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第27回:長嶋有さん

ラスボスとの遭遇
<プロフィール> 長嶋 有(ながしま・ゆう)
 1972年埼玉県生まれ。東洋大学2部文学部国文学科卒業。2001年「サイドカーに犬」で第92回文學界新人賞を受賞してデビュー。翌年「猛スピードで母は」で第126回芥川賞受賞。07年、『夕子ちゃんの近道』で第1回大江健三郎賞受賞。他の著作に『佐渡の三人』『祝福』『ねたあとに』『問いのない答え』、漫画『フキンシンちゃん』句集『春のお辞儀』などがある。

購入書籍No.   123456789101112131415161718

【1】『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(ちくま文庫)
【2】『ゲームホニャララ』(エンターブレイン)

『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』『ゲームホニャララ』

 03年、光文社カッパ・ブックス末期に別名義で出した『ブルボン小林の末端通信』は、さすがにもうどの書店もカッパの棚ごとなく、探す前にあきらめているが、『ゲームホニャララ』とちくま文庫版の『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』の回収に成功。『ゲームホニャララ』は、当時から最新のゲームを語っていない、というか個別のゲームについて語ってないので、今読んでも面白さが古びてない。フジモトマサル氏の一コマ漫画も上品で楽しく、文庫化の手があがらないものかとここでアピールも露骨にしておきたい。もう一冊の『ジュ・ゲーム〜』は文庫が先に絶版という珍しい一冊、表紙と著者近影だけで奇書と(我ながら)思う。

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【3】『ころころにゃーん』(福音館書店)
【4】『へんてこ へんてこ』(佼成出版社)
【5】『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)
【6】『ショコラの魔法』(小学館ジュニア文庫)

『ころころにゃーん』『へんてこ へんてこ』『ぐるんぱのようちえん』『ショコラの魔法』

 周囲が出産ラッシュなので、プレゼント用の絵本を"補充"する。どの家庭にも同じ絵本をプレゼントするので「補充」という気持ちがある。『ころころにゃーん』と『ぐるんぱのようちえん』は鉄板だ(もう一つの鉄板、岸田今日子&佐野洋子の『パンツのはきかた』を買いそびれた)。
 未読の長新太作品も一つ足して、あと同じ児童書コーナーで、こういう企画でなければ買えない(ことは全然ないが、平坦には買いにくい)本として『ショコラの魔法』のノベライズを一冊。元はちゃお連載の人気漫画。主人公のショコラは喪黒福造、ゴルゴ13以来の漫画界のダークヒーローである。みらい文庫、つばさ文庫などと各社が張り合っている児童向けのこの棚に俺の割り込む余地はあろうかとつかの間夢想。

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【7】『小川軽舟 ベスト100』(ふらんす堂)
【8】『櫂未知子集』(邑書林)

『小川軽舟 ベスト100』『櫂未知子集』

 春に句集を刊行したので、俳句関連の仕事が増えた。作句歴は20年だがあまり他人の句を読んでなかったので「俳句、分かってますよ」的なハッタリが必要になってきた。いや、ハッタリじゃなくて本当に教養を身につければよいのだと、俳句関連の本を買う。まっとうに芭蕉だとか、あるいは虚子以後を体系的に網羅していくとかでなく、単に近々会う予定の人の本を中心に入ることに(安直!)。

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 文芸書コーナーでもいつも、知り合った人の本を買うようにしている。もちろん、同業者同士が内輪で褒め合うことが目的化してはいけない。僕もなるべく、自分が文庫解説を書いたら、その人には自分の文庫解説を頼まない、自分が解説を書いてもらった人の文庫解説を書かないというルールを自分に定めている(唯一、そうならなかったのは柴崎友香さんの『青空感傷ツアー』と拙著『ジャージの二人』だが、当時はそういうルールが自分の中に芽生えてなかった)。だが、ただ買う分にはどんどん買うのがいい(謹呈しあわない方がよいという話で、知り合った同業者にも「お互いなるべく買いましょう」と言うことにしている)。


【9】『正弦曲線』(中央公論新社)
【10】『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)
【11】『左巻キ式ラストリゾート 』(星海社文庫)
【12】『殺人出産』(講談社)
【13】『小さな部屋』(講談社文芸文庫)

