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第21回:三上延さん

地獄の釜の底が抜けた日
<プロフィール> 三上延(みかみ えん)1971年神奈川県横浜市生まれ。10歳で藤沢市に転居。市立中学から鎌倉市の県立高校へ進学。藤沢市の中古レコード店で2年、古書店で3年アルバイト勤務。古書店での担当は絶版ビデオ、映画パンフレット、絶版文庫、古書マンガなど。2002年に『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)でデビュー。『偽りのドラグーン』シリーズ、『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズなどのシリーズ物を30冊以上執筆。

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【1】『レイ・ハリ-ハウゼン大全』(河出書房新社)

『レイ・ハリ-ハウゼン大全』

 欲しい本をカゴに入れて売り場を回り、最後に精算することにしていただき、エレベーターで8階に上がった。上の階から階段で順々に降りていって、最後にコミック売り場のある別館のForestへ行く。全フロアをまんべんなく見たい時には効率的なルートだ。
 といっても8階の学参や語学のコーナーでは特に買うものはなかったので7階へ。真っ先に向かったのが映画コーナーだった。今回、在庫があったら欲しいと思っていたのが『レイ・ハリーハウゼン大全』。アメリカの特撮技術、特にストップアニメーションの大家であるレイ・ハリーハウゼンの業績を、本人自ら解説するという内容だ。ただし単価が税別6,600円と高めなので、今回の企画で買うべきか迷うところだったが、中を開くと当時のスチールや製作時のスケッチなど図版も豊富。しかも序文はレイ・ブラッドベリ! これは間違いなく買いだ。今すぐ読みたい。

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【2】『マキノ雅弘の世界』(ワイズ出版)

『マキノ雅弘の世界』

 いきなり大金を使ってしまったが、立ち読みするうちに他の映画本も欲しくなってしまった。まずワイズ出版の『マキノ雅弘の世界』。生涯で260本以上の映画を撮った日本随一の職人的監督・マキノ雅弘の評伝。自伝の『映画渡世』は何度も読んだが、いい意味で講談に近い内容だから、第三者の証言が読みたいと前々から思っていた

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【3】『黒澤明の十字架』(現代企画室)
【4】『実録やくざ映画大全』(洋泉社mook)

『黒澤明の十字架』『実録やくざ映画大全』

 他には『黒澤明の十字架』と『実録やくざ映画大全』。前者は黒澤明の兵役免除疑惑と、戦時中の経験が作品に及ぼした影響について。後者は「仁義なき戦い」から数年間に渡って作られた実録路線のやくざ映画のムック本。「仁義なき戦い」シリーズの主人公のモデルとなった美能幸三のインタビューが載っているのはかなり珍しい。

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【5】『XOXO: Hugs and Kisses』(Chronicle Books Llc)

『XOXO: Hugs and Kisses』

 このあたりで我にかえって他のコーナーへ。洋書コーナーでJames Jeanのポストカード集を選んだ。ほとんど予備知識もなく直感で手に取ったのだが、後で中を見たら私の好みに合っていた。アメリカで活躍するイラストレーターで、来日したこともあるようだ。
 6階の児童書と趣味のフロアへ降りて、飛び出し絵本界の帝王ロバート・サブダの『オズの魔法使い』を選んだ。ページを開くと常軌を逸した高さでわさわさ絵が立ち上がる! やっぱりかっこいい! でも、ちょっと高い。

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【6】『江戸社会史の研究』(弘文堂)

『江戸社会史の研究』

 残りの金額のことも考えて、5階の医学書のフロア、4階の建築や理工学書のフロアではなにも買わずに3階の歴史書の売り場へ。ここ数年江戸風俗に興味を持っているので、『江戸社会史の研究』をカゴに入れた。「下町」「山の手」といった江戸社会の住民意識について、当時の史料を駆使して論じている。その隣に並んでいた杉浦守邦『江戸期文化人の死因』も書名が気になったので投入。

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【7】『コリーニ事件』(東京創元社)

『コリーニ事件』

 ようやく2階の文芸書と文庫のフロアへ降り、シーラッハの『コリーニ事件』をカゴへ。ちょうどこの作者の『犯罪』を読んでいるので興味が湧いた。

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【8】『濠端随筆』(中公文庫)
【9】『自伝的女流文壇史』(中公文庫)

