図書カードNEXT トップ > 図書カード使い放題?! > バックナンバー > 第6回:椎名誠さん

第6回:椎名誠さん

この企画毎月連載にしてもらいたいなあ
<プロフィール>1944(昭和19)年、東京生れ。
作家、「本の雑誌」編集長。『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー、『アド・バード』で日本SF大賞受賞。『わしらは怪しい 探検隊』シリーズなどの紀行エッセイ、『哀愁の町に霧が降るのだ』や『岳物語』『大きな約束』などの自伝的小説、また『ONCE UPON A TIME』など写真家としても活躍。

購入書籍No.   1234567891011121314151617

【1】『リヤカーマン アンデスを越える』(日本経済新聞出版社)

 この店ではいつでも最初に行く場所が決まっている。世界あちこちの旅話のある棚だ。このジャンルは近頃あまり元気がないので「おお!」とのけぞるようなニューフェイスは見なかった。しかしすぐに読みたいのは『リヤカーマンアンデスを越える』で、これはぼくがもう10年ほどやっている植村直己冒険賞の審査員のときに率先してこの無骨かつ魅力的な冒険者の応援をした。その受賞後の記録であるから見逃していたのが恥ずかしい。今夜、帰ってすぐ読む本とはこういうものをいう。

ページトップへ

【2】『アマゾンの巨魚釣り』(つり人ノベルズ)

 『アマゾンの巨魚釣り』は同じ作者の似たような本を何冊か持っているので、二重買いに気をつけなければならないが、ぱらぱらやって未読であることがわかった。こういうのはありがたい。

ページトップへ

【3】『東ヒマラヤ探検史』(連合出版)
【4】『黄河源流からロプ湖へ』(白水社)

 続いて『東ヒマラヤ探検史』、『黄河源流からロプ湖へ』の2冊は前々から出ているのを知っていた。特にロプ湖のほうは以前全集で買っているのだが、なぜかこの本だけが欠けてしまっていた。外国の旅に持っていってどこかに置いてきてしまったかだろう。このような企画ではこういう本をさして悔しがらずに買えるのが嬉しい。「西域探検紀行選集」全六冊の中の1冊であるこれは、第一期の同じシリーズからのよりぬき選のようなコレクションになっているようだ。8ポ 2段組み。
今、この原稿を書いているときは難なく読めるが、最近、やっとというかついにというか、老眼の兆しが出て、日によって時間によって老眼鏡がないと読みにくくなってきている。「西域探検紀行全集」はぼくのもっとも好きな本ばかりであるから、死ぬまでに全冊をもう1回読み返そうと思っていたのだが、もしかするとやがて視力の衰えとの競争になるかも知れない、という厳しい現実に気がついた。

ページトップへ

【5】『世界の不思議な家を訪ねて』(角川oneテーマ21)

 『世界の不思議な家を訪ねて』も同じ作者の同じ系統の本を何冊か持っているが、不思議とこれは初めての話がたくさん入っているのに気がついた。類型本をたくさん持っているから普段なら買わないが、こういう「公的資金」が懐にある場合は別だ。我ながらせこいなあ。

ページトップへ

【6】『海のレゾナンス』(舵社)

 いちばん迷ったのが『海のレゾナンス』で、舵社のこの手のヨットの航海ものは絶対に落とすことなく読んでいるはずで、現にこの本を引っ張り出して表紙を見たとき、ああ、これは持っているな、と思った。口絵の写真にも見覚えがある。たびたび繰り返してきた二重買いにはまる典型的な状態だ。しかしためしに中をぱらぱらやっていくつかのエピソードに目を通したのだが、かつて読んだという確たる記憶がない。「やや......?」的気分になり、さらにまたいくつかのエピソードをぱらぱら。この手の漂流記はおそらく50冊以上は読んでいるから、読んでいなくてもいわゆる既視感のようなものがあったりするのだが、この本にはそれがない。とするとこれは本当にまだ買っていないものなのだ。

ページトップへ

 しかし待てよ、という思いもある。わが激流型進行性脳細胞流出症の現在、1度読んだ本であっても既視感を覚えないほどにパーフェクトにその記憶が消滅しているのかも知れない──という思いがけない可能性に気がついた。大いに迷うところである。その逡巡をおしてまでもどうせ本の雑誌のお金だからという甘い気持で購入し、家に帰ってこれらの本が並んでいる棚で全く同じものがあるのを見つけたときの悲しみと「損した感」ははかり知れないものがある。
なんと10分ぐらい迷っただろうか。もっとフットワークのいい頃ならば、1回家に帰り確認してからまた出直すなりの方法も考えられるのだが、今はもしかするとそこでそうして迷ったことも翌日には忘れているかも知れない。えーい、これは買いだ。本を買うのも年齢による買い方があるというものだ。このジャンルの滞在時間が長かった。

