図書カードNEXT トップ > 図書カード使い放題?! > バックナンバー > 第3回:絲山秋子さん

第3回:絲山秋子さん

芥川賞作家が確変モードで買いまくりだ!
<プロフィール>1966年 東京生まれ。
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メーカーに入社、営業職として福岡、名古屋、高崎などに赴任。2001年、退職。2003 年、「イッツ・オンリー・トーク」で第96回文學界新人賞を受賞。同作は第129回芥川賞候補となる。2004年、「袋小路の男」で第30回川端康成文学賞を受賞。2006年、「沖で待つ」で第134回芥川賞受賞。同年より群馬に居を移す。著書に『沖で待つ』(文春文庫)、『海の仙人』(新潮文庫)、「逃亡くそたわけ』(講談社文庫)、『ばかもの』(新潮社)など。

購入書籍No.   1234567891011121314151617

【1】『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』
【2】『伊藤ふきげん製作所』(講談社)

『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』 『伊藤ふきげん製作所』

 『とげ抜き』を買うのは3回目。面白いから友人たちに貸すのだが、面白いから誰も返してくれない。「いいよあげるよ」ということになる。私は私で、いつでも手元に置いておきたい本なので何度でも買う。いい本の定義というのは、そんなところにあるのかもしれない。■

ページトップへ

【3】『仮の水』(講談社)

『仮の水』

 現存する作家で、最も格調高い日本語を書く人のひとりがリービ英雄だと思う。彼の文体はたくさんの張り詰めた弦をさまざまな強さで打つピアノのハンマーを思わせる。買おう買おうと思っていた一冊。

ページトップへ

【4】日高敏隆選集より『動物にとって社会とはなにか』
【5】『動物という文化』 【6】『人間はどういう動物か』(講談社)

『動物にとって社会とはなにか』『動物という文化』『人間はどういう動物か』

 進化論、動物行動学などに興じていたのは小学生の頃で、もちろん日高敏隆の本も片っ端から読み漁っていた。膨大な著書の中には一般向けの読みやすいもの、面白く読めるものも多い。全巻揃えたいこの選集から、まずは3冊を購入した。

ページトップへ

【7】『戦争と平和』
【8】『アンナ・カレーニナ』(新潮文庫)

『戦争と平和』 『アンナ・カレーニナ』

 先日ウリツカヤの本を数冊読んでとてもよかったのがきっかけで、ロシア文学を再読したいと思っていた。とはいえドストエフスキーには苦手意識が拭えないので、遠い昔に好感触を得た(ような気がする)トルストイを読み直すことにする。

ページトップへ

【9】『石川淳短篇小説選』(ちくま文庫)

『石川淳短篇小説選』

 短編小説を読むのは、贅沢な行為だと思う。甘いものを食べない私が言っても説得力に欠けるが、ちっぽけで高級な菓子に胸をときめかせる気持ちと通ずるものがあるのではないか。(小さな菓子に高い値段がつくことはままあるが、短編小説の原稿料はおそろしく安いという現実は考えないようにしなければならない)
 石川淳は「前身」という短編が一番好きだが、残念ながらこの本には収録されていない。

ページトップへ

【10】『クリシーの静かな日々』
【11】『虫けらどもをひねりつぶせ』(水声社)(国書刊行会)

『クリシーの静かな日々』 『虫けらどもをひねりつぶせ』

 ミラーやセリーヌはパンクだ、というのが私の持論だが、もはや若い人はパンクを知らない。パンク小僧だった私は、FMの自分の番組でロンドンやニューヨークパンクを解説付きでかけたりする。(もちろん他のジャンルもかけますよ)啓蒙活動ではなく、ただの自己満足である。ミラーやセリーヌは文学史上のパンクだと思うけれど、忘れた頃に再結成してライブでみじめな姿をさらしたりはしないので安心である。

ページトップへ

ここまでが予約した本であった。伝家の宝刀図書カードを手にレジの前に立つと、なんと合計額が、27,396円。  汗が噴き出た。湯気も立ったかもしれない。
 だってだってだってこの後、紀伊國屋にも文真堂にも行かなければならないのだ。3万円の図書カードって無限じゃなかったのか。確変は一瞬にして終了か。
 すっかり意気消沈して店内をふらふらしていたら、そそられる本と目が合ってしまった。

【12】『豚の文化誌 ユダヤ人とキリスト教徒』(柏書房)

