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第32回:堂場瞬一さん

我を失ってお買い物
<プロフィール> 堂場瞬一(どうば・しゅんいち)
1963年生まれ。茨城県出身。青山学院大学 国際政治経済学部卒業。2000年秋『8年』にて第13回小説すばる新人賞を受賞。 主な著書に「アナザーフェイス」「刑事の挑戦・一之瀬拓真」「警視庁犯罪被害者支援課」「警視庁追跡捜査係」の各シリーズ、『ルール』(実業之日本社)、『複合捜査』(集英社)、『夏の雷音』(小学館)、『黄金の時』(文藝春秋)、『十字の記憶』(KADOKAWA)などがある。2015年10月に著書100冊を達成。

購入書籍No.   12345678

【1】『忘れられた巨人』(早川書房)

『忘れられた巨人』

 本を買う時に逆上したことは、かつて一度もない。それが今回、生まれて初めて我を失った。
 最初に海外文芸のコーナーへ向かい、近刊のミステリを品定め。だいたい読んでいるのだが、「宣伝ほど傑作じゃなかった」「まあ、一応合格レベルのサスペンス」「夏休み中でプールサイドで読むのにいいぐらい」と言いたい放題......あれ? 私は普段、小説に関しては文句を言わないタイプである。どんなクソみたいな小説でも(文句言ってるじゃないか!)、必ずどこかに読みどころはあるものだから。しかし今回、逆上していたせいか、何故か言いたい放題の暴言を吐いてしまった。いかん、いかん......やはり普通の精神状態ではない。
 そして逆上した結果、何と予定していた本は一冊も買えなかった。目についた本をぽんぽんと買い物籠に放りこむ快感に負けてしまったのだ。
 四階も同様。さすがに途中で少し冷静になって、合計金額を計算しながらの買い物になったが、結局少し持ち出しになった。まあ、気持ちよかったからいいんですけどね。他人のお金は使い手があるな。
 しかし我ながら、脈絡のないラインナップになってしまった。
 2階で買った本─カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』は、まあ今年のマストアイテムだ。十年ぶりの長編だし、これは是非とも読んでおかないとね。

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【2】『警察調書 剽窃と世界文学』(藤原書店)

『警察調書 剽窃と世界文学』

『警察調書 剽窃と世界文学』はタイトル買いをしてしまったが、まさに「剽窃」、つまりパクリが内容の本。これは作家として、ちょっと自戒の念を持って読まねばなるまい。

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【3】『アメリカ・ハードボイルド紀行 マイ・ロスト・ハイウェイ』(研究社)

『アメリカ・ハードボイルド紀行 マイ・ロスト・ハイウェイ』

 小鷹信光さんの『アメリカ・ハードボイルド紀行 マイ・ロスト・ハイウェイ』は、出た時から買おう買おうと思っていたのだが、今回ようやくゲットできた。何しろ、私たちの世代のハードボイルド好きには「先生」のような人だから、必読書である。小鷹さんが、実際にアメリカを駆け回った話を読むのは楽しみ。インターネットなんぞが登場する以前の方が、紀行文は豊かに想像を刺激したと思うのは、私だけだろうか。絵葉書コレクションもいい。それにしても、本書に掲載されている原稿が発表されたスパンが「50年」というのはすごくないか?

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【4】『世界の文字を楽しむ小事典』(大修館書店)

『世界の文字を楽しむ小事典』

 4階では、歴史書のコーナーで引っかかってしまった。
 今のところ、いわゆる「時代物」「歴史物」に手を出す予定はないのだが、その辺に少しだけかすった話を書いているところなので、触手が伸びた。曖昧な話で申し訳ないが、要するに過去の話を現代で解決する、という感じになる予定である。
 その参考にしようという視点で見ていったら、まず見つけたのが『世界の文字を楽しむ小事典』。普段、文字を書くことを生業にしているのだが、その「意味」を深く考える機会はあまりない。文字はあくまで、小説を書くためのツールに過ぎないからだ。しかし、先ほどちょっと触れた「歴史物にかすった本」のテーマが「文字」そのものであり、最近文字が気になってしょうがない。既に使われなくなったものまで含めて世界の文字を調べてみると、実に興味深いのだ。それにしても、知らない文字はまだまだあるもので......八重山諸島の「カイダー字」なんて知ってました?

