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第34回:柚木麻子さん

王道古典名作に挑戦
<プロフィール> 柚木麻子(ゆずき・あさこ)
1981年、東京生まれ。立教大学文学 部フランス文学科卒。2008年、女子校でのいじめを描いた 「フォーゲット ミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞。受賞作を含む連作集 『終点のあの子』(2010/文藝春秋)での繊細な心理描写が絶賛された。その後『ランチのアッコちゃん』がベストセラーに。『ナイルパーチの女子会』で第 28回山本周五郎賞受賞。他の著書に『本屋さんのダイアナ』『ねじまき片思い』『幹事のアッコちゃん』などがある。

購入書籍No.   12345678

【1】『アンナ・カレーニナ』上・中・下(新潮文庫)
【2】『怒りの葡萄』上・下(新潮文庫)

『アンナ・カレーニナ』『怒りの葡萄』

 大学の頃、憧れの女の先輩が好んで読んでいた岩波文庫で、クールにキメようと思っていたのだが、ぱらぱらめくると、やっぱり字が小さくて行間が狭いのがものすごく疲れ目に堪える......。挫折している自分がはっきりと目に浮かぶ。おまけに岩波の「罪と罰」はたまたま上巻がなく、それだけでもう心が折れてしまった。活字が大きくゆったり字組みの新潮文庫にやはり読みやすさを感じて、ここは気取らずに岩波文庫での購入はあきらめることにした。むろん、新潮文庫にも「罪と罰」はあったものの出鼻をくじかれたために、なんとなく後回しである......。でも、王道な古典名作に挑戦したい、という欲は消えていない。というわけで最初の2冊。
 女性ヒロインだとどんなに長くてもわりと苦がなく読めてしまうし、怒りに燃えている人の話は昔から大好きである。どちらも「罪と罰」より私には断然、ハードルが低い。

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 後ろめたさを残したまま、話題作が並ぶ新刊台に行くと、今の私にぴったりな一冊が目に飛び込んでくるではないか。

【3】『『罪と罰』を読まない』(文藝春秋)

『『罪と罰』を読まない』

 この作品、以前から気になっていた。これだけのビッグネームが揃って「罪と罰」を読んでいないなんて、読んでいなくても読書会を楽しめちゃうなんて、こんなに勇気づけられる話はない。迷わず購入決定。そうなると、ここ最近、週刊誌であらすじを読んだり、周囲で面白いと言われていた作品が俄然気になってくる。私はわりとオススメを信じるタイプである。

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 新刊台に面出しされている本を次々に籠に入れる。

【4】『つつましい英雄』(河出書房新社)
【5】『べつの言葉で』(新潮社)
【6】『日本文学全集08 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』(河出書房新社)

『つつましい英雄』『べつの言葉で』『日本文学全集08 日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』

「つつましい英雄」は「けっして誰にも踏みつけにされてはならない」という父の遺言を守る主人公、と何かで読んだ。こういう話は絶対好き。
 お気に入りのインスタで紹介されていた「べつの言葉で」は、二つの母語を持つラヒリが新たに学び始めたイタリア語で書いたエッセイとのこと。水村美苗さんの「日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で」をお正月に読んでからというもの(ちなみにこの本も親友に勧められている)、違う国の言葉で書くという行為に強く反応するようになっている。
 宇治拾遺物語の町田康さんの訳はとにかく愉快と方々で聞いている。

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 他人のオススメばかりなので、いよいよ自分のものさしで選ぼう、とタレント本のコーナーに足を踏み入れる。
 写真だけというよりは、私はある程度活字のあるフォトブックやムックのようなものが好きだ。最近はアイドルや読者モデルのブログやインスタをそのまま紙にしたようなものが多くちょっと不満。発信力がある女の子に注目が集まるのはわかるけれど、彼女たちを送り出す側の工夫や愛が全然感じられないのは心が寒々しくなる。数多ある美人タレント本の中から、とりわけ目を引く前々からちょっと気になっていたこちらを見つけてしまう。

【7】『叶恭子幸せの日めくり 31のフィロソフィ たとえ100万人が楽しそうにしていたとしても、そこに楽しめるものがない『この世にたった一人のあなた』は、無理に笑うことはありません。』(ポニーキャニオン)

『叶恭子幸せの日めくり 31のフィロソフィ たとえ100万人が楽しそうにしていたとしても、そこに楽しめるものがない『この世にたった一人のあなた』は、無理に笑うことはありません。』

 ビニールがかかっているので中を確認できないが、大人っぽい水色の背景に大輪のバラ。あからさまにタレント性を押し出さないところに、決して消費されまいという自負と揺るぎない自信を感じて、籠に。

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 上の階にある料理本コーナーにも行ってみる。購入を検討していた、おもてなし用の本格的なお料理本。ぱらぱらめくるうちに、そういえば、そんなにおもてなしする機会がないことを思い出す。そもそも、おもてなし用食器もない。何故か今日は欲しいものが見当たらず、児童書コーナーに。

【8】『安房直子コレクション』全七巻セット(偕成社)

『安房直子コレクション』全七巻セット

 実を言うと、この全集も前々から欲しくて、何度も書店で手にとっては値段を見てあきらめていた。  小学校の頃、安房作品がそれはもう大好きだった。収録作品のタイトルだけで、図書館の児童コーナーの壁の模様や、椅子の背もたれから飛び出したスポンジの黄ばみ具合まで思い出せる。あの頃、繰り返し借りた「遠い野ばらの村」「花豆の煮えるまで」も、全部入っている。めくってみれば、句読点の独特のリズムに、小さな角砂糖をかみしめたような気分が蘇る。この言葉がするすると身体に染み込む感じ、ずっと忘れていた。石井桃子さんの全集の一部を購入しようかとも思ったのだが、こちらは一万円台で今すぐコンプリートできるところに大きな魅力を感じた。
 今回ばかりはちょっと背伸びというか挑戦をしようと思っていたのだが、結局、いつものように周囲の言葉を信じ、最終的にはいつもの自分の趣味になってしまった。

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 174円オーバーしたのでそこは自腹で。会計を済ませ、配送手続きに移る。
 レジの方に許可をいただき、唯一中身を確認できなかった、叶恭子さんの日めくりのビニールを破り、ぱらぱらとめくる。
 そのうちの一ページに、艶然と微笑む恭子さんの横にこうあった。
「大人であるということ。それは自分の中の子どもである部分に、正面から向き合えること。」
 この日めくりに救われる人が多い理由がよくわかった。貴重な機会をありがとうございます。

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