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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第48回:茂木健一郎さん

パラダイスで狂喜乱舞
<プロフィール> 茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。専門は脳科学、認知科学。「クオリア」をキーワードとして脳と心の関係を研究している。2005年『脳と仮想』で第4回小林秀雄賞、09年『今、ここからすべての場所へ』で第12回桑原武夫学芸賞を受賞。その他『脳とクオリア』『生きて死ぬ私』『東京藝大物語』『ペンチメント』など著作多数。

 今月の図書カード3万円お買い物コーナーは茂木健一郎氏が登場! 専門誌から実用書、図鑑に古典まで、ディープな農業書の世界を満喫して一気に選んだ13冊はこれだ!
(平成30年10月10日 於農文協・農業書センター)

 基本的にぼんやり生きているけれども、それにはちゃんと理由がある。
 あまりこうだと決めつけずにふらふらしていると、思わぬ「出会い」があるのだ。
 しばらく前、東北地方に行った。駅前のホームセンターみたいなところをぶらぶらしていると、書籍コーナーがあった。
 場所柄というべきか、地域の本が多い。
 雑誌コーナーに何も考えずに行ったら、なんだか「色味」というか、印象が際立っていて、心の中に飛び込んでくる一冊があった。
 うむ、これは、と手にとると『現代農業』とある。「現代」という修辞と、「農業」という文字が組み合わさって、心の中に鮮やかな光が生まれた。
 帰りの新幹線の中で、夢中になって読んだ。農業についての、「実践的」かつ「オタク」な知識が詰め込まれていて、今こそ読むべき雑誌だと感じた。
 乾ききったタオルに水が染み込むような、そんな具合に、私の脳は『現代農業』を吸い取ったのである。
 世の中には、流通している情報の「相場」のようなものがある。例えば今だったら、人工知能や宇宙開発、インターネット、仮想通貨などについての情報は目にすることが多いだろう。
 しかし、これらは言うまでもなく世界のごく一部分でしかない。人は、部分だけに接していると、偏ってしまう。心が乾いてしまう。
 そんな乾ききった私の心に、『現代農業』の「甘露」がじんわりと染み込んできたのだ。
 そんな話を、農業やガーデニングに詳しい人たちにしたら、口々に「それは農文協でしょ!」と言う。
「ん? 農文協?」
「知らないんですか。『現代農業』の発行元ですよ。」
 私は、手元にあった『現代農業』の表紙を改めて見た。
 確かに「農文協」と書いてある。
「農文協」というのが、発行元なのか!
 畳み掛けるように、事情通たちは言う。
「それに、農文協の本屋さんもあるし!」
 えっ、そうなのか。それは、凄そうだ!
 実際には、「農文協」とか、「農文協の本屋さん」とか、そういう文字列というか音を以前から目にしたり聞いたりしていたようにも思うのだけれども、急に心の中で大きくなりだした。
 農文協。その、書店。農業オタク、ガーデニングマニアたちの聖地。
 そんなイメージが、私の中で急速に膨らんでいった。
 そこに行けば、この乾ききった私の心というタオルに、慈雨のようにグリーンな知識が注がれていくに違いない!
『現代農業』との衝撃の出会いから時が流れ、私は神田神保町近くの街角に立っていた。
 いよいよ、農文協書店、正確には「農文協・農業書センター」にうかがうのである。
 しかも、「本の雑誌」のご好意により、なんと図書カードで三万円分使い放題だというのである!
 わあ、どうしよう、何を買おう!
 遠足に行く前の晩の子どものように、私の心はわくわくしていた。
 ところで、私は以前から、賞品とか景品、プレゼントに図書カードを選ぶという習慣を好ましいものだと思っている。
 学生向けのコンペや、大会の景品としても、「図書カード」が選ばれることも多い。もちろん、同じ金額を現金で受け取っても、本を買えば同じことだけれども、「図書カード」というかたちで贈り、受け取るのはなんだか「奥ゆかしい」気がする。
 学生の読書離れとか言われているけども、まだまだ本好きな若者も多い。図書カードで好きな本を買えたら、嬉しいだろう。
 図書カードという文化自体が好きなのである。
 その図書カードを使いに、いよいよ、農文協に行く。
 グーグル・マップで調べると、どうも、私がいつも通り過ぎているあたりである。映画のセレクションが素晴らしい岩波ホールがあるし、近くには小学館もあり、おいしいカレー屋さんもある。
 あれ、あのあたりにそんなに大きな書店があったっけ、と思って行ったりきたりしているうちに、ビルの入り口と、エレベーターが見つかった。
「3F、農文協・農業書センター」と書かれている。
 上がると、そこはもう「パラダイス」!
 明るい店内に、農業書の充実のラインアップがいきなり目に飛び込んできて、私の心は狂気乱舞し始めたのだった。
 図書カードを持っているはずの本の雑誌編集部の松村眞喜子さんの姿が見当たらず、ちょっとあせったが、「階段」の方で待っていらしたことがわかった。
 農文協・農業書センターには階段でも来られるのだが、一階がドラッグストアになっていて、少しわかりにくいのだ。
 本の街、神田神保町の中心にあるにもかかわらず、自分を主張していないというか、知る人ぞ知る、というかたちで息づいている「農文協の本屋さん」。そのことで、ますます私は好意を抱いてしまった。
 さてさて、無事松村さんとも合流できたので、いよいよ本や雑誌を物色し始める。
 店長の荒井操さんが、ニコニコ笑いながら、一緒についていろいろと解説くださった。
 口ひげの素敵な、さわやかな印象の方である。

茂木健一郎さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『現代農業』2018年2、9月号 農山漁村文化協会 ¥1,646
『聞き書 福岡の食事』 中村正夫他編/農山漁村文化協会 ¥2,983
『聞き書 佐賀の食事』 原田角郎他編/農山漁村文化協会 ¥2,983
『自分で出来る打ち抜き井戸の掘り方』 曽我部正美/KN企画 ¥1,944
『植調雑草大鑑』 浅井元朗/全国農村教育協会 ¥10,584
『新版 土壌診断と作物生育改善』 日本土壌協会編/日本土壌協会 ¥4,104
『現代に生きる大蔵永常』 三好信浩/農山漁村文化協会 ¥1,728
『種子法廃止でどうなる?』 農文協編/農山漁村文化協会 ¥972
『有機農法 自然循環とよみがえる生命』 J・I・ロデイル著、一楽照雄訳/農山漁村文化協会 ¥2,006
『田んぼの生きもの識別図鑑』 地域環境資源センター ¥432
『ポケット版 田んぼの生きもの図鑑 植物編 改訂版』 NPO生物多様性農業支援センター ¥411
『ポケット版 田んぼの生きもの図鑑 動物編 改訂版』 岩渕成紀編著/NPO生物多様性農業支援センター ¥411
合計 13冊 ¥30,204

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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