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第30回:大崎梢さん

どこかに連れて行ってくれるものたち
<プロフィール> 大崎梢(おおさき・こずえ)
東京都生まれ。書店勤務を経て2006年、東京創元社から『配達あかずきん』にてデビュー。元書店員ならではの目線と、優しい語り口、爽やかな読後感で注目を浴びる。著作に、『配達あかずきん』『晩夏に捧ぐ』『サイン会はいかが?』の〈成風堂書店シリーズ〉、『スノーフレーク』 『クローバー・レイン』『プリティが多すぎる』『忘れ物が届きます』、〈天才探偵Sen〉シリーズがある。

購入書籍No.   123456789101112131415

【1】『今日も一日きみを見てた』(KADOKAWA)
【2】『太宰治の辞書』(新潮社)

『今日も一日きみを見てた』『太宰治の辞書』

 今回、買い物に付き合ってくれるのは本の雑誌の編集さんと東京創元社の担当さん。ふたりが店内用のカゴを手にスタンバってくれるのも心強い。
 とはいえ、馴染みの本屋さんなので、ついつい普段の買い物をしてしまう。『今日も一日きみを見てた』は、いつもツイッターで癒やされている愛くるしい猫、トトちゃんにまつわるエッセイ集。これがあれば好きなときにトトちゃんに会えるもんね。
『太宰治の辞書』、北村薫さんのも買いでしょう。久しぶりのシリーズ新刊であり、痺れるタイトル。なんだろう、辞書って。
 カゴに入れてほっとする......ではダメなんですよ、今日は。

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【3】『最高の休日 世界の美しい都市』(日経ナショナルジオグラフィック社)
【4】『絶対に行けない世界の非公開区域99』(日経ナショナルジオグラフィック社)

『最高の休日 世界の美しい都市』『絶対に行けない世界の非公開区域99』

 文芸書の棚からぐいっと離れ、旅行ガイドブックのコーナーへ。ここしばらく、年に一度の海外旅行を楽しみにしています。一昨年はプラハやウィーンなど中欧三カ国、去年はトルコ。今年はこれからドイツを予定しています。来年はスペインかなあ。
 と話しつつ、棚から『最高の休日 世界の美しい都市』を抜き取る。表紙を飾るのはプラハのカレル橋です。紫に染まった夕景の美しいこと。前から狙っていたので手の動きが素早い。今日は連れて帰るからね。待たせてごめんね。
 異国の街角にうっとりしていると、平台には不穏な空気をかもし出す本が。サブタイトルは「ガザの地下トンネルから女王の寝室まで」。帯には「250点の写真・地図で、立ち入り禁止エリアに潜入!」と。
 編集さんたちとひとしきり盛り上がる。コカ・コーラのレシピ保管庫とか、オーク島の巨大な竪穴とか、バローシャのゴーストタウンとか、カシミールの停戦ラインとか。なんなのそれ。あやしい。気になる。それぞれが自分の聞きかじった蘊蓄を語って興奮している点で、私たちも十分あやしいです。

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【5】『離島の本屋』(ころから)

『離島の本屋』

 旅行本コーナーにはこの本もありました。以前、別の書店で見かけたきりになっていたので、今度は忘れずゲット。取り上げているのは22の島の実在する本屋さんです。細やかなリアルレポに加え、その後についてもページが費やされているので、読む前から静かな重みを感じます。

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【6】『ヴェネツィア物語』(新潮社)
【7】『イタリアの歓び〈中南部編〉』(新潮社)
【8】『気になるガウディ』(新潮社)

『ヴェネツィア物語』『イタリアの歓び〈中南部編〉』『気になるガウディ』

 こっちこっちと手招きし、勝手知ったる売場を横切り、レジ近くでありながら穴場的エリアに移動。とんぼの本が並んでいます。どれにしようか悩みながらも顔が緩む。
 背表紙をじっと目で追い、いくつか引っ張り出すも、ヴェネチアは戻せない。一度だけ行ったことがあるのです。また行きたい。イタリアよかった。もう一冊カゴへ。
 いかん。ちがう国にも目を向けなきゃ。近い目標の国と言えばスペイン。ガウディ。

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【9】『村岡花子の世界』(河出書房新社)
【10】『赤毛のアン スクラップブック』(河出書房新社)

