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第37回:原田マハさん

アートブック一気買い
<プロフィール> 原田マハ(ハラダ・マハ)
1962年、東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。2005年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞、デビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞、第5回R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードを受賞。その他の作品に『暗幕のゲルニカ』『ロマンシエ』『ジヴェルニーの食卓』などがある。

購入書籍No.   1234567891011121314

【1】『陸奥A子』(河出書房新社)

『陸奥A子』

 いよいよ見慣れた4階へやってきた。脇目もふらずに「美術」のコーナーへ猪突猛進する。今日ばかりはお財布の中身を気にせずに、美術書を買って買って買いまくれるのだ。っていやいや、上限3万円だよ、たぶん5冊くらいで終わるかもよ? そしたらそれ以上は自腹だよ、落ち着け、どうどう、と自分をいなす。
 そんな私がまず手に取ったのは、格調高き美術史の名著、E・H・ゴンブリッチ博士の「美術の物語」─じゃなくて、「『りぼん』おとめチック?ワールド 陸奥A子」であった。いったい誰の策略なのだろうか、A子たんのムック本は堂々とアートブックのコーナーに、ゴンブリッチ的美学書とともに並べられていた。この時点で、私は三省堂の書店員さんの術中にはまったといえる。まず値段の高い美術書で基礎固めをしてから、もしも予算がちょこっと残ったら、ワゴンで待ち受ける「オバマ」を買おう─という戦略は、あっけなく突き崩されてしまった。まったく想像もしなかったおとめチック少女マンガをアートの文脈で見せるという高度な技術。恐るべし三省堂神保町本店......!

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【2】『作家の旅』(平凡社)
【3】『作家と温泉』(河出書房新社)
【4】『作家の珈琲』(平凡社)

『作家の旅』『作家と温泉』『作家の珈琲』

 と、A子たんの周辺を眺めてみると、あるあるあるある、「これってアートなの?」と言いたくなるような、しかし「アートの文脈でとらえるといっそ面白い」というたぐいの本。テーマで見せる写真満載のムック本である。わたしはこの手の本─「とんぼの本」「コロナ・ブックス」などがことさら好きで、すでにたくさん持っているのだが、テーマが面白そうだとつい買ってしまう。「作家の...」と冠がついていると、たちまち興味をそそられる。私は、憧れのアーティストや文豪の足跡をたどる、なんていうことも好んでするので、「作家の旅」「作家と温泉」「作家の珈琲」を三連発でカゴに入れる。

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【5】『昭和なくらし方』(河出書房新社)
【6】『女中がいた昭和』(河出書房新社)
【7】『昭和の結婚』(河出書房新社)

『昭和なくらし方』『女中がいた昭和』『昭和の結婚』

 さらに「作家」シリーズの近くに「昭和」シリーズも発見。「昭和なくらし方」「女中がいた昭和」「昭和の結婚」......興味そそられまくりである。小説の資料になりそうだし、これも買い!

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【8】『川端康成伝 双面の人』(中央公論新社)

『川端康成伝 双面の人』

 おっ、「川端康成伝 双面の人」なんて、昭和の大文豪の伝記まである。川端は、私がもっとも敬愛する作家だ。「作家」シリーズと「昭和」シリーズを熟読したのち、これを読めば、昭和を代表する小説がいかにして書かれたか、手に取るようにわかるだろう。よし、これも入れちゃえ。

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【9】『ムンクを追え!』(光文社)

『ムンクを追え!』

 ─ちょっと待て、まだ一冊も美術書に手を伸ばしていないじゃないか......と気がついて、自分でドン引きする。いやいやいや、ここから挽回しますよ。あとは美術書以外買いませんよ、ええ決して。─おお、これはどうかな? 「ムンクを追え! 『叫び』奪還に賭けたロンドン警視庁美術特捜班の100日」。94年にノルウェー国立美術館からあの「叫び」が盗まれた事件を追いかけた小説仕立てのノンフィクションだ。ちょっと読んでみると、なかなかスリリング。これも小説の参考になるかも、とチョイス。だいぶ美術に近づいたが、美術書というには無理がある。ぜひとも高額な美術書を! と狙っているときに限って、目が泳ぎまくってターゲットを絞り切れない気がする。

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【10】『小林秀雄全作品20 ゴッホの手紙』(新潮社)

『小林秀雄全作品20 ゴッホの手紙』

 次に選んだのは、小林秀雄の名著「ゴッホの手紙」。若い頃に読もうと思って挫折した一冊。小林秀雄はよく現国のテストに出てきて難解というイメージが先行した結果、読めなかったのだ。ところがいま開いてみると、すらすら入ってくる。ちょうどゴッホが登場する小説を執筆中なので、これは本腰入れて読んでみる価値がある。

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【11】『ゴッホの椅子』(誠文堂新光社)
【12】『ゴッホの手紙』(西村書店)

『ゴッホの椅子』『ゴッホの手紙』

 なかなか美術書にたどりつかない。なのに、予算がどんどんなくなってしまう。ううむどうすればいいんだ? とそのとき、ゴッホつながりで目に飛び込んできたのが「ゴッホの椅子」。アルル時代にゴッホが描いた椅子に魅せられた人々の写真ドキュメンタリーだ。これはテーマが秀逸、ぜひ読んでみよう。いやしかし、これも厳密には美術書とは言い難い。
 と、そのとき、視界に飛び込んできたのが「ゴッホの手紙 絵と魂の日記」。ゴッホが弟や友人たちに書き綴った手紙とともに、ゴッホの作品を掲載。これこそはれっきとした美術書だ。しかもすばらしく感動的な画集だ。

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【13】『西洋名画の読み方5 印象派』(創元社)

『西洋名画の読み方5 印象派』

 そして最後に発見したのは「西洋名画の読み方」。産業的景観から印象派の絵画を解説するなど、珍しいテーマで印象派を「読む」。いやあ、これはおもしろそう。目からウロコの美術解説書だ。読みたい読みたい、いますぐ読みたい!

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【14】『オバマ広島演説 対訳』(朝日出版社)

『オバマ広島演説 対訳』

 と、ここで計算したらほぼ3万円に到達。すっかり満足して、私はレジに向かった。そして、再び1階のワゴンの前に。......そうだった、「オバマ」があったじゃないか!
 しばし黙考の挙げ句、私は「オバマ」をカゴに入れた。いや、彼のスピーチはもはや芸術だ。アートなのだ。そういうわけで、買うべきなのだ。  レジにて私は自腹を切った。ほんの1,000円ほど。もちろん、大満足である。

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