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図書カード使い放題?!

もし手元に自由に使える3万円の図書カードNEXTがあったら、あなたならどんな本を買いますか?
このコーナーでは、そんな夢のような話を作家さんに体験していただき、どんな本を選んだかを大公開!
図書カードNEXTで本を選ぶ楽しみをあなたも疑似体験してください。

第18回:木内昇さん

楽園でお買い物
<プロフィール> 木内昇(きうち・のぼり)1967年、東京生まれ。出版社勤務を経て、インタビュー誌「spotting」を主宰。雑誌などでの執筆や単行本の編集を手がけるかたわら、 2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。2008年に『茗荷谷の猫』を刊行し第2回早稲田大学坪内逍遥大賞激励賞を受賞。2011年 『漂砂うたう』で第144回直木賞受賞。初エッセイ集『みちくさ道中』発売中。

 大学生になったら絶対書店で働こう、と決めていたのである。蔵書一冊という家庭に育ったせいか、幼い頃から書店や図書館は私にとって別天地であり楽園であった。高校時代も一旦本屋に入ると延々出てこず、友人たちを待たせるので、仲間内では「木内と一緒に本屋の前を通るな」なる格言があったほど。当時私の小遣いは月1,000円。新刊本は到底買えない。指をくわえて装幀を眺めたり、冒頭だけ立ち読んだりしては飢えを凌いでいた。書店で働けば毎日本に囲まれ、思うさま本が読めるのではないか─甘い夢を見るに至ったのには、かような背景があったのだ。
 大学の入学式を済ませたその足で、立川の駅ビルに向かった。スーツ姿であれば好印象だろうし、履歴書も準備万端整えてある。ビル上階まで駆け上がり、目指す書店の前に立った私は、しかしたちどころにひるんだ。
 書店員さんはいずれもきびきび働いている。慣れた手付きで本にカバーをかけ、棚を整理し、ポップを立て......果たして自分はこんなふうに働けようかと不安になった。本が好きという以外、なんの知識もない自分なのだ。そういえば、中学高校の同級生で本屋の娘、シモダユーコが言っていた。
「木内。本屋というのは奥の深い仕事なんだよ。ただ売るだけじゃないんだよ。相当の知識がないとできないんだよ」
 急に自信がなくなった。ここでしくじったら、本の世界から永久追放されるのではないか、という途方もない恐怖を感じた。そして万事において不器用な私は、いかにも失敗しそうであった。
 結局私は踵を返し、とぼとぼと駅ビル1階まで下りた。そして気付けば、そこにあった傘屋に履歴書を出していた。この傘屋では、なぜか3年もバイトをした。
 こんな経緯があるせいか、今なお書店員さんにお会いするのは大変緊張する。新刊が出た折の書店回りも毎回パニクる。着ていく服に悩み、なにを話すか前々日くらいから懊悩する。編集者やよくわかんない偉い人の前ではたびたびふて腐れた態度をとる私であるが、書店員さんにはなんとかいい人に見られたい、せめて失望されぬようにしなければと必死なのである。
 さて先般、そんな私にとんでもない僥倖がもたらされた。
「図書カード3万円分で好きな本を買ってよろしい」
 本の雑誌・杉江氏からの連絡である。この企画、以前よりよく知っている。誌面で目にするたび羨ましかった。妬ましかった。平素私は、スーパーなどで「チョコ、買ってー」と泣き叫ぶ子供を見るだに、「口惜しければ頑張って大人になりたまえよ」と心中密かにほくそ笑んでいるのだが、しかし大人になったとてなんでもかんでも買えるわけではないのである。ことに私は懐具合が常に心許ないにもかかわらず史料に注ぎ込まねばならず、なんの気兼ねもなく心ゆくまで本を買うことがなかなかできずにいる。そこへ降って湧いた天恵、神の声である。迷うことなく申し出を受けた。爾来会う人ごとに自慢した。「どうです、私もついにあの企画に選ばれるまでになりましたよ」。選民意識の塊と化した。

木内昇さんが図書カードで購入した本

著書 著者/出版社 価格(税込)
『ことり』 小川洋子/朝日新聞出版 ¥1,575
『64』 横山秀夫 /文藝春秋 ¥1,995
『農業全書』 宮崎安貞、貝原楽軒 /岩波文庫 ¥903
『日本の下層社会』 横山源之助 /岩波文庫 ¥1,008
『妖怪萬画』vol1・2 和田京子/青幻舎 ¥3,150
『BOOKS ON JAPAN 1931‐1972 日本の対外宣伝グラフ誌』 森岡督行/ビー・エヌ・エヌ新社 ¥3,990
『123人の家』 日販アイ・ピー・エス ¥1,000
『沢村貞子の献立日記』 新潮社 ¥1,680
『岡本綺堂探偵小説全集』〈第1・2巻〉 末國善己編/作品社 ¥14,280
『生まれることは屁と同じ』 深沢七郎/河出書房新社 ¥1,785
合計 12冊  購入総額 ¥31,366

それでは各書籍について、購入の背景をじっくりと伺いましょう。

購入の背景について

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