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現役書店員が週替わりでおすすめ本をご紹介します。

(2008.5.8)


『鳥類学者のファンタジア』 『鳥類学者のファンタジア』
【 集英社 】
奥泉 光
1,300円(税込)
中原ブックランド TSUTAYA小杉店 長江貴士

こんな人はなかなかいないような気がするんだけど、僕は生まれてこの方レンタルビデオショップの会員カードって持ったことなくって、つまり映画も音楽も僕の日常とはかけ離れた場所に存在するってことで、音楽は店で掛かる有線がほぼすべての情報源で、だからジャズって言われても全然イメージ出来なかったりするんだけど、つまり何が言いたいかって、本作は一応ジャズの話でもあるんだけど、ジャズのことなんか全然知らなくても十分楽しめるんです、っていうこと。

 ジャズピアニストであるフォギー(本名は希梨子だけど、霧子って名乗ってる)は、いつものようにジャズバーでピアノを弾いていると、いるはずのない「柱の陰の熱心な聴き手」を初めて目撃することに。彼女(「柱の影の熱心な聴き手」は女性です)の後を追いかけるフォギー。噛み合わない会話を交わした後、彼女の名前を知ることになる。なんと彼女は霧子というのです!
 同じ名前だから驚いたのではありません。フォギーには、ベルリンで亡くなった「霧子」という祖母がいるのです!  それからすったもんだを経て、なんとフォギーは1944年、終戦間際のベルリンへひとっとび(タイムスリップです)!そこで霧子と一緒に生活をすることになるんだけど、まあやっぱりすったもんだありまして…。みたいな話です。って内容紹介になってませんけど。

 この作品の一番面白いのは、フォギーの語りなんです。とにかく一文が長いのが特長なんだけど、全然ダラダラした感じはしません(僕の冒頭の文章は、本作の文章の雰囲気を真似ようとしてみたんだけど、やっぱうまくいかないですね)。正直、ストーリーなんかどうでもよくなってきます。この、フォギーのなんとも捉えどころのない語りを読んでいると、それだけで楽しくなってきます。
 それに、ジャズだとか戦時下のベルリンだとか、僕には興味のない(というかむしろ苦手な)状況が舞台だし、「ロンギヌスの石」だの「オルフェスの音階」だの怪しげな話が出てくるのに、全体的にホワホワ〜ンとしてるっていうか、読んでて馴染む話なんです。

 長いし高い(文庫なのに1300円!)けど、オススメです。

 というわけで最後になりましたが、これから一年間、拙い文章をよろしくお願いいたします。なるべくいろんなジャンルの本を紹介できればなぁ、と思います。しかし、文章を短く書くっていうのは難しいですねぇ…。

(2008.5.1.)


『チューバはうたう』 『チューバはうたう』
【 筑摩書房 】
瀬川 深
470円(税込)
yc voxワカバウォーク店 大熊江利子

自分が本を好きだと自覚したのはいつのことですか?

私は小学校に入って直ぐの頃です。バザーで松谷みよ子さんの「ちいさいモモちゃん」の古本を買ってもらいました。我が家の方針では子供におもちゃなどを与えるのは年2回。クリスマスと誕生日。特別な日じゃないのに買ってもらえた驚きと喜びと、「江利子は本が好きだからね」という母親のせりふが私に本が好きということを自覚させたのでした。

そういう風に本が好きだということを自覚した瞬間は覚えているのですが、なぜ本が好きなのかと聞かれると上手く説明できません。仕事だから?趣味だから?もう習慣になっているから?難しいですね。友人とは冗談で、読書という文字が遺伝子に刻まれているのかもねと言い合ったりします。

最後に紹介するのは「チューバはうたう」です。

この本には、また性懲りもなく本屋めぐりをしていたときに出会いました。第一印象は綿矢りさの「蹴りたい背中」みたいな表紙だな、でした。そして帯を見て、そこに書いてあった本文から抜き出した文章に一目ぼれをしました。


「ならば、私が、吹いてやる。」
「私の肺は空気を満たし、
私の内腔はまっすぐに
チューバへと連なって
天へと向いたベルまで一本の管となり、
大気は音に変わって
世界へと放たれるのだ。」


この本には表題作「チューバはうたう」と「飛天の瞳」「百万の星の孤独」の3編が納められています。

「飛天の瞳」はちょっと翻訳を読んでいるような感触。
「百万の星の孤独」はちょっと芝居のシナリオのような感触。

表題作「チューバはうたう」
主人公は、26歳女性。製薬会社勤務。趣味チューバ。
この人は、チューバを吹くということが遺伝子に刻まれてているんだな。という話です。とても鮮やかに描かれています。

「何で好きだか良くわからないけどとにかく好き、受験にも就職にも役立たないけどこれがやりたい」という気持ちは青春小説に良く出てくるのですが、青春というか学生時代が終わった後こそ、趣味とどうやって向き合っていけばいいのかちょっと考えてしまいます。

そういうときに、是非読んでほしい本です。

「横丁カフェ」は「WEB本の雑誌」からコンテンツの提供を受けています。

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