もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。
第40回:柚月裕子さん
- 「欲しい本」と「必要な本」
- <プロフィール>
柚月裕子(ゆづき ゆうこ)
1968年、岩手県生まれ。山形県在住。2008年、『臨床真理』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。2016年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞。他の著書に『最後の証人』『検事の死命』『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』『あしたの君へ』『慈雨』『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』がある。
図書カード3万円お買い物コーナーに、今月は柚月裕子氏が登場! 大先輩のおすすめ本からブラック・ジャックのパロディ漫画、世界一美しい猫の図鑑まで、充実の成果はこれだ!(平成29年4月4日 於三省堂書店神保町本店)
いやあ、嬉しい。なにが嬉しいって、本の雑誌で目にするたびに「いいなあ」と指をくわえていた企画からお声をかけていただいたのだ。もちろん即行で「ぜひぜひ、よろしくお願いします!」とお返事した。長年の夢だった企画に、首を横に振る選択肢などあるわけがない。
この企画に参加するにあたり、私は自分にひとつの縛りを掛けた。「欲しい本を買う」である。人が物を買うとき、理由は大きく分けてふたつあると思う。「必要な物」と「欲しい物」だ。作家になるまでは「欲しい本」を買っていたが、この仕事に就いて「必要な本」を買う比率が圧倒的に増えた。
「どっちも買えばいいじゃない」そうおっしゃる方もいるだろう。しかし、根っから貧乏性の私はそれができない。小さい頃から「本は学校の図書室か地域の公民館で借りるもの」として育った私は、いい大人になったいまでもその教えから抜け出せないでいる。
親からお小遣いをもらい、そのなかで遣り繰りするようになるまでは、買ってもらえる本はひと月に一冊という決まりがあった。読みたい本はいっぱいあるのに、買える本は一冊だけ。悩んだ私が出した結論は「短い話がたくさん入っている本なら、一冊でいくつもの物語が楽しめる!」というものだった。結果として「落語小話集」や「世界の寓話」といった短編集や掌編集といった本を選んでいた。
三つ子の魂百まで、とはよく言ったものだ。そんなわけで、作家になれた今でこそ「必要な本」は迷わず購入するが、その反動なのか、「欲しい本」を買うことは以前にもまして躊躇うようになった。お金の問題というよりこれは、心と時間(本を読むための)の問題なのだろう。そんなこんなで企画当日は、「今日は絶対、欲しい本を買う!」と心に決めていた。
その日、買う本をもうひとつ前もって決めていた。逢坂剛さんおすすめの本だ。
買い物をする前に、逢坂さんを囲んで昼食をご一緒させていただいた。同席されたのは、会食をセッティングしてくださった文藝春秋の川田未穂さん、同じく文春担当編集者の本川明日香さん、「オール讀物」編集長の大沼貴之さん、今日買い物をする三省堂神保町店の内田剛さん、本の雑誌社の杉江由次さん、そして私である。
地方に住んでいて、作家の方はもとより、編集者や書店員さんとなかなかお会いできない身としては本当に嬉しい時間だった。
その席で逢坂さんに「作家として読むべき本」と「時代小説を書くうえで参考になる本」をお尋ねした。
常々「欲しい」と思うもののなかに「知識と読書量」がある。ふたつとも右から左へ移すように手に入るものではない。ならばせめて、ハードボイルドから時代小説まで幅広い作品を刊行する大先輩の、計り知れない知識の欠片でもいいから欲しい、そう思ってのことだった。
柚月裕子さんが図書カードで購入した本
著書 | 著者/出版社 | 価格(税込) |
---|---|---|
『文章読本』 | 谷崎潤一郎/中公文庫 | ¥617 |
『問題な日本語』1~4 | /北原保雄編/ 大修館書店 | ¥3,564 |
『江戸の二十四時間』 | 林美一/河出文庫 | ¥818 |
『殺人犯との対話』 | 小野一光/ 文藝春秋 | ¥1,566 |
『よくわかる高齢者の心理 (改訂版)』 | 近藤勉/ ナカニシヤ出版 | ¥1,296 |
『何が彼を殺人者にしたのか』 | マイケル・ストーン編、浦谷計子訳/イースト・プレス | ¥1,404 |
『捜査心理学』 | 渡辺昭一編/ 北大路書房 | ¥2,700 |
『知的障害と裁き』 | 佐藤幹夫/ 岩波書店 | ¥2,916 |
『名作マンガで精神医学』 | 林公一著、村松太郎監修/ 中外医学社 | ¥2,052 |
『哭きの竜』1~3、5 | 能条純一/小学館文庫 | ¥3,456 |
『#こんなブラック・ジャックはイヤだ』 | 手塚治虫原作、つのがい漫画/小学館クリエイティブ | ¥745 |
『世界で一番美しい猫の図鑑』 | タムシン・ピッケラル著、アストリッド・ハリソン写真、五十嵐友子訳/エクスナレッジ | ¥4,104 |
「建築知識」2017年1月号 | エクスナレッジ | ¥1,680 |
『日本の名作住宅の間取り図鑑』 | 大井隆弘/ エクスナレッジ | ¥1,728 |
『カメラは撮った! 山口組「激動」の101年、その瞬間』 | 宝島特別取材班編/ 宝島社 | ¥864 |
合計 21冊 購入総額 ¥29,510 |
それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。