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第10回:吉野朔実さん

本選びは恋の味?!
<プロフィール> 漫画家。80年代から雑誌「ぶ~け」を中心に活躍。代表作に『少年は荒野をめざす』『ジュリエットの卵』『いたいけな瞳』『瞳子』『Period』など。本の雑誌社から刊行中の読書エッセイ漫画シリーズのほか、絵本、映画エッセイの著作もある。

購入書籍No.   12345678910111213

【1】『ビロードのうさぎ』(ブロンズ新社)
【2】『BとIとRとD』(白泉社)

『ビロードのうさぎ』『BとIとRとD』

16時に「青山ブックセンター」前で、担当編集者浜本氏と待ち合わせ。まずは入り口付近から、ギンズバーグやバロウズ、麻薬やジャンキー等を特集している山があり、これらのキーワードはロックなのかしらとか言いながら、ミルク臭い児童書のコーナーを目指す。酒井駒子のコーナーで足が止まる。これは可愛い。凄く可愛い。うさぎのぬいぐるみを取りそうになる右手を左手で押えて「ビロードのうさぎ」と「BとIとRとD」を選ぶ。

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【3】『フクロモモンガ 小動物ビギナーズガイド』(誠文堂新光社)

『フクロモモンガ 小動物ビギナーズガイド』

ほどなく、小動物ビギナーズガイド「フクロモモンガ」を見つける。知り合いにフクロモモンガをペアで飼っている人がいて、生まれた子フクロモモンガを誰か飼わないかと言っているのを小耳に挟み、ポケットに入れて仕事が出来たら幸せそうだと企んでいたのだ。横で浜本担当が興味を示す。「可愛いですね。可愛いなあ。えーすっごく可愛い!!」この人にプレゼントした方がいい本かも。

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【4】『こねこのぴっち』(岩波書店)

『こねこのぴっち』

やっと絵本のエリアに到着。いきなり「こねこのぴっち」に遭遇。これは子供の頃に大好きだった永遠の心絵本。しかしサイズが違う。幅が倍もある。つまり私が持っていた本のイラストは大幅にトリミングされていたということなのか。運命だ。買うしかない。

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【5】『オズの魔法使い』(岩波少年文庫)

『オズの魔法使い』

「オズの魔法使い」発見。くしくもこの日の朝、柴田元幸訳「オズ」の挿絵をやらないかという依頼を受けていて、しかし私はこれを読んだ事が無く、一度読んでおかなくてはと購入を決めていたのだ。

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 直後、「ソビエトの絵本」の表紙にもなっている「海と灯台の本」の復刻版を見つめていると、浜本担当が「あ、これ穂村さんも買ってましたよ」と一言。うっ。余計なことを教えてくれるぜ。かぶると解っていて買えるわけないじゃん。「別に勝負しているわけではないので、欲しい物を買っていいんですよ」「もちろんです!!」本を棚に戻して心を残す。本国にもこれほどの本は無いと帯でうたっている「フランスの子ども絵本史」いいなあ。でも20,000円を超える。保留。

【6】『ブルーノ・ムナーリの本たち』(ビー・エヌ・エヌ新社)
【7】『ムナーリの機械』(河出書房新社)

『ブルーノ・ムナーリの本たち』『ムナーリの機械』

その時、目に飛び込んできたのは「ブルーノ・ムナーリの本たち」タイトルのロゴが素敵。ムナーリ展に行った時に、なんだか楽しそうな人だと思ったのを思い出した。美術家で、工業デザイナーでもあり、絵描きでもあり、写真や絵のコラージュもやる。全部を真剣に笑っているようなまなざしの趣味人。「ムナーリの機械」も買う。

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【8】『超カンタン!Android Q&A』(工学社)
【9】『ピクトさんの本』(ビー・エヌ・エヌ新社)

『超カンタン!Android Q&A』『ピクトさんの本』

あちこち歩いて、ついうっかり買ったばかりのスマートフォンを思い、バカまるだし感を拭えない「超カンタン!Android Q & A」と、さらにうっかりの受け狙い本「ピクトさんの本」も抱える。ピクトさんとは、ひと言で言うなら非常口のマークに描かれているあの人のことだ。帯には「あの可哀そうな人」とある。世界には、かけこみ系はさまれ系など、こんなにたくさんの酷い目バージョンがあったのかと心突かれる思い。そういえば少し疲れてきた。

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 このあたりで、やはりカートを押す必要がありそうだと自覚する。本屋にカートがあるなんて気が付かなかった。カートには「ご注意 ●遊具として使用しないこと ●幼児をぶらさがらせないこと ●バスケットに幼児を乗せないこと」とある。本屋に幼児連れの母親が遊びに来るのはこんなに難しいのだなとわかる。一緒に子供を入れるケージも貸し出したらどうだろう?