『正弦曲線』『マダム・キュリーと朝食を』『左巻キ式ラストリゾート 』『殺人出産』『小さな部屋』

 それで今回も、目についた堀江さん小林さんめろんさん村田さんをドサドサと。いろんな「偉人」の中でも、キュリー夫人の異様な没入ぶりには僕もかねてより興味があって(彼女の度を超した没入から「今」がある!)小林エリカさんのは題名だけで買いだな、と。堀江さんのは函入り装丁のかっこよさにもぐっときて。村田沙耶香さんのはSFだ! これ書いている現時点で読んでみてるのは実はこれ1冊だけ(僕は本を読むのが異常に遅くていつも困ってます)。エンタメ映画の原案にもなりそうな面白さ。海猫沢めろんさんは待望の文庫化で新刊ほやほや、なのにもう絶版の自著を救うみたいな意識で手に取った(ひどいな。いや、話題になっているみたいでよかったです)。「絶版はありません」と豪語していたはずの講談社文芸文庫も最近は品切れ重版未定が多いらしい。色川武大のこれも(文字通り?)「怪しい」と思って今のうち、と買う。

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【14】『熊出没注意 南木佳士自選短篇小説集』(幻戯書房)

『熊出没注意 南木佳士自選短篇小説集』

 南木さんのは版元への応援の気持ちもあって。というのは、僕は幻戯書房で一昨年、書評集を出したのだが、昨年の確定申告で印税がまるで振り込まれていないことが発覚(すぐに確認してない自分もどうかと思うが)。アノー、とおずおずメールしたら「経営が苦しくてすみません!」と真っ正直な返信が(その後、ちゃんと振り込まれました。この文章も幻戯さんの許可とってます)。版元から読者には言いにくいだろうから、この機会にむしろしれっと書いておくことに(つまり、皆も幻戯書房の本を買おう!)。

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【15】『星の民のクリスマス』(新潮社)

『星の民のクリスマス』

 古谷田奈月という名には覚えがあった。群像新人賞の選考委員をしていた際に読んだ、最終候補の一人だった。そのとき彼女の作に僕は割に好感を抱いたのだが、力不足で受賞させられなかった。それでもこうして別の賞で出てきて、これはとても嬉しいことだ。「互」助ではない、一方的な応援のつもりでの購入(同姓同名の別人だったらどうしよう)。

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【16】『21エモン』1・2(小学館)

『21エモン』1・2

 漫画は買えますかと事前に尋ねたこともあり、漫画の棚も見回るが案外、食指が動かない。分厚い全集の中のどれか一点買い、というのがこういう企画の醍醐味かしら、とF全集のうち未購入の中から『ウメ星デンカ』と迷って『21エモン』を。しかし、もっとひねったのを買うべきでしたか(誰に言ってるんだか)。F全集は数十冊は既に持っているのだが全冊制覇を諦めたのは値段よりも体積の問題だ。講談社の手塚全集のサイズでやるべきだっただろうになあ、とここでも棚の占める面積をみながらしみじみ思ったり。特にオバQなんかは精選版の傑作選を安価で出すべきだと思う。精選させてほしい!

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【17】『駄作』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

『駄作』

 通常の書籍購入と今回で違うのは、書店員さんが一緒に回ってくれたことだ。なのでオススメを聞く。興味があるけど自分の嗅覚が効かないジャンルはミステリー。ともに回ってくれた辻内さんは文学全般は相当な目利きだが、ミステリー担当ではないので困っていたどころか、「これなんかいいんじゃないですか」と表紙だけみて、ジャケ買いならぬジャケオススメをされた。で、なぜこれ(『駄作』)になったのか、顛末はもう覚えてないけどまあいいや。

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 オリオン書房ノルテ店の醍醐味は蔵書の多さもだが、ゆったりした「道」の広さだ。絵本から文芸、漫画、雑誌と歩き回るのに、まさに「猟書」感が芽生える。平積み棚も広い。デイリーポータルZの企画で「ゾートロープの手書きポップ」というのをやってて、僕も参加したのだが、そんなの置かせてくれるのはここくらいで、度量もだが店自体も大きいがゆえのことだろう。


【18】『『ボヴァリー夫人』論』(筑摩書房)

『『ボヴァリー夫人』論』

 ......最後にでもまだナンカコー、メインディッシュ感というか、3万円でバーンと「買うたった!」感が(本書のコーナー的に)欲しいよなあと未練たらしく徘徊していたらあったあった。『グラディウス』で言うところの最終面の巨大脳味噌みたいなボス感あふれる一冊が。一冊で数冊分の平積みに匹敵する『『ボヴァリー夫人』論』! 手にとったのは一冊だけなのに全冊売れた! みたいにその場所がぽっかりと空き、おぉーと皆で声をあげる。
 蓮實さんの担当編集が僕の担当でもあり、ツイッターで何度もオススメされているうちに僕も興味があるような気がしていたところだ。値段にも「こういう買い方だから」の甲斐がある。それよりはるかに薄くて廉価の『ボヴァリー夫人』本体も買おうと思ったら、河出文庫版がちょうど品切れ、ガックシの幕切れに。
 つまり、本を買うというのは必ず、一度では満たされないことで、だから書店には何度もいくわけだ。

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