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現役書店員が週替わりでおすすめ本をご紹介します。
(2024.4.9更新)

『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』
  みうらじゅん リリー・フランキー

*今回の担当者* 丸善博多店 脊戸真由美丸善博多店 脊戸真由美
『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』みうらじゅん リリー・フランキー

『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか (新潮文庫 み 52-2)』
みうら じゅん,リリー・フランキー
新潮社
605円(税込)

 桜の季節がくると、「願はくは花の下にて春死なむ」と根っこを見つめる。山で風に吹かれれば、「とおい他国でひょんと死ぬるや」とつぶやく。周りの音が消えて、存在する感覚だけになったとき、「死」を考えるのはなんでだろう。I'm not satisfied.

 みうらじゅんの自宅に遊びに来たリリー・フランキー。ギターを傍に、縁側で夕陽を眺め、タバコをくゆらせながら自然と始まったこのテーマ。

「どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか」

 自由業は不安業。しかし、野球でも守備の時間は、自分たちには1点もはいらないのだから、守ってる時間が長ければ長いほど、点を取られる可能性が高くなるとふたりは言う。エロい話をしてお金をもらう、そんな宇宙人みたいな仕事をやってるなんて、子どもの頃はふたりとも想像していなかった。しかも、世の中の人にバカにされながら生きてる。ちなみに、みうらじゅんがグラビア誌の仕事をするのは、ギャラではなくて、趣味のエロスクラップの素材として献本してほしいからだ。ビジネス書の棚には、「10年後の自分を想像しろ」なんて文言が躍るが心配ない。来年、死んでるかもしれねーから。未来の話で当たるのは「いずれ死ぬ」っていうことだけだ。

 文庫本の値段が千円超えてても驚かない時代に、いつの間にかなっていた。重版のタイミングで、お知らせもなく値段が上がってたりする。お客さんに検索した書誌データと違うのはなぜだ、と突っ込まれる。しかし、われわれの給料は据え置き。いまや、本屋の時給はコンビニよりも安い。そして、そろそろ震災にあいそうな気がする。

 不安...不安タスティック(ネガティブな言葉をポジティブに変換する、みうらじゅんの造語)

 人体の構造は、本当に不安なときは、逆に不安に感じられなく出来てるそうだ。リリー・フランキーは若い頃、あらゆる消費者金融から借りまくり、貸してくれる業者がなくなるほどのサラ金地獄だった。プラスもマイナスも考えなくてよいので、気持ちは安定してたという。電気もガスも止められたので、友だちから借りた金で元カノに電話をする。元カノがやってきて弁当を買ってくれ、二千円を胸のポケットに入れてもらって駅で別れた。そのときのことは、着ていた服の色まで覚えてるそうだ。

リリー:そもそも自分という存在は、両親がたったひとつの種を植えて作ったわけじゃなくて、ばぁーっとやったなかの汁の中の具だったわけだから、人間になったあと、アイデンティティで悩むのはあたりまえ。もともと汁だったんだから。(中略)オレみたいに炭鉱町で育ったヤツに言わせれば、練炭っていうのはクズを練ったものですからね。(中略)自分を探すんじゃなくて、自分の居場所を探せばいいんだけど、それが見つからずに自殺をしてしまうというのが、日本人の自殺の原因として多いんじゃないですかね。

 男か女かもわからず、汁だったわたしらが、人間関係に、金と健康に悩み、あげく自殺するなんてアホの極みだ。「汁だったんだもの、みつを」って、トイレに貼っておきたいくらい、すべてを解決するひと言だ。

  リリー:健康オタクの人がどんどん増えてるけど、そもそもよく知らない、あるかないかわからない自分の「絶好調」を目指すからストレスになる。

 本もテレビも健康法にあふれてる。webには「しつこい疲れがウソみたい!」や、「これがオバ見えの原因だった」の文言が躍り、クリックせよと誘う。やる気のでないときは、いつのまにか嘘と噂の記事を目で追っていて、後悔するパターンにはまる。

みうら:だいたい、いい噂ってできる限りしないようにしてるでしょ、人間って。

リリー:オレが一番好きだった噂が「北島三郎、実は女」という噂。(中略)これを女の人が読んだら違うと感じるかもしれないけど、男のつく嘘と女のつく嘘って、地球を破壊するダメージが女の嘘のほうが大きい気がするんですよね。

 SNSで発信されてても、物流にはいまだ時差があり、ここ離島九州は東京よりも数日遅れる。今も、とある文庫の限定カバーに振り回されている。お客さんには、なんで遅い?とドヤされ、悶え苦しむ地方書店員なのだ。ジョン・レノンが『イマジン』で歌ってるように、天国も国境もなんにもないと想像できるならば...人と比べなけりゃ苦しくなることはない、とふたり は言うが、みなが欲を捨ててしまえば、これまた本屋という商売も成立しないのである。死んじゃうその日までは、仕事してお金をもらわないと食べ物が買えない。そして願わくば本も数冊買いたい。

リリー:本とか映画とかって、そのときにすべてがわかるものって大したものじゃないし。

みうら:あとでジワジワ効いてくるもんだよね。バンテリン現象。

 そうやって、何度もひらく本というのも、帰ってくる居場所なのだろう。毛穴全開でも、どっか痛くても、見たこともない自分の絶好調を目指さず、バンテリン本を携え外へ出よう。満足げに見える人間は、ロックじゃない、とふたりは言うのだから。

丸善博多店 脊戸真由美●丸善博多店 脊戸真由美この博多の片隅に。文庫・新書売り場を耕し続けてウン十年。「ザ・本屋のオバチャーン」ストロングスタイル。最近の出来事は、店がオープン以来初の大リニューアル。そんな時に山で滑って足首骨折。一カ月後復帰したら、店内全部のレイアウトが変わっていて、異世界に転生した気持ちがわかったこと。休日は、コミさん(田中小実昌)のように、行き先を決めずにバスに乗り山か海へ。(福岡はすこし乗るとどちらかに着くのです)小銭レベルの冒険家。

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