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第16回:逢坂剛さん

ニコラス・レイとビリー・ワイルダー
<プロフィール> 1943年東京都生まれ。中学時代から探偵小説、ハードボイルド小説を書きはじめ、'80年「暗殺者グラナダに死す」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。『カディスの赤い星』で第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞を受賞。『百舌の叫ぶ夜』<百舌シリーズ>や『禿鷹の夜』<禿鷹シリーズ>、また時代小説『重蔵始末』などで活躍中。

購入書籍No.   12345678

【1】『映画の殿堂 新宿武蔵野館』(開発社)

『映画の殿堂 新宿武蔵野館』

まず1冊目は、『映画の殿堂 新宿武蔵野館』。
逢坂 これは武蔵野館で公開した映画のポスターやチラシを集めたものだね。私も武蔵野館にはよく通いました。あの頃、新宿では一番の老舗だったんじゃないかなぁ。新宿には他に「地球座」とか、入場券50円(!)の「新宿ローヤル」ってのもあったな。そうそう、武蔵野館では、ずいぶんと写真を撮った覚えがありますね。
──え?
逢坂 高校3年の時に、文化祭で西部劇の研究をやったんですよ。で、スチール写真のないものに関しては、映画館に行って、上映中の映画を写真に撮ったの(笑)。映画の写真は、25分の1で撮るとうまくいくんですよ。映画は1秒間で24コマ写るから、25分の1で撮ると、継ぎ目が写らない。まぁ、今から思えば、画質は相当悪かったんだけど。映画の本を買いたくなるのは、ハリウッド映画の全盛期をもう一度偲びたい、という気持が強いからでしょうね。

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【2】『ニコラス・レイ』(キネマ旬報社)

『ニコラス・レイ』

逢坂 ニコラス・レイなんて、今の若い人は知らないだろうなぁ。ハリウッドの職人監督ですね。一番有名なのが「理由なき反抗」。まぁねぇ、超一流の監督とは言えないんだけど、ちょっと捻った西部劇とかを撮ったりした人なんです。これは、伝記というよりは、作品論みたいな感じだね。全作品とまではいかないけれど、主な作品を分析しています。ニコラス・レイだけで、よくこれだけ書くことができたな、と思いますが(笑)。私は小難しい文芸作品を撮る監督よりも、娯楽映画をきちんと作る監督が好きなんです。私にとってスタージェスといえば、プレストンではなくて、ジョン(笑)、ジョン・スタージェスです。

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【3】『ビリー・ワイルダーのロマンティック・コメディ』(平凡社)

『ビリー・ワイルダーのロマンティック・コメディ』

逢坂 ビリー・ワイルダーも、ハリウッドの全盛期を支えた1人。彼も職人でしたね。ニコラス・レイと比べると一般的な評価は高い監督です。駄作が殆どない。彼が得意としたロマンティック・コメディの中でも、とりわけ有名な3作、「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」「昼下りの情事」について書かれた本ですね。「お熱いのがお好き」は、ロマンティック・コメディというよりは、本当の意味でのドタバタ喜劇。古今東西を通じて、私が一番好きな喜劇ですよ。もう何十回観たか忘れたけれど、何回観ても笑えるというね。ビリー・ワイルダーはミステリーを撮らせても一級品でしたねぇ。クリスティの『検察側の証人』を原作にした、「情婦」なんて、傑作ですよ。残念ながら、西部劇は撮ってないんだけどね。詩情なんてのはあまりないんだけど、あっとおどろかせたり、わっと笑わせたりと、第一級のエンターテイナーだと思います。

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【4】『セルジオ・レオーネ』(フィルムアート社)

『セルジオ・レオーネ』

逢坂 セルジオ・レオーネがマカロニウェスタンを撮る前の作品を、高校生の時に何本か観てるんですが、それが面白かったの。だから、あの監督なら、西部劇を作っても不思議はないな、と思った覚えがあります。彼は西部劇というか、ハリウッドの娯楽映画が好きだったんだろうね。だから、自分でも作ろうと思ってやりだしたのがマカロニウェスタン。ただ、一流の俳優は使えない。ハリウッドでは無名の監督だから。そこで起用したのがTVの「ローハイド」に出ていたクリント・イーストウッド。その頃、ハリウッドで売れなくなるとイタリア映画に出るというパターンができていたものだから、イーストウッドはずいぶん悩んだらしいけどね。結果的にそれで大成功したわけだから、イーストウッドにしてみれば、セルジオ・レオーネ様々でしょう。この本には、彼が当時好きだったハリウッド映画のことも載っているので、ハリウッド映画情報の資料にもなると思って。