【7】『文明の中の水』(新評論)
【8】『水と文化』(勉誠出版)

 続いて自然科学関係の本に行き、ほぼミズテンで買ったのが『文明の中の水』と『水と文化』の2冊だった。これは今、新潮社の「考える人」で足かけ4年やっている地球と水問題についての参考文献として、重要なまだ知らないでいた2冊だった。

ページトップへ

【9】『追跡! 私の「ごみ」』(日本放送出版協会)

 同時に『追跡! 私の「ごみ」』をかごに入れた。 地球の水問題をやっていると、どうしてもその隣に地球の廃棄物、いうところの自然環境問題にぶち当たる。日頃捨てているごみから排泄物まで、現代社会はそれにどう対処しているのか、案外わかっているようで本当は知らないこのテーマをぱらぱらやっているかぎりでは実にわかりやすく書いてるようで、これは今回のささやかな発掘本となった。

ページトップへ

【10】『海洋温度差発電』(サンマーク出版)

 さらに『海洋温度差発電』という写真や絵と文章による驚くべき簡単な造りの、しかし相当に内容の深そうな本を見つけて、これも野球でいえばタイムリーな一発ヒットのような気分で購入した。いったい誰が読むのだろうか、という単純な疑問と同時に、地球環境水問題を考察していく上で、波及していくのがこういった新エネルギーを考察していく本の一群であるということを再認識した。

ページトップへ

仕事がらみの参考書をあさっていくうちに、本日の買い物のターゲットとしていたもうひとつの関連資料本を探さなければならないことに気がついた。「小説現代」で連載を始めた新しいSFシリーズに絶対に必要な本で、それは人間の体の各部の正確な医学的名称や、体の働きをつかさどる部品とその仕事──の本が欲しい。しかしどんな本にそういうことが書いてあるのかわからない。置いてあるのはまあとにかく医学書方面だよな、と浜本とうなずきあい、我々が今まで入ったこともない医学書及び関連書のフロアーに突進した。
ここにもお客さんがたくさんいるが、棚を見ただけでたちまち手を引っ込めてしまいたくなるような、書名だけではそこに何が何のためにどう書かれているのかわからない本ばかりである。太刀打ちできないとはこのことだ。

【11】『臓単 語源から覚える解剖学英単語集[内臓編]』
【12】『肉単 語源から覚える解剖学英単語集[筋肉編]』
【13】『脳単 語源から覚える解剖学英単語集[脳・神経編]』
【14】『骨単 語源から覚える解剖学英単語集[骨編]』 (エヌ・ティー・エス)

 「よいこのやさしい医学なまえ事典」なんていうのがないかな、と思って歩いていると、いきなり目に飛び込んできたのが『臓単 語源から覚える解剖学英単語集』『肉単』『脳単』『骨単』という見慣れない文字のシリーズ4冊本であった。1冊ごとに3色の下品なカラー配分がされており、『臓単』などの表紙ではガイコツがあぐらをかいて踊りを踊っているようなイラストが描いてある。オビに「肝心かなめのシリーズ第4弾!! 役立つ雑学が、五臓六腑に染みわたる!!」などという挑発的な文字が躍っている。「五臓六腑に染みわたる!!」ですぜ。ぱらぱらやってみて、これぞまさしくぼくが求めていたもの以外の何物でもないということに気がついた。 思いがけないものを発掘したという衝撃的な喜びと達成感に、浜本と手に手をとって喜び合う。どの本も医学をめざす学生たちが人体臓器の名称を覚えるために買っているのだろうが、『肉単』などは発行して5年目で三十七刷と書いてある。ぼくの小説などの次元を遙かに超えている驚愕の書であった。 この4冊によって問題の多いわがハチャメチャSFがぎくしゃくと動き出す可能性を持った。

ページトップへ

【15】『スターメイカー』(国書刊行会)

 このあたりで浜本がもう予算オーバーです、と言う。しかしまだ時間は予定よりもだいぶん残っている。海外SFの棚に行き『スターメイカー』を買った。 2,600円。ハードカバーの、これはどうやらハードSFらしい。難しいSFは最近相当覚悟がないと読めなくなってしまったが、オビの惹句を見るかぎりこれは多分地味ながらも充実した1冊ではないかという確信を持った。

ページトップへ

【16】『釣り人の「マジで死ぬかと思った」体験談』
【17】水辺の怪談最恐伝説 釣り人は見た(つり人社)

ページトップへ

 3万円で好きな本をよりどりみどり、実に楽しい企画だ。浜本社長にこれからこれを毎月連載したいと申し出たが、約2秒で断られた。

図書カード使い放題?! トップ
ページトップへ