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現役書店員が週替わりでおすすめ本をご紹介します。
(2018.1.9更新)

『ドレス』藤野可織

*今回の担当者* 本のがんこ堂野洲店 原口結希子本のがんこ堂野洲店 原口結希子
『ドレス』藤野可織

『ドレス』
藤野可織
河出書房新社
1,620円(税込)


『さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)』

『さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)』
東京創元社
3,998円(税込)


『おはなしして子ちゃん』藤野可織

『おはなしして子ちゃん』
藤野可織
講談社
1,404円(税込)

 好き嫌いが非常に分かれる作家なので腰が引けるところがこれまではあったのですが、これほどの作品集を読んでしまったからには口を噤んではいられません。全日本の本読む人らよ、藤野可織を読みましょう。最新短編集『ドレス』(河出書房新社)を筆頭にいずれの本も傑作揃い。

 好き、嫌い、わかる、わからない、可愛い、恐い、どんな感想が生まれるかはわかりませんが、あなたのなかの特別な感情を呼び起こす奇妙な個性をもち、長い暗い冬を生き抜くための燃料となりうる物語作家です。

 藤野可織は文学界新人賞、芥川賞と華々しい受賞経歴を持つ純文学畑の作家ですが、SFやホラーなどのエンタメジャンルのファンにこそ強くおすすめしたい作品を数多くものにしている作家でもあります。

 私が大好きで世界中の人に読んでほしいと願っている短編「今日の心霊」は実際にSFのアンソロジー(大森望、日下三蔵編『さよならの儀式 年間日本SF傑作選』創元SF文庫)に収録されていて、多くのSFファンに恐怖と笑いをもたらしたことがネットのレビューから散見されます。

 撮影する写真が全て心霊写真になってしまうという数奇な運命を背負った少女の半生を、彼女をあがめたてまつる謎の第三者からの視点で語ったという体裁をとった物語です。浮遊霊だか地縛霊だかとにかくありとあらゆる心霊のおぞましい姿を鮮やかに写しとる彼女の写真は周囲に阿鼻叫喚をもたらしますが、本人の目にだけはそれが認識されず、家族写真で、学校の行事の写真で、末にはネットのブログの画像で、自覚せずに地獄をまきちらす姿を、ホラー小説の単語、芸術論の文体で描写した本作は極め付けの不条理コントのようで、何度読み返しても笑いがこみ上げてきます。

 ミステリーがお好きな人には少女探偵小説「ピエタとトランジ」(『おはなしして子ちゃん』講談社文庫)をおすすめします。金田一少年や名探偵コナンなどの推理ものに対してしばしば言及される「探偵の周りで事件が起きすぎじゃないか問題」を追求した結果、こんなにもハートウォーミングな百合小説が誕生したことに感動を覚えずにいられません。

 自分が真面目に学校に通っていると校内で殺人事件が続発するのだと傷ついている女子高生探偵に、助手志望の主人公(こちらも女子高生)は「このままふたりで学校を全滅させちゃおうか」と肩を抱いてほほえみます。百合ものに詳しくない私にもこのシーンの尊さとヤバさは強烈に伝わってきました。

 既刊からの紹介ばかりになってしまいましたが、最初に名前をあげた『ドレス』こそが絶対必読、2017年私の1位本です。ホラー、フェミニズム、育児、ディストピアSF、痴漢、そんなありふれたはずのテーマのことごとくが、何でそうなるの?!な奇妙奇天烈現代残酷物語と化していて読み手の目を眩ませます。

 人間同士の攻撃性を痴漢という現象を通してかいた短編「私はさみしかった」はことに圧巻でした。弱者だとみなし見下している人間を踏みにじり、別の機会に違う人間からまるで報復のようによく似た迫害を受ける主人公の独白、「私もかつては秋になるとさみしくてたまらなくなるような罪のない子どもだったのだ。どうか許してほしい、けれど、そんなことで私を許すのは私自身だけだと知っている」という述懐は、ことあるごとにたやすく自己憐憫にひたりがちな私のような人間を冷たく受け入れ、優しく突き刺す凄味があります。沢山の人に読んでほしい物語です。

 年末という労働者にとってたいへん厳しい季節がやって参りました。辛そうな顔をしている人を大勢みます。私も「何で今朝目が覚めちゃったんだろう」なんて思うことがあります。売場の隅に鎮座まします広辞苑第6版の角に頭をぶつけそうになることもあります。それでも本を読めば元気が出ます。どうぞ皆様良いお年を。色んな読書を。

本のがんこ堂野洲店 原口結希子●本のがんこ堂野洲店 原口結希子宇治生まれ滋賀育ち、大体40歳。図書館臨職や大型書店の契約社員を転転としたのち、入社面接でなんとか社長と部長の目を欺くことに成功して本のがんこ堂に拾ってもらいました。それからもう15年は経ちますが、社長は今でもその失敗を後悔していると折にふれては強く私に伝えてきます。好きな仕事は品出しで、得意な仕事は不平不満なしでほどほど元気な長時間労働です。 滋賀県は適度に田舎で適度にひらけたよいところです。琵琶湖と山だけでできているという噂は嘘で、過ごしやすく読書にも適したよい県です。みなさんぜひ滋賀県と本のがんこ堂へお越しください。60歳を越えた今も第一線に立ち、品出し、接客、版元への苦情などオールマイティにこなす社長以下全従業員が真心こめてお待ちしております。

「作家の読書道」は「WEB本の雑誌」からコンテンツの提供を受けています。

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