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第43回:尾崎世界観さん

本棚の前の時間
<プロフィール> 尾崎世界観(おざき・せかいかん):1984年生まれ。東京都出身。クリープハイプのヴォーカル・ギター。2012年4月にアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャー・デビュー。2016年6月に初小説『祐介』(文藝春秋)を刊行。他著に『苦汁100%』(文藝春秋)。

購入書籍No.   12345678910111213141516171819

【1】『ヒトを喰う生き物』(ビジネス社)
【2】『観察する目が変わる動物学入門』(ベレ出版)
【3】『動物になって生きてみた』(河出書房新社)

『ヒトを喰う生き物』『観察する目が変わる動物学入門』『動物になって生きてみた』

 最近興味を持っている動物の生態について。こうして見てみると、色んな角度から書いた本が並んでいて感心する。冷静にデータで分析したものもあれば、ファンタジーの要素で書かれたもの、シンプルに写真だけで構成された男らしいものまで、動物の種類に合わせて実にさまざまだ。書くという行為自体がそうに違いないけれど、会話が成り立たない動物を書くということは、更に一方通行になる。だからこそ、色んな角度から書けるんだろう。人間だけで精一杯で他の生き物なんか気にしてられないよ、と思っていたけれど、最近は、だからこそ他の生き物に救われるのかもしれないと思っている。なんか壮大なテーマに引きずり込まれそうなので、次へ。ここでは3冊購入。

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 山岳の棚は取っつきにくい。ある程度の知識がないと相手にしてくれないような意地悪さがある。山は怖いぞ、そんな覚悟で登れるのか、と詰められているようで。早々に下山。

【4】『うたたね』(リトル・モア)

『うたたね』

 昔から写真集が好きだった。写真集そのものも、写真集の棚も。大抵どこの本屋も、写真集の棚は人気のない奥まった所にある。まだ本屋が戦場だったころ、この場所は防空壕だった。敵が来ないから、ゆっくり、ゆったりした気分で見れた。買えないけれど、その分必死に焼きつけた。ページの匂いも手触りも、重くて開きにくい写真集自体も。写真集の棚で、初めて写真集を好きになったきっかけの写真集を見つけた。頑張っても手の届かない物だと諦めていたけれど、値段を見て拍子抜けした。金がないということは、なんて豊かなことなんだろう、と嬉しくなって1冊購入。

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 ここに来て気づいていた。本を買うのが辛い。棚の前で何時間も迷って400円の文庫本を買っていた人間だ。1度に3万円分の本を買うということに、細胞が反応している。かと言って、それを悟られるのも格好悪い。 「あっ、忘れてた。3万まであといくらっすか? ほっとくとついつい買いすぎちゃって。へへ」という余裕も見せておきたい。それにしても、手に取ってからカゴに入れるまでの間が長い。それでも買う。買うしかない。平静を装って、「あといくらですか?」と聞いてみた。果てしない。それでも、行く。

【5】『緑のさる』(平凡社)
【6】『星の子』(朝日新聞出版)
【7】『地鳴き、小鳥みたいな』(講談社)
【8】『静かな雨』(文藝春秋)
【9】『やがて海へと届く』(講談社)
【10】『花火の音だけ聞きながら』(双葉社)
【11】『裏切りのホワイトカード 池袋ウエストゲートパーク13』(文藝春秋)
【12】『息子と狩猟に』(新潮社)

『緑のさる』『星の子』『地鳴き、小鳥みたいな』『静かな雨』『やがて海へと届く』『花火の音だけ聞きながら』『裏切りのホワイトカード 池袋ウエストゲートパーク13』『息子と狩猟に』

 ついにやって参りました。文芸の棚へ。去年、小説を出版してから、この文芸の棚が怖くなった。今売れている本を見るのも、自分が書いた本がその棚からこぼれているのを認めるのも辛くて、あれだけ好きだった本屋に行けなくなってしまった。本職であるバンド活動においても、同じ理由でCD屋から遠ざかっている。
 ただ、今日は避けて通れない。ここから逃げて3万円分の本を買うのは不可能だ。それに、棚を見ていて悔しい程に胸が踊る。ざっと見ただけでも、すぐに読みたい本が何冊か見つかる。ちくしょう、こうなったら片っ端から買ってやるよ、と開き直ってカゴへ放り込む。これにはポップが付いているのにこれにはポップが付いていない、このポップは既存のものでこのポップは店員さんの手書きだ、そんなことが気になって仕方ない。そんな面倒なモヤモヤも、まとめて一緒にカゴにドーン。とにかく買った。8冊購入。気になるけれど、後で誌面に載ってこの人を読んでると思われたくない、そんな作家の本は外す自分の器の小ささに泣けた。

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【13】『関東戎夷焼煮袋』(幻戯書房)
【14】『チバユウスケ詩集 モア・ビート』(HeHe)
【15】『志の輔の背丈』(毎日新聞出版)

『関東戎夷焼煮袋』『チバユウスケ詩集 モア・ビート』『志の輔の背丈』

 こちらも鬼門、タレント本の棚。自分の書いた小説が文芸の棚でなく、ここに置かれていた時の絶望感。置いてもらえるだけでありがたいし、「お前が文芸だと? お前なんかチン毛だよ」という気持ちもわかります。でも、目標としては、やはり文芸の棚に。でも、面白そうな本がいっぱいある。あの人の本もここに、あの人も、あの人も、なんだ皆ここにあるじゃないか、と嬉しくなった。笑顔で3冊購入。
 文芸の棚にも、タレント本の棚にも、両方置いてもらえるような二刀流を目指したい。目指せ大谷翔平君。

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【16】『新編 啄木歌集』 (岩波文庫)

『新編 啄木歌集』

 俳句、詩の棚は閑散としている。何だか箪笥の匂いがする、ような気がする。おばあさんが優しい笑みを浮かべながら棚に手を伸ばしているのを見ていると、とても癒される。見えない何かに導かれるように1冊購入。

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【17】『爪と目』 (新潮文庫)
【18】『第2図書係補佐』 (幻冬舎よしもと文庫)

『爪と目』『第2図書係補佐』

 気がつくとずいぶん時間が過ぎていた。3万円まで残りわずか。文庫の棚へ駆け込む。これもどうでもいい話になるけれど、文庫の棚を見ていると、団鬼六という文字ばかり目に飛び込んでくるのはなぜだろう。この日もそうだった。病気なのかな。派手な帯がかかった文庫本は、どれも負けじと似たようにそうだから、目当てのものを探し当てるのが難しい。こんな時は、私服店員の川俣さんに聞くに限る。川俣さんは、棚の脇に釣り下がった目録をザッとめくると、すぐに目的地へ案内してくれた。あぁ、あの目録って、ただの飾りじゃなくて意味があったんだなぁ。飾りじゃないのよ目録は、なんだなぁ、と感心しながら2冊購入。

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【19】『新版 家畜飼育の基礎【農学基礎セミナー】』 (農山漁村文化協会)

『新版 家畜飼育の基礎【農学基礎セミナー】』

 普段縁のない本も、という今日のテーマを思い出して、農業のコーナーで家畜飼育についての本を1冊購入。動物の生態についての本とは、近いようで果てしなく遠い。これからゆっくりと時間をかけて学んでいきたい。

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 合計金額2万9997円。
 よく買った。買えないのも悔しいし、買えるのも心苦しい。自分にとって、いつまでたっても本はご褒美なんだと思った。とっておきの日に、とっておきの本を1冊買う。これからもそうしていこうと思った。  貴重な体験と、家にまだ読んでいない本が山ほどある幸せを、ありがとうございます。

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