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第40回:柚月裕子さん

「欲しい本」と「必要な本」
<プロフィール> 柚月裕子(ゆづき ゆうこ)
1968年、岩手県生まれ。山形県在住。2008年、『臨床真理』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。2016年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。他の著書に『最後の証人』『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』『あしたの君へ』『慈雨』『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』がある。

購入書籍No.   123456789101112131415

【1】『文章読本』(中公文庫)
【2】『問題な日本語』1~4(大修館書店)

『文章読本』『問題な日本語』1~4

 逢坂さんが教えてくださったのは次の2冊。谷崎潤一郎の『文章読本』と、林美一の本だ。杉江さんからペンを借りて、割りばしの袋にメモを取る。そしてもう1冊。会食中に「日本語がいかに難しいか」という話になり、逢坂さん曰く「『問題な日本語』は面白い」とのこと。これもメモメモ。この時点で、今日買うべき本が3冊決まった。  楽しい会食を終えて、いざ三省堂神保町店さんへ。そこで文春の3人はお帰りになり、集英社の栗原佳子さんと眞田尚子さんと合流。

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【3】『江戸の二十四時間』(河出文庫)

『江戸の二十四時間』

 さっそく店内に入りお買い物開始。まずは逢坂さんから教えていただいた3冊を─と箸袋を手に4階にある時代の棚をうろうろしていると、さすがプロ中のプロ書店員!内田さんがすばやく本を持ってきてくださった。残念ながら逢坂さんおすすめの林美一の本は在庫切れだったため、同じ著者の『江戸の二十四時間』とほかの本を購入。

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【4】『殺人犯との対話』(文藝春秋)
【5】『よくわかる高齢者の心理 (改訂版)』(ナカニシヤ出版)
【6】『何が彼を殺人者にしたのか』(イースト・プレス)
【7】『捜査心理学』(北大路書房)
【8】『知的障害と裁き』(岩波書店)

『殺人犯との対話』『よくわかる高齢者の心理 (改訂版)』『何が彼を殺人者にしたのか』『捜査心理学』『知的障害と裁き』

 次に向かった棚は5階にある心理学の棚。かねてから「人の心が一番のミステリー」と思っている自分にとって、精神医学や心理学の書籍は執筆の上で欠かせない。さすが三省堂さん、その類の本があるある! しばし悩みその棚から5冊を購入。なかでも凶悪殺人犯と呼ばれる10人を取材した『殺人犯との対話』は非常に興味深く、『よくわかる高齢者の心理』はこれからの時代を描いていくには欠かせない本だと感じた。

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 ここにきて、はたと気づいた。
 ちょっと待て自分。今日は必要な本ではなく欲しい本を買うと決めてきたではないか。とはいえ見つけてしまった興味深い本を棚に戻すことなどできず、カゴに入れたまま6階のコミック売り場へ向かう。

【9】『名作マンガで精神医学』(中外医学社)

『名作マンガで精神医学』

 物心ついた頃から、本と呼ばれるすべてのものが大好きだった。もちろん、マンガもである。売り場に入った途端、平積みになっている『名作マンガで精神医学』という本が目に留まった。名作と呼ばれるマンガを取り上げて、精神疾患の症状や治療に至るまでの経緯を書いているという。実際のケースも用いられていて、これは読みがいがあると購入。

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【10】『哭きの竜』1~3、5(小学館文庫)

『哭きの竜』

 順に棚を見ていくと、おお、懐かしい本が! 『哭きの竜』だ。昔、全巻そろえたが置き場所が無くなり、泣く泣く手放したマンガだ。名セリフ「あンた、背中が煤けてるぜ」に痺れたくて、売れてしまっていた4巻を除く全巻購入。これは仕事が詰まってないときにしか手をつけられない。読みはじめたが最後、途中ではやめられないからだ。

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【11】『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』(小学館クリエイティブ)

