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第1回:田中芳樹さん

好奇心旺盛なベテラン作家が童心に返って本を買いまくった!
<プロフィール> 1952年生まれ。熊本県出身。'78年、「緑の草原に……」で第3回幻影城新人賞を受賞しデビュー。当時の筆名は李家豊。'82年より執筆をはじめた長篇SF『銀河英雄伝説』で読者の絶大な支持を得る。その後、中国歴史に題材を得た作品、中世ペルシア風異世界を舞台にしたファンタジー作品など、さまざまな作風の小説を発表。近年はジュブナイル分野にも力を入れている。現在、理論社のミステリーYA!シリーズ向けの小説を執筆中。

購入書籍No.   1234567891011121314

【1】『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史 』(彩流社)

『スペイン継承戦争 マールバラ公戦記とイギリス・ハノーヴァー朝誕生史 』

「スペイン継承戦争は、ルイ14世絡みのヨーロッパの覇権争いのひとつです。マールバラ公というと、かのチャーチルのご先祖にあたりますけど、その時代を代表する名将といえます。日本でも例えば〈関ヶ原の戦い〉等、歴史に残る会戦には双方の陣営に役者がそろってますよね。こういう本は戦争と外交について非常に面白い資料になります。小説のネタになる可能性も秘めてると思いますよ。現実の世界の歴史には"ここでこうしておけば勝てた"ということがあります。そういう歴史上のあり得たかもしれない可能性は、異世界の戦争にも転用できます。素直に読むだけでも十分に楽しめますが、作家というのはこういう少々不純な動機で資料を買うんです」

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【2】『英国人が見た新世界』(東洋書林)

『英国人が見た新世界』

「タイトルを新聞広告で見て、すぐにも書店に行きたかったのですが、今日のためにぐっと我慢していました。ちょっと見た感じでは、エリザベス女王時代のイギリス人がアメリカ大陸に行った見聞の記録でしょうか。図版が非常に多く、読む楽しみだけでなく、異文化同士の出会いの瞬間はどのようであったのか。創作のネタを探して楽しめそうです」

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【3】『ジュール・ヴェルヌの世紀』(東洋書林)

『ジュール・ヴェルヌの世紀』

「同じく新聞の広告が気になって切り抜いて探しに来たものです。こちらも図版が沢山ついてて嬉しいですね」
──どちらもいかにも東洋書林というような本ですね。
「東洋書林みたいなところには頑張ってほしいです。図版が多い本は童心に返って眺めるだけでも心が沸き立ちます。このあと読むのが楽しみです」

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【4】『档案の世界』(中央大学出版部)

『档案の世界』

「档案というのは要するに中国の朝廷で保管されていた公文書です」
──中には竹簡の写真がありますが、紙が発明される以前の書類なのでしょうか。
「当然時代によっては、竹簡だったりあるいは石碑だったりします。手に取ってみていくつか知っておきたいという例がありました。今書いてる作品にリアリティを出す一助となればと思いました。勉強のためと言ってもいいですね」
──中国歴史物ばかり書いていたら、SFやファンタジーのファンに寂しいと思われるかもしれませんよ。
「逆に歴史小説ばかりを続けては書けません。中国物を書き上げると、例えば、イギリスを舞台にした小説を書きたくなるんです。"どうして全く違うジャンルの小説が書けるんですか?"とよく言われるんですが、違うからこそ書けるんですよ」

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【5】『図説ヴィクトリア朝百貨事典』(河出書房新社)

『図説ヴィクトリア朝百貨事典』

「図版が多いので資料として選びました。必要があれば、イラストレーターの方にお貸しすることもできますね。カラーの図版があると非常にありがたいです。例えば小説で雑貨屋での買い物のシーンを描くとします。このように絵になっているものをどうやって言葉で表現しようか、と考えるんです。商品が陳列されてる様子や価格の具体的な描写が、読者の想像力を刺激すると思っています。"彼女は靴を履いていた"ではなく、もうひと言加えて"彼女は茶色の編み上げ靴を履いていた"と表現することで、そのシーンに臨場感が生まれます」

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【6】『少女小説から世界が見える ペリーヌはなぜ英語が話せたか』 (河出書房新社)

『少女小説から世界が見える ペリーヌはなぜ英語が話せたか』

「切り口も面白そうでしたが、このサブタイトルが購入の決め手になりました」
──こちらは、文学評論でしょうか。私は名作劇場世代ですから、ペリーヌが中洲の狩猟小屋ではじめる一人暮らし生活についてや、ジョーのお料理が惨憺たる結果になることについてはうるさいですよ。
「それこそ、細やかな描写が、読者に強烈な印象を残している良い例ですね」
──なるほど!
「普通の庶民の生活を描く場合や、あるいは、歴史小説で戦闘のシーンを描く場合にしても、戦いから帰って来たあと、何を食べるのかが描けるでしょう。そういうディティールの積み重ねが、作品の力強さに繋がっていくと考えています」