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【5】『殺戮の世界史 人類が犯した100の大罪』(早川書房)

『殺戮の世界史 人類が犯した100の大罪』

 歴史物でもう一冊。『殺戮の世界史 人類が犯した100の大罪』もタイトル買いだった。実際は、資料としてかなり「使える」本のようである。私は「犯罪研究家」も目指しているので、データ本にできそうだ。紹介されている「殺戮」は、古くは第二次ペルシア戦争から、21世紀まで続いた第二次コンゴ戦争まで。「死者数:380万人」「種類:国家の崩壊」などと、データが淡々と綴られていて、無機質な恐怖を味わえる。こういう「まとめ」を見ると、人類はどうしようもなく残酷な生き物だと実感してしまう。戦争がなくならないのは、もしかしたら生物学的な遺伝の問題ではないのだろうか。

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【6】『ラルース 図説 世界史人物百科 I 古代-中世』(原書房)
【7】『若者の住めない国』(国書刊行会)
【8】『ブルースの文学 奴隷の経済学とヴァナキュラー』(法政大学出版局)

『ラルース 図説 世界史人物百科 I 古代-中世』『若者の住めない国』『ブルースの文学 奴隷の経済学とヴァナキュラー』

 ラルースの『図説 世界史人物百科 I』は、昔会社の資料室で眺めていた記憶があるのだが、これも将来的に役立ちそう。個人的には、もっと古い時代の人物が載っていると嬉しかったのだが、あまり古くなると、伝承の人か実在の人物か分からなくなってしまうということか......ちなみに本書で最も古いのは、前1800年頃の、イスラエル史における最古の族長・アブラハム。アッカド王サルゴン(前24世紀頃)ぐらいはカバーして欲しかったな。

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 終わってまた、内田さんにご挨拶。早い夏休みでフランスに行った話などをしたのだが、そこではたと、向こうでは本がやたらと高かったことを思い出した。
 海外に行っても、私の場合生活習慣が変わることもなく、必ず書店を探して足を運ぶのだが、ペーパーバックですら20ユーロ、30ユーロというのがざらだった。日本で言えば、文庫本が3000円、4000円という感覚の世界である。
 それに比べて、日本では本がいかに安いことか。もちろん再販制度や流通制度などの違いもあるが、我々がこの恩恵に与っているのは間違いない。作家の場合、逆に恩恵にはならないのだが、まさに「読書天国」日本である。
 私の場合、金を使う先というと、本の他はトレーニング用品とギター関係ぐらいなのだが(全部神保町界隈で済む!)この二つのジャンルに関しては、本ほど安くはない。上等なランニングシューズを買えば2万円、トレーニングウエアも上下で1万円。ギター関係になるとはるかに高く、清水の舞台から飛び降りたつもりのギターで30万円、アンプで20万円と、ちょくちょく買うわけではないものの、とにかく単価が高いので、妙に用心深くなってしまう。
 それに比べて、ああ、本の安さよ。
 確かに最近、日本でも本は高くなってきた。文庫本で1000円を超えるのも珍しくないし、ポケミスなど2000円台が普通で、何と単行本より高くなっている。ページ数と価格を見て、初版の刷り部数はこの程度か......などと悲しい想像をしてしまうのは作家の性だ。
 今回、3万円分買った本は8冊。分厚い本が多いので(『殺戮の世界史』は実に735ページだ)1か月は読書に耽溺できるだろう。そう考えると、やはり日本においては本はまだまだ安く、コストパフォーマンスを考えれば、エンタテインメント(教養とも言いたいところだが、私はあくまでエンタメ中心だ)の王様と言っていいと思う。
 一気にお金を使わないと気づかないことも、世の中にはあるんですね。

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