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現役書店員が週替わりでおすすめ本をご紹介します。
(2018.2.14更新)

『スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀

*今回の担当者* ブックデポ書楽 長谷川雅樹ブックデポ書楽 長谷川雅樹
『スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀

『スウィングしなけりゃ意味がない』
佐藤 亜紀
KADOKAWA
1,944円(税込)

 ついにこの本をご紹介できるときがきました。2017年に発売された文芸書のなかで私が最も太鼓判を押す、おすすめの書籍。佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』です。

 ずっと紹介したかったんですけれども、この連載のなかでずっと「わたしには本屋大賞を獲ってほしい本があり、それを『本屋大賞ノミネート確実』というPOPをつけて多面展開で1年間推し続けている」と言い続けてきてしまったがために、かえって紹介できなかったんです、これまで。

 というのもですね、本屋大賞は書店員のなかで「投票した(する)本については事前に公言しない」という不文律があるんですね。書店店頭で推すのは、その担当者ひとりの意志である&店頭にいらしてくださったお客様しかわからないからよい(と私は思っている)のですが、それを他の書店員に広く呼びかけて同様の展開を強要したり、事前打ち合わせ・組織票で受賞作を決めてしまったりということのないようにという意志が、暗黙の了解のうちに共有できているのです。

 これはとてもいいことです。当店はチェーン店ではないのですが、これはチェーン店でも徹底されています(たぶん。でなければ某書店チェーンのベスト1が常に本屋大賞を獲り続けるはずなので)。書店の現場、ひとりひとりの投票からつくる賞だ、ということが護られているのであります。簡単にみえてなかなかできることではないので、これからも、この賞のために、本屋大賞ノミネート作、大賞受賞作の投票については口外しないようにしたいと思います。

「と、いうことは」なのですが、じつはこの佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』、結果から申し上げますと本屋大賞のノミネート作から外れてしまいました。個人的にはのたうちまわるほど悔しいのですが、当店で大きく積み、当店からブームを作って(この言い方かなり気持ち悪いんですが、これ以外に言い方が浮かばないので、すみません)、多くのお客様にお読みいただき、増刷もたくさんかかって、さらにこの輪が広がって、結果自然と投票数が増えた、という状況を作れなかった私の責任もひとつあります。すみません。別に私みたいなのがどうこうしたところで、ということはもちろんあるんですが、それでも、著者の佐藤亜紀さんにも、出版社のKADOKAWAさんにも、そして、この本を本屋大賞ノミネート作としてお客様に紹介できなかったという意味でお客様にも、自分の力不足を感じ、申し訳なく思っております。今でも大きく積ませていただいているので、まだまだ頑張りたいです。

 書店に置かれる本、とくに文芸書は、以前も書きましたが、1冊1冊、1ページ1ページ、1語1語に意味があり、作者の人生、装丁家の苦心、編集者・印刷所・営業それぞれのプロとしての努力、すべての結晶です。序列など不要、どれも尊いというのが私の持論ですが、それでもたまにどうしても輝いてみえる書籍というのがあり、お客様を差し置いて個人的な選書というのは必要以上にしないように心がけていつつも、どうしても贔屓してしまう、売るべきと考える書籍というものがごくまれに出版されます。それが、わたしにとっては2017年、『スウィングしなけりゃ意味がない』でした。

(あらすじ)舞台は1939年ナチス政権下のドイツ。ブルジョワである主人公のエディは、仲間たちとともに日がな「敵性音楽」であるスウィング(ジャズ)に夢中になっていた。ゲシュタポの手入れをかわしながら、音楽に痺れ、狂乱する日々。しかし戦争は、ゲシュタポは、そんなエディたちを許しつづけはしない。壊れていく世界。容赦なく襲い来る死と破壊と暴力。エディたちの自由は奪われていく――。

 あらすじだけを見て、うわべだけの善悪論や、賢さをひけらかしたいのか無駄に難しい言葉を使うような文体、お涙頂戴のセンチメンタリズムがあるように感じたのなら、ご安心ください、それらとはまったく無縁の一作です。道徳的でもない。ただただ、音楽で体が動くその欲動を抑圧するものは戦争であれ何であれゆるされない、ということ、そして、生きるということの"熱"、そこにある希望を、感じられます。今この閉塞した時代にこそ、必要とされるのではないでしょうか。誰にとっても、自分が何者であるか、そして、私達はなぜ本を読むのか、その意味を感じられる読書になることでしょう。

 私は歴史に強くなく、またジャズにも詳しくありません。著者の佐藤亜紀さんの創作意図、圧倒的な知性をどれだけ理解できているかと言われたら、おそらく5%も理解できていないと思われます。その浅学な私が「むちゃくちゃに面白い」と言うのですから、もうこれは背理的に間違いなく誰にでもお薦めできるでしょう。さらに言えば、もし歴史に、ジャズに詳しいお客様がこちらお読みになられたらこれはもうどうなってしまうのでしょうか、さらに凄まじい感想を持たれるのではないでしょうか。ややこしい文体ではなく、読みやすいのですが、そのなかに宇宙のような奥深さがある。本を読んだことがない、という人にも、むしろぜひお読みいただきたい書籍となっております。ぜひお読みください。

 最後に、なのですが、こちらエクスキューズではなく真剣に申し上げたいのですが、今回の本屋大賞2018につきまして。本屋大賞2018は、この言い方が正しいかはおいておいて、かなりの当たり年です。『スウィングしなけりゃ意味がない』は残念ではありましたが、ノミネート作どれも素晴らしく、2017年を代表する書籍だとおすすめできます。私は一次投票に置いて『スウィングしなけりゃ意味がない』に1位投票をしましたが、2位投票、そして3位投票した作品はノミネート作に選ばれております。このノミネート作のなかから本屋大賞の選ばれることへの喜びと、最大限のリスペクトを持っているということだけは、強く申し上げます。

ブックデポ書楽 長谷川雅樹●ブックデポ書楽 長谷川雅樹1980年生まれ。版元営業、編集者を経験後、JR埼京線・北与野駅前の大型書店「ブックデポ書楽」に企画担当として入社。その後、文芸書担当を兼任することになり、現在に至る。趣味は下手の横好きの「クイズ」。書店内で早押しクイズ大会を開いた経験も。森羅万象あらゆることがクイズでは出題されるため、担当外のジャンルにも強い……はずだが、最近は年老いたのかすぐ忘れるのが悩み。何でも読む人だが、強いて言えば海外文学を好む。モットーは「本に貴賎なし」。たぶん、けっこう、オタク。

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