『村岡花子の世界』『赤毛のアン スクラップブック』

 同じエリアで『村岡花子の世界』をみつけ、そのまま立ち読みし続けそうになるも、自制心を働かせて美術関係の棚へ。するとまるで呼応するかのように、『赤毛のアン スクラップブック』が。モンゴメリが数々の名作を生み出した背景やアイディア源が凝縮されているスクラップブック、とのこと。日本向けに初公開。
 ぱらりとめくるとね、写真がね、イラストがね、ファッション画のパフスリーブがね、花びらの添えられた手紙がね、ほらほらと見せびらかしたくなる。

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【11】『チェコの挿絵とおとぎ話の世界』(パイインターナショナル)

『チェコの挿絵とおとぎ話の世界』

 えへへ。これもまた狙っていた本です。子どもの頃に読んだ絵本の雰囲気、素朴で温かみがあって優しくてかわいらしいんだけれども、なんか妖しくて仄暗くて、こわいかも。というイラストがぎゅっと詰まった贅沢な本です。物語喚起力も半端ない。
 じっくり眺めてめくるめく物語を思いつきたい。つけそうな気がする......。

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【12】『大英博物館展 100のモノが語る世界の歴史』(筑摩書房)
【13】『悠久のナイル』(東海大学出版部)

『大英博物館展 100のモノが語る世界の歴史』『悠久のナイル』

 美術書の棚をくるりとまわったところで目に着いたのは大英博物館の本。赤毛のアンや絵本にときめく乙女心もさることながら、私のフェイバリット映画はインディ・ジョーンズシリーズなのでした。古代史というか古代の謎、神秘、ラブ。
 勢いに乗って世界史コーナーへ。テレビのご長寿番組、「世界ふしぎ発見!」で初のピラミッド登頂を果たした話などしながら、今日は『悠久のナイル』をチョイス。『ヒエログリフ練習帳』にも引かれたけれど、さすがに字の練習はしないので。
 このあたりで、いつもお世話になっている文芸書担当の書店員さんが登場。お休みの日なのに来てくれました。カゴの中身を見せて、ドヤ顔になってしまう。

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【14】『横浜今昔散歩』(KADOKAWA)

『横浜今昔散歩』

 彼女に案内してもらい、横浜の古い写真の載っている本を教えてもらう。
 豪華な写真集もあったのですが、昔と今の移り変わりがわかりやすく掲載された本をみつけてぱらぱら。川には高速道路がかぶさり、外国人居留地にはビルが建ち並ぶようになっても、坂道の形や角度が昔のままという比較写真もあり感慨深い。道行く人の服装や持ち物についても、のぞき込んじゃいますよ。

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【15】『マップス 新・世界図絵』(徳間書店)

『マップス 新・世界図絵』

買い物のトリを飾ったのはこの本です。児童書コーナーの一角をどんと占めるおもしろ地図絵本。これを誕生日プレゼントにくれる男がいたら落ちるね、という話になる。趣味が合いすぎて、期待値が必要以上に跳ね上がり、いいんだか悪いんだか。あとのことまでは責任持てず。

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 振り返ってみると、いろんな棚をまわったようでいて、手に取った本は思いの外、偏ってます。国内よりも海外の写真やイラストがふんだんに載ったムック系が多い。
 じっさいは料理や園芸、インテリアの本も物色したのですが、純粋に好みだけで選ぶと結果の通り。私にとって本は、どこかに連れて行ってくれるものなので。
 ここではないどこか。まんざら知らないところではなく、懐かしさを感じるところ。その懐かしさも昔読んだ本から来ているのだと思います。
 おやゆび姫とか、ジャックとマメの木とか、幸福の王子とか、長靴をはいた猫とか、アルプスの少女ハイジとか、若草物語とか、赤毛のアンとか。単に思い出の本というだけでなく、物語には多くの物事を教えられてきました。この世には多種多様な価値観、幸も不幸もあるのだと、朧気ながら気づくことができました。
 現実を忘れさせてくれる一方、現実を生きるための示唆をも含んでいたのだと、今にして思います。疲れたとき、心身共に休ませてくれたのもありがたい。ひと息入れることにより、煮詰まった思考回路に風穴も開くので。
 本を選ぶさい、「これを眺めながら優雅なティータイムを過ごしたい」とくり返し夢想したのも、そういう時間が非常に大切だからですね。届いた本を片手に、気がついたら居眠りしてるのも、明日の糧になればこそ。ただのサボリじゃないんですってば。ほんとう。たぶん。

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