『豚の文化誌 ユダヤ人とキリスト教徒』

 タブーとしての豚、食材としての豚、そして侮蔑の対象としての豚......帯には「現代の奇書」とある。著者は民俗学者である。これは気になってたまらない。頭の中にテロップが流れる。
「コレヲ ノガシタラ コウカイ シマスヨ」
 遂に赤字の仕事に突入してしまった。本の価格は3,800円であった。

ページトップへ

気を取り直して駐車場からクルマを出し、前橋駅の東南に位置する「けやきウォーク」へと向かう。ここには紀伊國屋書店前橋店が入っている。店舗は広大な面積で、本の点数も多いが、圧迫感や閉鎖的な感じはまるでない。明るく、変化のある雰囲気である。いくら歩いても退屈しない。
 ここで選んだ本は3冊。

【13】『ことわざで学ぶ仏教』(生活人新書)

『ことわざで学ぶ仏教』

 蘊蓄本である。こんな仕事をしていながら私はことわざや故事成語に弱く、そういったものを自由自在に操る人に憧れる。ましてや仏教のことは何一つ知らない。新書だし、病院の待合室や、新幹線の中で活躍しそうな1冊だ、と衝動買い。

ページトップへ

【14】『振仮名の歴史』(集英社新書)

『振仮名の歴史』

 翻訳の打ち合わせをしていたときに「ハンガリー語に振り仮名があれば、一発で解決するのになあ」と思ったことがある。注釈を入れると目線がさまよってしまうが、振仮名なら音と意味が同時に入ってくる。小説を書くとき、振仮名はかなり意識的に使っているつもりではあるが、系統立てて考えたことはなかった。たまには、役立つ本だって買うのだ。

ページトップへ

【15】『五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語』(新潮選書)

『五〇〇〇年前の日常 シュメル人たちの物語』

 メソポタミア時代に興味があると言うよりは現実逃避に強く惹かれるのである。今、現実にどんな問題を抱えていようとも、五〇〇〇年前に心を移動させてしまえば大丈夫。研究書も歴史小説も、仕事をしたくない日の大事な友だ。
 純文学だとそうはいかない。身近すぎるのだ。考えてしまうのだ。そして、あの仕事もこの仕事もやらなくてはと思い出し、ああなにもできない私がここにいるよ、と自嘲するのである。

ページトップへ

最後の書店は、文真堂書店 ブックマンズ・アカデミー前橋店である。利根川の西、高崎寄りの街道沿いに位置していて、充実した品揃えと、立ち寄りやすい雰囲気を両立した店舗である。児童書に力を入れている、という話を以前聞いたので、のしのしとそちらのコーナーへ。

【16】『みどりの小鳥 ─イタリア民話選─』(岩波書店)

『みどりの小鳥 ─イタリア民話選─』

まさかここでイタロ・カルヴィーノと出会うとは思わなかった。立派な装丁のずっしりした本である。
 私が買わずに誰が買う、というのは、掘り出し物を見つけたときにいつも感じる高揚感と思い上がりから来るものだ。同じことを思って買ったイタリア車は五台あったが、同じイタリア文化に属するものとしても、カルヴィーノはフィアット車ほど買った人を裏切りはしないだろう。

ページトップへ

【17】『三びきのやぎのがらがらどん ノルウェーの昔話』(福音館書店)

『三びきのやぎのがらがらどん ノルウェーの昔話』

 最後に買ったのがこの本。
 私が今住んでいる家からそう遠くないところにヤギ小屋がある。最近できたものらしい。なんのために飼育されているのかは地元の人に聞いてもわからないのだが、およそ30~40頭のヤギがいる。犬の散歩で通りかかると、まずは小さなやぎのがらがらどんが好奇心いっぱいで出てくる。犬が鼻を近づけると、飛び跳ねるように逃げて、次は中くらいやぎのがらがらどんが、そして最後に大きなやぎのがらがらどんが出てくるのである。本当に絵本の通りなのだ。
 それでどうしてもこの絵本を読み返したくなった。3匹がどんな顔だったか見たくなった。
 しかし、買ってみて驚いたことは、この本、なんと138刷り! 私の知っている世界と一桁も二桁も違うではないか。

ページトップへ

夢のような企画、と舞い上がって出かけたはずが、さんざん自腹を切って大赤字を出してしまった私、
「がらがらどんは儲かるなあ」
 とため息をつきながら引き揚げたのだった。

(平成21年7月22日 於煥乎堂前橋本店、紀伊國屋書店前橋店
文真堂書店ブックマンズ・アカデミー前橋店)

図書カード使い放題?! トップ
ページトップへ