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【7】『パリ風俗史』(講談社学術文庫)

『パリ風俗史』

「読み物として楽しいですけれども...例えばここに、"自由劇場"という劇場がありますね。主人公を観劇に行かせるのに、単にお芝居に行くというよりも、自由劇場に行くと書いてあると全然違うでしょう」

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【8】『中国明末のメディア革命 庶民が本を読む』(刀水書房)

『中国明末のメディア革命 庶民が本を読む』

「中国の明の終わりの時代というのは〈金瓶梅〉の時代といいましょうか、商業資本の発達により庶民生活が爛熟した頃です。しかし、社会近代化を目前にしたところで清が入り込んできて、全部リセットされて、昔に戻ってしまった。そういう時代なんです。その当時の出版事情みたいなものを、わかりやすく書いているようだったので、購入しました」
──当時の印刷物の写真があります。刷り上がりがくっきり綺麗ですね。
「当時世界でトップクラスの木版印刷だったんです。〈三国志〉や〈水滸伝〉等も印刷されたものが出回っていて庶民が読んでいた。まさにメディア革命の時代ですね。本の形って、高度な印刷術が出てくる前は巻物なんですよ。印刷ができるようになってから綴じるような冊子形になるんです」

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【9】『トロイア戦争全史』(講談社学術文庫)

『トロイア戦争全史』

「トロイア戦争というと"イーリアス"以外にも無数の神話や伝説が絡んでいて、それぞれ少しずつ記述が違ってるんです。これはそれらを全部まとめてある労作です。逆にいうと、それぞれのエピソードについては淡泊なものになっていますが、詳しく知りたい時は詳しい資料を探せばいいわけで、トータルで一冊に全部載ってるというのは便利に使えそうです」

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【10】『東アジア世界の歴史』(講談社学術文庫)

『東アジア世界の歴史』

「こちらも漢民族と周辺の異民族との関わりという観点から通史風にまとめてあるので、この本で大筋を確かめて、その時代についてはさらに詳しい資料に当たるという使い方ができそうです。中国の正史というのは列伝体ですから一人一人の業績や生涯を見ていくのにはいいんですけど。あるひとつの事件について、関係者が複数いると関係者全員の資料を見なければなりません。この人物がこの人物と関わっていたというのがまとまってると便利なんです」

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【11】『清国文明記』(講談社学術文庫)

『清国文明記』

「これは大正時代に日本の学者が、中国に行って北京等を見てきた記録です。清国の終わりの頃ですが、どういう果物を食べているとか、こんなお店の看板があったとか書いてあります。これは時代が新しいので当時の北京の名所等の写真があって、その時の空気が伝わってきますね」
──ハイ、先生! 何だか歴史の授業を聞いてる気分になってきました。
「いろんな国の研究者が人生の数年を費やした成果が、翻訳され店頭に並び、それが僅か数千円で手に入る。こう考えると"本って安いなあ"と思いませんか?」

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【12】『チャーリー・チャンの活躍』(創元推理文庫)

『チャーリー・チャンの活躍』

「これはある意味、幻の作品です。戦前にも出ていました。一九三三年に作者が亡くなったんで、いわゆる大恐慌の時代に一番有名でした。広く読まれたという点ではもしかしたらエラリイ・クイーン以上かもしれません。読んだつもりになってて、実は読んでなかった本なんですね。チャーリー・チャンはハワイに住んでる中国系の警部で、彼が探偵役を務めるんですよ」
──"ノックスの十戒"に中国人を出してはいけないというのがありますが...。
「敢えてそれに逆らったんでしょう(笑)」

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【13】『殺す・集める・読む 推理小説特殊講義』(創元ライブラリ)

『殺す・集める・読む 推理小説特殊講義』

「これは趣味で買った本です。ミステリ評論エッセイ集ということになりますね。小説を読んで、その作品をわかってるつもりになってるところに、キチンとした批評家からの視点を提示され、目からウロコが落ちるというような経験が何度もあります。楽しみですね」

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【14】『ゴシック名訳集成 吸血妖鬼譚 伝奇ノ匣〈9〉』(学研M文庫)

『ゴシック名訳集成 吸血妖鬼譚 伝奇ノ匣〈9〉』

「古典のいいのが入ってるんですよ。芥川龍之介訳「クラリモンド」だとか、ガストン・ルルーの吸血鬼物。日夏耿之介や横溝正史が訳者として名を連ねています。過去に出たものを集めただけといえるかもしれませんが、これは企画の勝利でしょう。ひたすら読みたいという一心で選びました。最後の最後にいいものを見つけましたね」

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「今日は非常に楽しいお仕事でしたけど、やっぱり後半プレッシャーがかかりました。自分の金だとどんな下らないモノ買ってもいいけど、図書カードとなると無駄遣いできないような気分になりました。不思議なものですね」

(2009年3月31日 於紀伊國屋書店新宿南店)

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