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第49回:武田砂鉄さん

隅々まで歩いてお買い物
<プロフィール> 武田砂鉄(たけだ・さてつ)
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論――テレビの中のわだかまり』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』(晶文社)など。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。

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【1】『みすず』2019年1・2月合併号(みすず書房)

『みすず』2019年1・2月合併号

 まずは恒例の読書アンケートが掲載されている『みすず』2019年1・2月合併号。友人の植本一子さんの写真が表紙を飾っており、数日前に、「すごいね、『みすず』の表紙じゃん」とメッセージ送っておいたのは「何冊か送られてきているだろうから今度会った時に一冊くれないかな」との含意もあったのだが、それを汲み取ってはくれなかったので購入。毎年、この読書アンケート号を通読すると、それなりに本屋に通い詰めているつもりなのに、存在自体知らなかった本をいくつも知ることになる。そのうちに読もう、といくつも折り目をつけていくのが楽しみなのだ。

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【2】『ベストセラーはもういらない ニューヨーク生まれ 返本ゼロの出版社』(ボイジャー)

『ベストセラーはもういらない ニューヨーク生まれ 返本ゼロの出版社』

 この店に来れば、とにかく端から端まで見ることになるが、まずはレジ前の新刊台。「ニューヨーク生まれ 返本ゼロの出版社」とのサブタイトルに惹かれて(惹かれない出版関係者がいるだろうか)、秦隆司『ベストセラーはもういらない』を手に取る。当然、あっちの市場だから、値引き販売のことにも触れられている。どうやら日本でもその可能性が浮上してきた。導入するネット書店は「ベストセラーしかいらない」って言い出しそうな気がするけれど。

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【3】『夢も見ずに眠った。』(河出書房新社)
【4】『たのしい暮しの断片』(平凡社)
【5】『月』(KADOKAWA)

『夢も見ずに眠った。』『たのしい暮しの断片』『月』

 新刊が出ればもれなく手に取る絲山秋子『夢も見ずに眠った。』と金井美恵子・文/金井久美子・絵『たのしい暮しの断片』を一秒も迷わずにカゴに入れ、相模原障害者殺傷事件に想を得た辺見庸の小説『月』も手に。オビの裏には「ニッポンに巣くう底知れぬ差別。良識をきどった悪意。"浄化"と排除の欲動」とある。役に立つ人間かそうではないかを査定する社会の到来を、しつこく刮目する。

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【6】『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』(医学書院)

『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』

 シリーズ買いをしているのが医学書院から出ている「ケアをひらく」だ。シリーズ新刊が村上靖彦『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』。システマチックに「死」を作り出す病院から離れて、生きること、そして死を迎えることの可能性を探り、語りかけることの意味を問う。何かの本で、病院に入院している患者が一日に話しかけられるのは数分程度で、そのほとんどが命令形だと読んだ。食べてください、起きてください、測ってください......有機的な会話を残すのって生きる糧になる。

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【7】『見知らぬものと出会う ファースト・コンタクトの相互行為論』(東京大学出版会)

『見知らぬものと出会う ファースト・コンタクトの相互行為論』

 いくつもの書評を読んでいて気になっていた木村大治『見知らぬものと出会う ファースト・コンタクトの相互行為論』をようやく購入。宇宙や宇宙人といかに接触してきたか、そこからコミュニケーションのあり方を探るという。理解不能な存在と出会う、と言われると、そもそも人間って理解可能な存在だったっけ、という問いも浮上しそうで興味深い。

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【8】『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル』(柏書房)

『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル』

 島津冬樹『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル』も書評で知り、気になっていた一冊。世界各国でダンボールを拾い、財布などに加工して売る商売を始めた著者は、とにかくがむしゃらにダンボールを追い求める。パラパラめくって、各国の段ボールを確認するだけでも楽しい。

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【9】『リベラルを潰せ 世界を覆う保守ネットワークの正体』(新潮新書)
【10】『平成史講義』(ちくま新書)

『リベラルを潰せ 世界を覆う保守ネットワークの正体』『平成史講義』

 新書コーナーで手に取ったのは、金子夏樹『リベラルを潰せ 世界を覆う保守ネットワークの正体』と吉見俊哉編『平成史講義』。前者は、ここに来るまで出ていたラジオのプロデューサーから、面白いので読んでみてくださいと推薦されていた本。世界各地で不気味に息づく保守の連携を捉える。後者は今年たくさん出るであろう平成本(何を隠そう自分もその手の本に参加している。『平成遺産』発売中)の中でも硬派な一冊。「平成最後の」という枕詞の連呼による騒ぎを前に、失われたもの、奪われたものをうやむやにされないようにしなければ、と思う。