『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』

 そして新たに懐かしい本を発見! と思ったが、いやこれは違う。手塚治虫の名作『ブラック・ジャック』のパロディ『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』である。パロディではあるが、これには驚き。手塚治虫の絵柄、ペンタッチ、カラー画まで本人が描いたと言われれば肯いてしまうほどのクオリティだ。「シャーロック・ホームズ」で本格的に小説世界に入った私は、ホームズのパロディが出ると手に入る限り購入している。それは「ブラック・ジャック」も同じだ。著者が鬼籍に入りもはやオリジナルが読めないいまとなっては、パロディで寂しさを埋めるしかない。シャーロッキアンならぬ、ブラックジャッキアン(?)な私。この本を即買い。

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【12】『世界で一番美しい猫の図鑑』(エクスナレッジ)

『世界で一番美しい猫の図鑑』

 誰かから「この世で絶対に敵わないものは?」と聞かれたら即座に「猫」と答える。私は自他ともに認める猫好きで、自宅でも2匹の猫を飼っている。どんなに具合が悪くても、仕事が忙しくても、猫にひと声鳴かれたら彼らに従ってしまう。
 そんなわけで、実はこの日のために、ずっと買わずにいた本があった。『世界で一番美しい猫の図鑑』だ。この本は猫のルーツを知ることができ、また、猫は可愛いだけでなく美しい動物だ、と再認識させてくれる。しかも! 表紙になっている猫ちゃんのクリアファイル付き! 思わぬオマケがついていて、ものすごく得をした気分になる。実際にはもったいなくて使えないのだが。

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 さて、ここまで来て、同行してくださっている杉江さんにざっと計算していただく。まだ5,000円ほど買えるとのこと。本ってなんて贅沢なんだろうとつくづく思う。ここまで購入した本を読み終わるには、かなりの時間がかかるだろう。充実した至福の時間と数多の知識が25,000円ほどで手に入るのだ。

【13】『建築知識』2017年1月号(エクスナレッジ)
【14】『日本の名作住宅の間取り図鑑』(エクスナレッジ)

『建築知識』2017年1月号『日本の名作住宅の間取り図鑑』

 よし、残りの5,000円を大切に使おう。と思いふと通路の横を見ると、建築関係の本がずらりと並んでいる。平積みになっている本のなかで、2冊の本が目についた。「建築知識2017年1月号 ~猫のための家づくり」『日本の名作住宅の間取り図鑑』だ。
「建築知識~」には、猫にとって住みやすい場所の作り方が載っていた。今年からシニアになるうちの猫にとって参考になる。『日本の名作住宅~』は、日本家屋好きにはたまらない一冊だ。江戸から昭和までの日本の住宅遺産が紹介されているうえに、「真壁」や「ガラリ」といった用語も載っている。これはとても役に立つ。

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【15】『カメラは撮った! 山口組「激動」の101年、その瞬間』 (宝島社)

『カメラは撮った! 山口組「激動」の101年、その瞬間』

 残りあと一冊。なににしようかと悩んでいるとき、目に飛び込んできた本があった。『カメラは撮った! 山口組「激動」の101年、その瞬間』である。現在、警察×極道小説を書いている自分にとって、これは必要不可欠だ。
 ここまでの合計金額を杉江さんに計算していただき、490円を残してお買い物終了。  今回の企画で、新たに気付いたことがある。購入した本をご覧いただけばおわかりだと思うが、いまの私は「必要な本」と「欲しい本」が同じになってしまっている、ということだ。単純に考えれば、自分が求めている本が、作家になる前に比べて倍になっているということだ。ううん、これは嬉しい! 世の中には読みつくせないほどの書籍があり、本に関する興味は尽きない。まだまだ読みたい本がいっぱいある! このたびの買い物は「欲しい本を買う」という当初の目的から少しずれたが、「必要な本」と「欲しい本」が両方手に入り、また、前に述べた新たな発見があった充実したものだった。
 素晴らしい企画にお声がけいただいた本の雑誌社のみなさま、忙しい時間を割いて企画に関わってくださった方々、そして、おすすめの資料本を教えてくださった逢坂さんに、この場を借りて心から御礼申し上げます。とても楽しかったです!

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