資本主義問題 千夜千冊エディション』(角川ソフィア文庫)

『資本主義問題 千夜千冊エディショ』

 ダ・ヴィンチストアの中心にはETQ(エディットタウン・キューブ)という〈本の箱庭〉があり、隣接する角川武蔵野ミュージアム内で松岡正剛さんが監修した「エディットタウン」と連動する形で、絵本、童話、神話、民話、日本文化、自然、科学、デザイン、建築、写真集といった書物が凝縮されて配置されている。この書店に来たらETQをチェックしない手はない。
 まずはここで資本主義がテーマになった1冊を選ぶ。拙著『テスカトリポカ』でも「暗黒の資本主義」の問題を犯罪小説という形態で取り上げたが、資本主義のダークサイドについての考察は、おそらく現代の書き手にとって責務の一つだ。

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【2】『舞踏という何か』(かんた)

『舞踏という何か』

 引きつづきETQの棚から。かつて私は詩人の河村悟さんに暗黒舞踏の創始者、土方巽について教えられ、舞踏家の放つ言葉の怖さを思い知った。ときにそれは詩よりも鋭く、哲学よりも深い。たとえば土方巽は、澁澤龍彥によるインタヴューのなかで、あらゆるジャンルの表現にたいして「舞踏性ということを一つもってくれば全部片づく」と言い切っている。その眼差しの恐ろしいまでの切れ味。私は小説のなかで〈身体〉という語を容易に使うことができない。身体とは何か。それは究極の謎である。言葉を扱う者にとって、身体を扱う舞踏は、常に巨大な深淵でありつづける。

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【3】『完本 麿赤兒自伝 憂き世戯れて候ふ』(中公文庫)

『完本 麿赤兒自伝 憂き世戯れて候ふ』

 こちらもETQにて入手。新刊書店でこれほど充実した舞踏コーナーにはなかなか出会えない。不勉強なことに、麿赤兒さんの自伝があるとは知らなかった。

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【4】『宇宙からきたかんづめ』(ゴブリン書房)

『宇宙からきたかんづめ』

 ETQから一歩も出ずに買い物を終えてしまいそうなので、強引に脱出。自分自身が選書した本の並ぶ場所に行って、そのうちの1冊を手にする。私が所有しているのは絶版になったフォア文庫版で、ゴブリン書房から出ている本書は持っていない。挿し絵もふくめて新しい印象が楽しみだ。
 肝心の選書フェアの自作ポップたちだが、手をかけすぎたせいか、作家みずから制作した、という雰囲気は一切なく、良くも悪くも周囲に溶けこんでしまっていた。

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【5】『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(紀伊國屋書店)

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』

 気づくとETQに引き戻されているのがダ・ヴィンチストアの特色だが、あるいはこれもETQで選んだのかもしれない。本書の帯に書かれた紹介文の一部は、つぎのとおりだ。─「自分の脳は死んでいる」と思いこむコタール症候群、自分の身体の一部を切断したくてたまらなくなる身体完全同一性障害─どうだろう。私にはどんな推薦文よりも強烈に感じられる。

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【6】『妖怪少年の日々 アラマタ自伝』(KADOKAWA)

『妖怪少年の日々 アラマタ自伝』

 荒俣宏さんのお名前が目に入った。前述したようにこの書店は角川武蔵野ミュージアムと隣接しており、いずれも〈ところざわサクラタウン〉の敷地内にある。そして角川武蔵野ミュージアムの内部には〈荒俣ワンダー秘宝館〉なる、荒俣さん監修の部屋が作られている。つまり〈ところざわサクラタウン〉には、松岡正剛と荒俣宏という二人のプロデューサーがいるわけで、「千夜千冊エディション」を買ったなら、当然『アラマタ自伝』も買わずにはいられない。

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【7】『ロスト・ラッド・ロンドン』全3巻(KADOKAWA)

『ロスト・ラッド・ロンドン 全3巻』

 KADOKAWA直営店だけあって、マンガも充実している。しかも活字と同じフロアにあり、違う階や別棟に移る必要がない。
 マンガを探すときには、なるべく人のアドバイスを聞く。重要な諜報活動だ。今回同行していただいた「本の雑誌」松村さんと、ダ・ヴィンチストアのNさん、お二人の女性におすすめを聞き、本書を選んだ。「3巻で完結する」のがポイントだという。のちに知ったが、少ない巻数で完結するか否かは、今どきのマンガにとって大きなポイントだそうだ。物語が長すぎると、新規参入者が尻ごみして近づいてこないらしい。

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【8】『白光』(文藝春秋)

『白光』

 当コーナーに呼ばれる直前、雑誌「ダ・ヴィンチ」編集部から今年の1冊を選ぶ〈ブック・オブ・ザ・イヤー〉のオファーを受けた私は『TOKYO REDUX 下山迷宮』(文藝春秋)を選んだが、そのときの担当者に「あなたのブック・オブ・ザ・イヤーは?」と逆に質問して、返ってきた答えが本書のタイトルだった。日本で最初のイコン画家となった山下りんの物語。イコンと言えば東方正教である。そこに明治の日本人がどのように関わったのか、非常に楽しみだ。

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【9】『史上最大のからあげ革命 日本の食文化を大きく変えた大分県の小さな専門店の挑戦』(ワニブックス)

『史上最大のからあげ革命 日本の食文化を大きく変えた大分県の小さな専門店の挑戦』

 頬を叩いて気合いを入れ直し、本探しの旅へ。東所沢までついてきたKADOKAWAの担当編集者、上野さんは背後で雑談に興じている。人の苦労も知らずに呑気なものだ。私が本書を手に取ると、「本当に買うんですか?」と訊いてきた。買いますよ。買っちゃだめなんですか。著者の井口泰宏氏がオープンした「げんきや」のからあげを、最近食べたばかりなのだ。

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【10】『遊牧民と村々のラグ キリム&パイルラグの本格ガイド』(グラフィック社)

『遊牧民と村々のラグ キリム&パイルラグの本格ガイド』

 買い物レース終盤、ゴール間近。どうしてこれを選んだのか記憶がない。ぼんやり本書の表紙を眺めていたら、「これはいい本ですね」と誰かが言った。すばらしい本であることにはまちがいない。

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【11】『冥途』(平凡社)

『冥途』

 絵本としての美しさ、そして何よりタイトルに惹かれた。

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