『濠端随筆』『自伝的女流文壇史』

 文芸書から文庫コーナーへ移動する途中、中公文庫の限定復刊フェアに出くわして一気にテンションが上がる。中公文庫は作家の随筆や昭和史関連の手記が充実していて好きだ。他の文庫ではなかなかないラインナップに個人的なツボをばしばし突かれる。迷った末に入江相政『濠端随筆』と吉屋信子『自伝的女流文壇史』を選択。
 入江相政は長年にわたって昭和天皇の侍従を務めた人だが、多くのエッセイを書いている。『濠端随筆』の「濠」は自宅近くの千鳥が淵と「勤め先」の皇居を指している。『自伝的女流文壇史』の方は十人の女性作家たちの人生について、そして彼女たちと交流のあった吉屋信子自身について書かれた評伝。

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【10】『模倣の殺意』(創元推理文庫)

『模倣の殺意』

 さて文庫売り場へ。まずは中町信『模倣の殺意』。すごいミステリーだと聞いていたし、興味もあったのだが、帯に「これはすごい!」とストレートに印刷されているのが決め手になった。個人的にこういう「××はすごい!」系と「スティーヴン・キング絶賛!」には騙されてもいいと思っている。

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【11】『見えない日本の紳士たち』(ハヤカワepi文庫)
【12】【13】『魔界転生』上下(角川文庫)

『見えない日本の紳士たち』『魔界転生』上下

 そしてグレアム・グリーン『見えない日本の紳士たち』と山田風太郎『魔界転生』も。考えてみるとグレアム・グリーンを1冊も読んだことがない。『魔界転生』もなんとなく読まずに来てしまった小説。
 ところで古書をテーマにした小説を書いているせいか、どんなジャンルでも詳しいでしょうねと言われることがあるけれど、有名な作家の有名な作品でも未読のものがかなり多い。本が好きと本に詳しいは別だと思う。

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【14】『闇の国々』(小学館集英社プロダクション)

『闇の国々』

 最後に別館Forestのコミック売り場へ行き、ブノワ・ペータース/フランソワ・スクイテン『闇の国々』をカゴに。各所で絶賛されているバンド・デシネで、装丁も素晴らしい。本屋で見かけるたびに買おう買おうと思っていたのだが、辞書並みの重さにいつも躊躇していた。

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【15】『放課後の国』(小学館文庫)
【16】『さよならソルシエ』1(小学館)

『放課後の国』『さよならソルシエ』

 ぐるりと売り場を見て回り、西炯子『放課後の国』と穂積『さよならソルシエ』一巻を手に取った。西炯子の作品は連載中の『恋と軍艦』と『姉の結婚』が大好きで、そろそろ旧作をちゃんと読もうと思っていた。『さよならソルシエ』は『式の前日』で有名になった作者の最新作。ゴッホ兄弟が題材ということで読みたくなった。

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【17】『ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々』(集英社)

『ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々』

 最後にギャグマンガが欲しくなって、増田こうすけ『神々と人々の日々』一巻を。雑誌では読んでいなかったが、この作者がギリシャ神話をネタにしたというだけで買うしかないと思った。

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 ──以上、全フロアを回ったわけだが、どう考えても3万円を超えている。まずは自分で計算してみようと思い、紀伊國屋さんのバックヤードをお借りして電卓を叩く。7千円ぐらいアシが出て、文字通り頭を抱えてしまった。7千円分自腹で買えばいいと思わないでもなかったが、それではあまりにも夢がない。仮に後から買うにせよ、この場では3万円に収めるからこそ楽しいのだ。
 時間をかけて本の山から抜いたり戻したりを繰り返した挙げ句、『江戸期文化人の死因』『オズの魔法使い』を泣く泣く諦めて、どうにか3万円程度に抑えた。
 大半を郵送にしていただいたが、一部紙袋で持ち帰ることにした。広い店内を何時間も引きずり回してしまった杉江さんにお礼とお詫びを言って別れた後、私は新宿の西口へ向かった。
 昔から紀伊國屋書店の本店で買い物をした時は、必ず地下1階のニユートーキヨー庄屋に入り、カミカツとビールを注文することに決めていた。カミカツというのは薄く延ばした豚肉のカツで、ジョッキのビールに素晴らしく合う。一杯やりながら買ったばかりの本をのんびり読むのである。
 今は閉店してしまったので、同じことをするには西口の系列店まで行く必要がある。少しがさがさする分厚い紙袋を提げて、地下通路を歩く私の頭を占めていることは、たぶん遠い昔に初めて2冊本を買って貰った日とあまり変わらない。
 一体どの本から読もうか──心が浮き立つようなあの気持ち、ページを開く前の歓びは、2冊買えば二倍に増える。20冊買えば20倍だ。
 とはいえ紙の本である限り、歓びと同時に必要なスペースも増えていく。一体どこに置こうか──家族にもどう言い訳したものか。それを考えると少し頭が痛い。

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