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【11】『やっぱりいらない東京オリンピック』(岩波ブックレット)
【12】『一九六四年東京オリンピックは何を生んだのか』(青弓社)

『やっぱりいらない東京オリンピック』『一九六四年東京オリンピックは何を生んだのか』

 あちこちで東京オリンピック開催に反対する原稿を書いてきたが、そろそろいいか、と引き下がる気はない。どうやら賛成しておくといいことがあると気づいた人たちが、こっそり転向する2019年になるのだろうが、そんな中で、小笠原博毅・山本敦久『やっぱりいらない東京オリンピック』の刊行が頼もしい。一瞬の楽しさと引き換えに失うものとは何か、社会を息苦しくする存在ではないか、と指摘する一冊にある「本当にやるの?」という挑発を繰り返したい。そもそも55年前のオリンピックって成功ってことでよかったんだっけ、と冷静に実態を振り返る石坂友司・松林秀樹編著『一九六四年東京オリンピックは何を生んだのか』も助けになる。オリンピックそのものだけではなく、開催にかこつけた道路整備をはじめとした公共事業の評価にも踏み込んでいる。

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【13】『[増補]論壇の戦後史』(平凡社ライブラリー)
【14】『イラスト・ルポの時代』(ヤマケイ文庫)
【15】『不敗のドキュメンタリー 水俣を撮りつづけて』(岩波現代文庫)

『[増補]論壇の戦後史』『イラスト・ルポの時代』『不敗のドキュメンタリー 水俣を撮りつづけて』

 文庫・新書コーナーで手に取った奥武則『[増補]論壇の戦後史』、小林泰彦『イラスト・ルポの時代』、土本典昭『不敗のドキュメンタリー 水俣を撮りつづけて』は、ジャンルは異なれど「戦後」というテーマが通底している。このところ、後藤正治さんが出した本田靖春評伝『拗ね者たらん』に関連した仕事がいくつか重なった。編集者時代に本田靖春の特集ムックを編集したこともあり、ありがたいことに後藤さんと対談したりインタビューを受ける機会に恵まれた。本田はとにかく「戦後」を象ることに固執した。本田の書いたものをまとめて読み返していたので、そこに紐付けしたくなる本をいくつか手にした。

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【16】『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』(リットーミュージック)

『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』

 こちら、無類のヘヴィメタル好き。メタルバンドのヴォーカリストでもあり、音楽ライターでもある川嶋未来が記した『意味も知らずにヘヴィメタルを叫ぶな!』は要注目。メタルの歌詞には実際にどんなことが書かれているのかを探求した一冊で、時に検閲とも戦ってきたメタルの歌詞の実情を探る。どんなに過激な言葉を吐こうが、ファンの知性を信頼しているから、と語るデスメタルバンドの言い分に、そうだそうだと頷くものの、多くの人は頷いてくれないと思う。かつて、オジー・オズボーンは、歌詞に触発されて自殺したと遺族から訴えられたことがある。だが、歌詞に自殺を誘発する言葉なんてなかった。すると、今度はサブリミナルメッセージが、と主張される。もちろん棄却されたが、嫌われがちな音楽の歌詞世界は、時に深遠で、時にチープだ。

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【17】『我的日本 台湾作家が旅した日本』(白水社)

『我的日本 台湾作家が旅した日本』

 こちらが無類のメタル好きならば、妻は無類の台湾好き。そして、こちらが極度の花粉症という事情も相まって、毎年春になると一定期間台湾に行くことにしているのだが、台湾の作家18名が日本を旅した記録、呉佩珍・白水紀子・山口守編訳『我的日本 台湾作家が旅した日本』が面白そうだ。なかなか咲かない、ほんの少しだけ口を開けている桜の花を見て、「これって鼻の穴から鼻毛が出てるのに似てない?」とある。これは必読だろう。

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【18】『東西書肆街考』(岩波新書)

『東西書肆街考』

 不倫している芸能人が、少し離れたところに相手を歩かせるような感じで、Tさんが少し離れたところにいる。Tさんを呼び寄せてこれまでの金額を計算してみると、あと新書一冊くらいはいけそうだとのこと。新書コーナーに、この東京堂も載っています、とのポップが置かれた脇村義太郎『東西書肆街考』があり、これを最後の一冊にする。神田神保町の街がいかに形成されたかを学びたい。

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 せっかくだからと、東京堂書店の裏手にある本の雑誌社を訪問、Tさんが手がけている写真集(大山顕『立体交差 ジャンクション』)の色校を見せてもらう。なんと、著者もTさんも免許を持っておらず、電車や徒歩でジャンクションを訪ねたのだという。その時間のかかる感じ、素敵ですね、と伝えてから帰った。

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