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【5】『ヤクザ300人とメシを食いました!』(宝島社)

『ヤクザ300人とメシを食いました!』

逢坂 これはね、私も小説でヤクザのことを結構書いているので、ヤクザの実像を知っておかなきゃいけないかな、と。だけど、その世界にお友だちがいないものだから(笑)。ヤクザの親分と飯を食いました、というのは面白そうな体験談じゃないですか。これは、純粋に仕事の資料用ね。まぁ、作家には時々いますけどね、ヤクザに詳しい人やヤクザまがいの人が(笑)。

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【6】『ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック』(東京堂出版)

『ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック』

──6冊目はリチャード・カウフマン『ブラザー・ジョン・ハーマン カードマジック』。逢坂さん、先ほども棚をチェックしてましたが、マジックはお好きなんですか?
逢坂 好きですねぇ。特にカードマジックはずいぶん練習もしました。あのね、マジックの7割8割は、テクニックじゃなくてマジシャンの話術なんです。マジシャンが観客の注意を引こうとする時は、そこではなくて、目立たないところで何かをやってる(笑)。それって、ミステリの極意でもあるわけです。派手な場面が伏線になるのではなくて、さりげなく書かれてある一行が、後で効いて来る、みたいな。

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【7】『[証言録]海軍反省会3』(PHP研究所)

『[証言録]海軍反省会3』

逢坂 シリーズ3冊目ですね。開戦経緯とか無線通信の技術とか、日本とドイツの関係とかテーマが面白そうなので。若い頃は、第二次世界大戦、太平洋戦争も含めて、戦争に関して知識も関心もなかったんですが、ある程度年をとってから、関心が湧いて来ましてね。今現に、第二次大戦の小説を書いてますし。中を読んでからじゃないと分かりませんが、まぁ、「反省会」というからには、どんなふうに反省しているのか読んであげよう、と(笑)。

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【8】『マリヴォー戯曲選集』(早稲田大学出版部)

『マリヴォー戯曲選集』

──最後になりました。8冊目は『マリヴォー戯曲選集』です。不勉強で恥ずかしいのですが、マリヴォーって、誰ですか?
逢坂 モリエールよりもちょっと後になるのかな、18世紀の劇作家です。大学の時に、たまたまドイツ文学者の高橋健二先生の文学概論をとっていたんですが、ある時、先生が話されたシラーの戯曲の話が面白かったものだから、実際にいくつか読んでみたんです。それをきっかけに、ドイツロマン派のものや、フランスのモリエールやら、ずいぶん読みました。その中に、ボーマルシェやマリヴォーもあったんです。フランス人てのは、やっぱり粋なんですな。とりわけマリヴォーは、ワイズクラックが抜群に巧い。戯曲というのは、会話だけで筋を進めていくものだから、つまらない会話をしていたんじゃ、誰も面白がらない。だからこそ、会話に趣向を凝らす。ずいぶんと勉強になりました。戯曲と言えば、池波正太郎さんは、元々は新国劇の脚本を書いてた人なんですよ。彼の地の文は、ト書きというほどではないけれど、さらりと簡単に書かれていて、会話でぽんぽんと物語が進んで行く。読者はそのさらりと書かれた部分を、自分の想像力で補いながら読むわけで、だからこそ、読み終わった後、凄く充実した小説を読んだ気になる。そのことに気付いたのは、自分も作家になってからですけどね。ただ、池波さんのその手法は独自の手法でね。余人を以て代えがたいリズムがある。なので、主人公を長谷川平蔵にした、拙著『平蔵の首』は、本当に苦労しました。池波さんの真似なんかできるわけないからね。だから、『平蔵の首』というのは、できるだけ鬼平から離れようと思って書いた小説でもあるんです。ま、これを機に、マリヴォーを読み返そうかな、と思っています。

(聞き手・構成/吉田伸子)

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