【10】『薔薇大図鑑2000』(発行:草土出版/発売:星雲社)

『薔薇大図鑑2000』

ついに図鑑、写真のエリアに突入。動物、海洋生物、植物、恐竜、苔、骨、空、海、宇宙に遺跡、伝説、ボタニカルアート、なんぼでも欲しい。しかし、このエリアは高価だ。ひとつ手に取れば、他をすべて手放さなければならない。慎重に慎重に。色々考えた末に「薔薇大図鑑」を選ぶ。2000品種の薔薇の図鑑。少女マンガ家の名残か。一番好きな花に薔薇を挙げた事はないが、その種類と形状には他の追随を許さない歴史があり、素人からマニアックな愛好家まで文化的な背景を彩る、まさに花の中の花。王道。「蓮の花」にも手が伸びるが、写真が少ないので戻す。

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 「LA TOUR DE 300 METRES」見たところエッフェル塔の写真集? 縦50センチ横35センチくらい?でかい。開くと縦50センチ横70センチ。中を開けてみる。建設中の写真に続いて設計図が現れる。何枚も何枚も何枚も。本物だ。なんてかっこいいんだ。しかしこれを持っていたところで何の役に立つだろう? 持って帰って何処にしまう? 押入れ? 改めて考えながらページをめくる。20,000円強。洋書は20パーセントOFFだから16,000円くらいか......安い。でも「フランスの子ども絵本史」を買うと足が出てしまう。しかも2冊しかネタがないと困るなあ。その時隣で浜本担当が「すげえ!!」と一声。「ええ。いいですよねエッフェル塔。でも、買ってどうしましょう?」「でかいですからねえ。でも......いや、凄いなこれ。だってこの本があればエッフェル塔が作れるってことですよね!?」作る気か?作るのか?!凄いぞ浜本さん!! 暫くふたりで大きな本の中を行ったり来たりして名残惜しくその場を離れる。

【11】『LITTLE PEOPLE IN THE CITY』(BOXTREE)

『LITTLE PEOPLE IN THE CITY』

フランク・ロイド・ライトやコルビジェやルイス・カーン、建築MAPの森を抜けて、洋書を見る。表紙が気になったので手に取るが、ビニールでパッキングされている。どうしよう、昔からレコードとかCDとかのジャケ買いで当たったためしが無いんだよね。親指の先程のちいさなフィギュアの親子が、目の前の巨大な蜂に鉄砲を構えている写真しか情報が無い。蜂は倒れているから撃った後なんだな。後ろには熊の人形を抱えた娘がいる。ひとつくらい当て物があってもいいかな。「LITTLE PEOPLE IN THE CITY」

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漫画を探しに行く。どこぞで面白いらしいと聞き及んだ「進撃の巨人」。あるにはあったが2巻まで。これたしか3巻まで出ていなかったっけ? ......またにする。
「ギャロップ」「競馬ブック」は競馬週刊誌なので、いつもはコンビニかキオスクで買うのが常だが、本屋にもあるかもしれないとためしに雑誌のコーナーに行ってみる。やはり無い。府中の本屋ならきっとあるのに。まあそこまで日常を引っ張る事は無いか。

【12】『ノアの箱舟』(BL出版)
【13】『コドモノクニ名作選 大正・昭和のトップアーティスト100人が贈るワンダーランド!』(アシェット婦人画報社)

『ノアの箱舟』『コドモノクニ名作選 大正・昭和のトップアーティスト100人が贈るワンダーランド!』

気になっていた本を確かめに、もう一度絵本、児童書のエリアに戻る。おおっ! 先程は見逃していたリスベート・ツヴェルガーの「ノアの箱舟」を発見! 嬉しい! この人の挿絵大好き。洋書では何冊か持っているのだが、日本語バージョンは初めて。そしてもうひとつ「コドモノクニ名作選」上下巻。大正・昭和の絵本を抜粋したもの。

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レジに向かう。時計を見ると七時半を回っている。かれこれ3時間半も本屋さんにいたのか。そういえばふくらはぎが痛い。レジで浜本担当がこちらを向く「この「コドモノクニ名作選」も穂村さん買ってましたよ」......もう......構いません。

 近くのカフェでビールを飲みながら、ジャケ買いの洋書をばりばり開ける。結構面白い。ちっちゃな人達が密かに人間世界で生息している風情。ガムに足を取られる男や、カタツムリに落書きする青年、安全ピンが刺さって倒れている男等。それにしてもと振り返ると、なんだか欲しい本を買わずに、買わなくても良かったかもしれない本ばかり買ってしまったような気がするのは何故だ? 自分のジャッジが間違っていたのではないかというこの不安は何だ? 買った本のあれこれよりも買わなかった本のことが思われてならない。なによりあの、いかにも邪魔そうで美しいエッフェル塔の設計図が気持ちを掴んで離さない。恋のようだ。

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